hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

夏樹静子「往ったり来たり」を読む

2008年09月14日 | 読書2
ミステリー作家夏樹静子のエッセイ「往ったり来たり」光文社文庫、2008年5月発行を読んだ。2003年4月文藝春秋発行本の文庫化だ。

30年で100冊以上の小説を書いてきた夏樹静子の2冊目のエッセイだ。個性への自信のなさ、プライバシーを語る気後れ、学生と主婦の暮らししか知らない社会経験不足からエッセイを避けてきたという。そんなことはなく、十分個性的であり、面白い。

内容は、普通の主婦が小説を書きはじめる経緯、作家としての自分の強みの生かし方、ミステリー小説の書き方、そして、私は何かで読んだことがあるが病気の話。いずれも、著者は自身を平凡と言うが、良く考えて行動し、絶え間なく走る頑張り屋であることを示している。
小説つくりに必要で、六法全書などを読み、法律の面白さに魅せられて、法律家になれば良かったと書いているが、著者ならきっと立派な法律家にもなれただろう。

潤いや余韻はないが、簡潔で分かりやすい文章だ。「疾病逃避」の腰痛から完治したとき心療内科の医者から、「せっかちと早口も治したかったですね」と言われたらしいが、会社員なら猛烈社員になっていたのだろう。



私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)
夏樹ファンならもちろん、ミステリーの書き方、病気からの回復の話などすらすら読めて、面白い。文庫本だが字も大きく、年寄りにも読みやすい。



以下、興味を持った点をご紹介。「  」はぬきがき。


作家への道
大学のときにNHKの人気番組“私だけが知っている”のシナリオを書いたことがあったが、結婚し二度と原稿用紙に向かうこともないと思っていた。しかし、子どもができ、「わが子とわが母性とのめくるめくような出会い、・・・、それを書きたいと、突然噴きあげるように思った。」

当時ミステリーに登場する女性は大部分“翔んでる女”だった。足元で遊んでいる幼児を見て、育児、母性の悩みをテーマにミルクの匂いの残る手で書くのが私の強みではないかと思って、「天使が消えていく」を書き、以下、著者が“ジャリ物”と呼ぶシリーズ2作を書いた。「育児に手をとられて外に行けないのは自分の弱みだが、逆手にとれば強みにもなるのではあるまいか」

ミステリーの書き方
アイディアは、「現実の事件や新聞、雑誌、テレビなどの報道、ほかの作家の作品、人の話などの情報から原点を触発される場合が多い。」
「トリックは・・現実的な社会や家庭の日常の中で、人々の盲点をつくカラクリ。」で、それを発想するために「物事を反対側から考えてみる習慣をつけている。」

「プロット(筋、構想)は可能な限り決めてから書く。小説は建造物に似て、きちんとした設計図がなければあとで齟齬をきたすと考えているからである。(それでも)・・書き始めると・・軌道修正を余儀なくされることが多い。恋愛小説作家などでは、「登場人物が勝手に動き出す」という方もいる。・・羨ましくも感じられるのだが。」

(ミステリーではそうはいかないだろうが、ちなみに、村上春樹さんは、以下のように言っている。
「短編は、アイデアひとつ、風景ひとつ、台詞一行が頭に浮かぶと、机に座り書き始める。プロットも構成も必要なし。頭の中にある一つの断片からどんな物語が立ち上がっていくか、その成り行きを眺め、それをそのまま文章に移し替えていけばいいわけです。たいてい数日間で終わります。」
2006年5月13日の私のブログ、「村上春樹「若い読者のための短編小説案内」を読んで」より) 


病気
がむしゃらなオーバーワークがたたり、40代なかば、耳鳴りから始まり、腸閉塞、眼精疲労と続いた。そしてある朝、突然、“椅子”に座れなくなった。二年半苦しんだ後、心療内科の先生から、心身症と判定された。冗談じゃないと聞く耳もたなかった。
半年後、心療内科の病院に2ヶ月入院し、1年の休筆期間を置いて完治した。「ひたすら頑張って走り続けて・・自分では発症の心因は見出せなかった。しかし、・・潜在意識は疲れきって休息を求めていて、・・幻のような病気を作り出してそこへ逃げ込んだ「疾病逃避」だった。」
あとがきで、現在は膝を悪くして、逆に家中に“椅子”を置いていると書いている。




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