10日(木)は定時の午後5時に仕事を終え、旅行準備を整えたあと、羽田空港へ向かった。しかし自宅を出るときにネットカフェの会員証を探すのに手間取り、軽食は摂れなかった。
東京モノレールの終着、羽田空港第2ビルで下車。手続きを済ませ、搭乗口待合で、空港内のコンビニで買った弁当を食す。
19:30の出発だが、機材の遅れで出発が10分遅れる、とのアナウンスがあった。私は飛行機も電車も乗るが、飛行機は定時に出発したためしがない。「ない」というのはオーバーだが、印象としてはそうである。時間の正確さは、日本の鉄道が世界一だ。
079便は満員。これは久々の経験である。まさか3連休前夜から札幌入りする人がこんなにいるとは思わなかった。その079便は、さらに5分遅れる、とのアナウンスがあった。
いよいよ機内に入る。私は飛行機の真ん中あたりの座席。飛行機は2-3-2の座席構成で、満席だから左右に人が座っている。どちらも男性で、うっとうしい。
ナナメ後ろのおっさんが、スッチーを呼んで文句を垂れている。怒りの理由が分からぬが、どうも飛行機の遅れについてらしい。
乗客もすべて席に着き、いよいよ飛行機が発とうとしているが、まだおっさんの激高は続いている。まるで聞き分けのない子供のようだ。たとえ航空会社の応対に不手際があったにせよ、たかだか15分の遅れである。そんなものは遅れのうちに入らない。きっと後ろのおっさんは、飛行機に乗り馴れていないのだろう。
飛行機が離陸を完了し、ひとりのスッチーが一礼してベルトを外した。ああっ…か、彼女…!! 彼女は、と、とびきりの美人ではないか!?
後ろのおっさんが、またスッチーを呼んでいる。まだクレームをつけるのだろうか。今度はベテランのスッチーが応対に来た。おっさんの不満が爆発する。バカじゃねえの。ここまでくると、自分の怒りに怒っている感さえある。
あ、さっきのスッチーがいる。ショートボブでかなりの長身、肌の色は透き通るように白く、目がトロンとしていて、綺麗だ。これは私のストライクゾーンに、モロにきた。
別のスッチーがヘッドホンを配りに来たので、借りる。音楽を聴きたいのはもちろんだが、何よりおっさんのクレームを聞きたくないのだ。最近は経費節減のため、ヘッドホンも各座席に置かず、必要な人だけ借りる仕組みになっている。機内誌は紙を薄くして軽量化し、新聞サービスも廃止し、飲み物も一部有料になった。経費削減もいいが、あまり度が過ぎると、乗客離れを起こす。
ヘッドホンのソケットを肘掛けの横でごちゃごちゃやっていたら、誤ってスッチーの呼び出しボタンを押してしまった。ま…まずい!! いやこれ、ときどきやっちゃうんだよなあ…イタズラに思われてしまう。
「どうかなさいましたか!?」
あああっ!! あ、あのスッチー!!
美しすぎるスッチーに突然上から覗かれて、私はどぎまぎしてしまった。
「あああのすいません、ま、まちがえちゃって」
「はい…。ではそこのボタンをもう1回押してください。呼び出し中になってますので」
スッチーはやわらかな笑みをたたえて応える。
「は、はいっ」
私がスッチーマークの上のボタンを押すと、スッチーの灯りが消えた。まったく、とんだハプニングだった。
機長のアナウンスが入る。
「この飛行機は秋田から来たものですが、秋田で遅れがありまして…」
と、飛行機遅延の原因を細かく説明している。機長自らとは異例で、後ろのバカオヤジがあんまり騒いだから、機長が直々に説明したのだろう。
スッチーがワゴンを押して飲み物のサービスにやってくる。向かって右から、中堅のスッチー。やや遅れて、左からもスッチーが来た。ああっ…う、美しすぎるスッチーだ。私は真ン中の席だが、飲み物は右のスッチーからいただくようだ。ま、まあいい。
右のスッチーが私にお茶をくれ、早々と後方に移動する。現在ANAではお茶と水は無料だが、アップルジュースもキャンペーン中で無料となっている。しかしそのほかの飲み物は有料だ。
