hiyamizu's blog

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「第七官界彷徨」を読む

2008年09月05日 | 読書2

尾崎翠著「第七官界彷徨」創樹社1980年12月発行を読んだ。

この本には、初恋、詩人の靴、歩行、こおろぎ嬢、木犀、匂い、山村氏の鼻、アップルパイの午後、途上にて、神々に捧ぐる詩(二篇)の11の短編と、一番有名な第七官界彷徨が収められている。いずれも書かれたのは古く、「第七官界彷徨」は1931年発表だ。

巻末には、著者自身の解説「「第七官界彷徨」の構図その他」と、埋もれていた尾崎翠を発見したともいえる稲垣真美の解説などが付加されている。この巻末部分が一番面白かった。


はっきり言って、私にはぴんとこない小説だ。文章は古いし、生硬で、素人の小説のような表現も多い。しかし、静で、暗く、いじましく、哀感ただよい、どこか隠微で、マンガの世界を思わせる。この小説に、はまり込むマニアックな人がいるだろうことは理解できる。
自然主義華やかなりし当時(多分)、幻想的作品は一部で注目されても、けして主流にはならなかったのだろう。
まず、わけのわからないタイトル、「第七官界彷徨」から怪しげだ。第六感の上の第七感を求めてさまようという意味らしい。



主人公は町子という女の子で、第七官界をなんとか探し出し、詩にしたいと夢見ている。彼女は赤い縮れ毛の少女で、精神分析医の長兄一助、家の中で肥料研究する次兄の二助と、音大受験生の従兄の三五郎と一軒家に暮す、ごく狭い範囲の物語だ。

二助は部屋の中で、こやしを煮て蘚(コケ)を栽培している設定からして異常だ。(そもそも「蘚」という字がコケとは知らなかった)。登場人物も淡い片思いや失恋するばかりで、恋愛に成功して繁殖するのはコケだけというのには付いていけない。
もっとも、著者の三兄が東大農学部で肥料学を専攻し、下宿に実験材料を置いていたというから、まったく理解不能と言うわけではないが、煮たこやしの臭いがやたらと出てくる小説を書くとは!



私の評価としては、★★☆☆☆(二つ星:読めば)
好きな人は五つ星かも。



尾崎翠(おさき みどり)は、1896年-1971年。花田清輝、太宰治ら文学者に絶賛された伝説的作家。鳥取県生まれ。代用教員を辞めて上京して文学活動を始めるために日本女子大に入学し、処女作「無風帯から」が新潮に載る。
孤独と生活苦の中で、頭痛薬の飲みすぎで中毒になる。書き上げた「第七官界彷徨」は一部の文学者からは高い評価を得るが、劇作家Tとの恋愛に敗れる。Tに頼まれた海軍中佐の長兄は、35歳になっていた尾崎翠を厳しく叱り、故郷の鳥取へ連れ帰る。このとき、尾崎翠の文学の時間は止まり、鳥取では神経科の病院に入るなどして二度と小説を書くことはなかった。
「このまま死ぬならむごいものだねえ」との言葉を残し、74歳で長い生ける屍の晩年を閉じた。




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