一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

「百名山」と、所司和晴七段の本

2010-06-09 00:37:21 | 将棋雑記
きのう(8日)の読売新聞朝刊に、「週刊ふるさと百名山」(集英社)の全面広告があった。
「百名山」の書物といえば、昭和39年に発行された、深田久弥(きゅうや)の「日本百名山」が白眉らしい。今年のゴールデン・ウイークで、鹿児島県・吹上浜のユースホステルで同宿になった登山愛好家氏が、
「あの本以降、何人もの登山者が『百名山』本を書いたけど、どんなにいい本でも、やっぱり『百名山』といえば深田久弥なんですよ」
と言った。
同じ山でも時代の趨勢で、「古くなって名山から消える」ことがあるそうだが、登山者が100の山を目指すとしたら、まずは深田久弥のそれに沿うのが、王道なのだという。
それを聞いて、私にも思い当たることがあった。
推理小説のトラベルミステリーといえば、誰でも思い浮かべるのが、松本清張の「点と線」(昭和33年刊)であろう。以降、西村京太郎、津村秀介らがトラベルミステリーを発表したが、それらがいくら名作であっても、私には松本清張の二番煎じしか見えない。とにかく、「点と線」が大傑作だったからだ。
では、将棋界の棋書はどうか。駒落ちの本では、十四世名人・木村義雄著「将棋大観」(税別2,800円)が挙げられる。これは昭和51年の発行だが、八枚落ちから懇切丁寧に講義された名稿であった(初出が木村名人23歳のときと聞いたことがあるが、本当だろうか)。以降、ほかの棋士からもいくつかの駒落ち定跡書が上梓されたが、定番は「将棋大観」だったと思う。
そこに登場したのが、平成12年発行・所司和晴七段著の「決定版・駒落ち定跡」(日本将棋連盟刊)である。「将棋大観」では、上手に都合のいい変化も散見されるらしいが、「駒落ち定跡」は下手の立場から局面を見て、的確な講義がなされている(らしい)。
価格は3,150円と高額だが、LPSA金曜サロンでもこの本を所持している会員が複数おり、私も瞥見したが、簡にして要を得た所司七段らしい解説で、とても分かりやすかった。もちろん上手にとっても必読の書であり、対局相手が棋友だと上手を持つことがある私としても、じっくり時間をかけて、勉強したい本だと思った。
というわけで、内容のみを取れば、「将棋大観」より「決定版・駒落ち定跡」のほうが、前者を凌駕したように見える。
不世出の大名人の著書よりも、定跡の伝道師の著書がバイブルとなった、稀有な例と言えよう。
コメント (5)
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