しかし気のせいかもしれないが、その左側は、有料の飲み物を頼む乗客が多い。美しすぎるスッチーが飲み物をサーブするのに、結構時間がかかっている。私も昔、美人のスッチーにいい所を見せたいがため、買わずもがなの機内販売グッズを買ってしまったことがあるが、その類だろうか。
まあ今回は、それだけ私も美しすぎるスッチーを鑑賞できるわけだから構わないが、そのスッチー、見れば見るほど美しい。往年のアイドル・浜田朱里をベースにして、里見香奈女流名人・女流王将・倉敷藤花をちょっとまぶした感じか。
そんな彼女が徐々に近づいてくる。ああっ…ま、またドキドキしてしまう。
ネームプレートを見る。これはW氏の得意技である。「T田」と読める。T田さん…素晴らしい名字だ。
私はこれまで150回近く飛行機に乗っているが、こんなに美しいスッチーを見たのは初めてでである。彼女はミスコンテストに出場したことはないのだろうか。あれば入賞は確実、その気になれば「ミスコン荒らし」の異名を取ったに違いない。
街を歩いていてスカウトされたことも数知れないだろう。女優だって何だって、彼女が望めばなれたはずだが、彼女はスッチーという職業を選んだ。もちろん、それに足るだけの才能があったわけで、それも素晴らしいことである。「才色兼備」とは、彼女のためにある言葉だと知った。
T田さんは私に最接近すると、当たり前だが、そのまま後方に消えた。
おっさんのクレームは終わったようである。正面のスクリーンでは東MAX(東貴博)と大櫛エリカが、沖縄県南城市を探訪している。私の義理の妹がここ南城市の出身で、私も一度訪れたことがある。あれは歴史を感じる街並みだった。
ヘッドホンからは沖縄音楽が流れてきた。夏川りみが「てぃんさぐぬ花」、BEGINが「竹富島で会いましょう」を歌っている。ああ、北海道へ向かっているのに、沖縄へ行きたくなってきた。夏の石垣島旅行が今から待ち遠しい。
定刻の21時10分、飛行機は新千歳空港に着いた。おっさんにこの後どんな用事があったかは知らぬが、結果的に何の支障もなかったわけである。
最後にスッチーが、飛行機の遅れを改めて詫びた。声の主はT田さんではなかったか。浜田朱里の声と似ていたからだ。お詫びは紋切り型のフレーズではなく、多少オリジナルな単語も混じっていて、このアホなおっさんに謝っているかのようだった。
私は最後にもうひと目、T田さんを見たかったが、それは叶わぬまま、飛行機を降りた。
(つづく)
東京モノレールの終着、羽田空港第2ビルで下車。手続きを済ませ、搭乗口待合で、空港内のコンビニで買った弁当を食す。
19:30の出発だが、機材の遅れで出発が10分遅れる、とのアナウンスがあった。私は飛行機も電車も乗るが、飛行機は定時に出発したためしがない。「ない」というのはオーバーだが、印象としてはそうである。時間の正確さは、日本の鉄道が世界一だ。
079便は満員。これは久々の経験である。まさか3連休前夜から札幌入りする人がこんなにいるとは思わなかった。その079便は、さらに5分遅れる、とのアナウンスがあった。
いよいよ機内に入る。私は飛行機の真ん中あたりの座席。飛行機は2-3-2の座席構成で、満席だから左右に人が座っている。どちらも男性で、うっとうしい。
ナナメ後ろのおっさんが、スッチーを呼んで文句を垂れている。怒りの理由が分からぬが、どうも飛行機の遅れについてらしい。
乗客もすべて席に着き、いよいよ飛行機が発とうとしているが、まだおっさんの激高は続いている。まるで聞き分けのない子供のようだ。たとえ航空会社の応対に不手際があったにせよ、たかだか15分の遅れである。そんなものは遅れのうちに入らない。きっと後ろのおっさんは、飛行機に乗り馴れていないのだろう。
飛行機が離陸を完了し、ひとりのスッチーが一礼してベルトを外した。ああっ…か、彼女…!! 彼女は、と、とびきりの美人ではないか!?
