イアン・エアーズ Ian Ayres 著、山形洋生訳「その数学が戦略を決める」、2007年11月、文藝春秋発行を読んだ。
原題は、 Super Crunchers - Why thinking-by-numbers is the new way to be smart-。
表紙の裏には、
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「絶対計算」は、専門家を圧倒する
-評論家に代わって ぶどうを収穫した時点でその年のワインの美味しさを予測し
-政治家に代わって その政策がもっともうまくいくかを当て
-医者に代わって 症状からどんな病気にかかっているかを診断し
-映画プロデューサーに代わって どんな脚本が興行収入を極大化するかを提案する
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無作為抽出した膨大なデータを回帰分析するデータ・マイニングにより、ワイン、野球、医療、行政、Amazon、犯罪捜査、映画、教育、銃、バスケットボール、出産に関する実ビジネスに有効な結果を生み出すことができるようになっている。大量データの統計分析の凄さを、これでもか、これでもかと次々と提示する。
医師の診断、裁判官の判決、政治家の政策立案、自治体の施策、ワインの価値判定、映画のヒットするしないの判定、売上を増やす為の販売条件の組合せ、膨大な通話記録から導出した犯人逮捕、公共投資入札での談合の摘発、バスケットボールの試合における八百長の摘発、プロ野球選手のスカウト
また、回帰分析により、直感ではわからなかった意外な事実、“クレジットカード返済遅れ回数と、持ち主が車事故を起こす確率”、“買い物履歴と離婚率”などが浮かび出た。
直感や経験に基づく専門家は、単純、大量なデータ分析には負ける。人間は、自分達が考えているよりも、特殊なケースに引っ張られ、偏りがちなのだ。
専門家のやるべきことは、何が何を引き起こすかについての仮説を生み出すこと、そして統計分析に必要な変数を判断することだ。
題名は誤解されやすい。そもそも、「絶対計算」は訳者の造語では? 手法としては昔からある統計的手法の回帰分析を使っている。ただ、インターネットの普及で簡単に膨大なデータが集められるようになり、コンピュータの進歩で膨大なデータを処理することが可能になったので幅広く実用性が増しただけだ。 その他、二つの確率を統合するこれも昔からのベイズ理論を使っている。
「その数学が戦略を決める」というのも誤訳に近い。原題は、「データ分析屋、数字で考えることが出来る賢い方法」といった意味だ。
著者イアン・エアーズは、経営学部と法学部の両方に籍を持つエール大学教授。データ分析によって問題解決の道筋をつける「絶対計算家」として名高い。
訳者山形洋生は、1964年東京生まれ。東大都市工学科修士課程修了。MIT不動産センター修士課程修了。大手調査会社に勤務のかたわら、広範な分野での翻訳と執筆活動を行なう。
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)
統計学の応用、データ解析などに興味のある人には必須だが、一般の人には、300ページも同じような話がならぶ本は読みきれないだろう。
確かに、多くのビジネスの判断において、本書のようなデータの統計処理をもっともっと利用すべきなのだろう。米国での実例を紹介したこの本を読む限り、日本の経営者はこの面でも大きく遅れている。
訳者あとがきにあるように、日本でもコンビニの品揃え、クレジットカードの異常な使用の報告、アマゾンのお勧め本の提示などでこの手法が使われているが、政治家の政策の効果を評価するなどもっともっと利用して欲しいものだ。もっと早く実施していれば、経済効果がないと認められているバラマキもできなくなり、古い型の政治家、麻生氏も首相になることはないのだから。