後ろのおっさんが、またスッチーを呼んでいる。まだクレームをつけるのだろうか。今度はベテランのスッチーが応対に来た。おっさんの不満が爆発する。バカじゃねえの。ここまでくると、自分の怒りに怒っている感さえある。
あ、さっきのスッチーがいる。ショートボブでかなりの長身、肌の色は透き通るように白く、目がトロンとしていて、綺麗だ。これは私のストライクゾーンに、モロにきた。
別のスッチーがヘッドホンを配りに来たので、借りる。音楽を聴きたいのはもちろんだが、何よりおっさんのクレームを聞きたくないのだ。最近は経費節減のため、ヘッドホンも各座席に置かず、必要な人だけ借りる仕組みになっている。機内誌は紙を薄くして軽量化し、新聞サービスも廃止し、飲み物も一部有料になった。経費削減もいいが、あまり度が過ぎると、乗客離れを起こす。
ヘッドホンのソケットを肘掛けの横でごちゃごちゃやっていたら、誤ってスッチーの呼び出しボタンを押してしまった。ま…まずい!! いやこれ、ときどきやっちゃうんだよなあ…イタズラに思われてしまう。
「どうかなさいましたか!?」
あああっ!! あ、あのスッチー!!
美しすぎるスッチーに突然上から覗かれて、私はどぎまぎしてしまった。
「あああのすいません、ま、まちがえちゃって」
「はい…。ではそこのボタンをもう1回押してください。呼び出し中になってますので」
スッチーはやわらかな笑みをたたえて応える。
「は、はいっ」
私がスッチーマークの上のボタンを押すと、スッチーの灯りが消えた。まったく、とんだハプニングだった。
機長のアナウンスが入る。
「この飛行機は秋田から来たものですが、秋田で遅れがありまして…」
と、飛行機遅延の原因を細かく説明している。機長自らとは異例で、後ろのバカオヤジがあんまり騒いだから、機長が直々に説明したのだろう。
スッチーがワゴンを押して飲み物のサービスにやってくる。向かって右から、中堅のスッチー。やや遅れて、左からもスッチーが来た。ああっ…う、美しすぎるスッチーだ。私は真ン中の席だが、飲み物は右のスッチーからいただくようだ。ま、まあいい。
右のスッチーが私にお茶をくれ、早々と後方に移動する。現在ANAではお茶と水は無料だが、アップルジュースもキャンペーン中で無料となっている。しかしそのほかの飲み物は有料だ。
しかし気のせいかもしれないが、その左側は、有料の飲み物を頼む乗客が多い。美しすぎるスッチーが飲み物をサーブするのに、結構時間がかかっている。私も昔、美人のスッチーにいい所を見せたいがため、買わずもがなの機内販売グッズを買ってしまったことがあるが、その類だろうか。
まあ今回は、それだけ私も美しすぎるスッチーを鑑賞できるわけだから構わないが、そのスッチー、見れば見るほど美しい。往年のアイドル・浜田朱里をベースにして、里見香奈女流名人・女流王将・倉敷藤花をちょっとまぶした感じか。
そんな彼女が徐々に近づいてくる。ああっ…ま、またドキドキしてしまう。
ネームプレートを見る。これはW氏の得意技である。「T田」と読める。T田さん…素晴らしい名字だ。
私はこれまで150回近く飛行機に乗っているが、こんなに美しいスッチーを見たのは初めてでである。彼女はミスコンテストに出場したことはないのだろうか。あれば入賞は確実、その気になれば「ミスコン荒らし」の異名を取ったに違いない。
街を歩いていてスカウトされたことも数知れないだろう。女優だって何だって、彼女が望めばなれたはずだが、彼女はスッチーという職業を選んだ。もちろん、それに足るだけの才能があったわけで、それも素晴らしいことである。「才色兼備」とは、彼女のためにある言葉だと知った。
T田さんは私に最接近すると、当たり前だが、そのまま後方に消えた。
おっさんのクレームは終わったようである。正面のスクリーンでは東MAX(東貴博)と大櫛エリカが、沖縄県南城市を探訪している。私の義理の妹がここ南城市の出身で、私も一度訪れたことがある。あれは歴史を感じる街並みだった。
ヘッドホンからは沖縄音楽が流れてきた。夏川りみが「てぃんさぐぬ花」、BEGINが「竹富島で会いましょう」を歌っている。ああ、北海道へ向かっているのに、沖縄へ行きたくなってきた。夏の石垣島旅行が今から待ち遠しい。
定刻の21時10分、飛行機は新千歳空港に着いた。おっさんにこの後どんな用事があったかは知らぬが、結果的に何の支障もなかったわけである。
最後にスッチーが、飛行機の遅れを改めて詫びた。声の主はT田さんではなかったか。浜田朱里の声と似ていたからだ。お詫びは紋切り型のフレーズではなく、多少オリジナルな単語も混じっていて、このアホなおっさんに謝っているかのようだった。
私は最後にもうひと目、T田さんを見たかったが、それは叶わぬまま、飛行機を降りた。
(つづく)