一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

泣くな天神、明日があるさ

2011-02-08 00:33:37 | 女流棋士
6日(日)は、テレビのNHK杯将棋トーナメントを横目に、ネットで天河戦挑戦者決定戦を観戦した。天河戦はLPSA主催(株式会社NTTル・パルク協賛)なので、トーナメント参加選手は12名と少ないが、挑戦者決定戦はやはり大一番である。今期の対局者は中井広恵女流六段と松尾香織女流初段であった。
松尾女流初段は初の挑決進出。公式戦も含め、ここ数年はパッとしなかっただけに、ここは松尾女流初段、オンナを上げるチャンスが到来した。
私は現在「LPSA中堅四天王」と片懸賞対決を行っているが、松尾女流初段は攻守にバランスが取れ、4人の中では最も将棋のセンスがあると感じている。松尾女流初段との指導対局の成績もわるく、私の棋力では容易に勝てない。
このブログの愛読者なら、私の心の師匠は藤田麻衣子さん、姉弟子は松尾女流初段、というのはご存じであろう。しかし読者から見ればこの2人は、意外かもしれない。
藤田さんは、私が初めて指導対局を受けた女流棋士だし、観戦記も手掛ける文章の達人だったから、勝手に師匠と位置づけた。
松尾女流初段は、角落ちで初めて指導対局を受けたとき、中盤の折衝で敗勢になり、その将棋は何とか幸いしたものの、女流棋士の強さを思い知らされた。感想戦の教えも的確で、私は松尾女流初段にほとほと感心したのだった。
心の姉弟子が船戸陽子女流二段でも中倉宏美女流二段でも島井咲緒里女流初段でもなく松尾女流初段なのは、この指導対局があったからなのだ。
2010年8月現在の女流棋士ファンランキングでは、松尾女流初段は「圏外」だが、とにかくそうなのである。
そんな松尾女流初段、相手の中井女流六段には、公式戦、LPSA公認棋戦とも対戦成績は分がわるい。
しかし2008年12月の1dayトーナメント「フランボワーズカップ」では、中井女流六段相手に矢倉で堂々と渡り合い、必勝形まで持ち込んだ。結果は無念の逆転負けとなったが、今回も松尾女流初段が持てる実力をフルに発揮すれば、勝利も夢ではないと考えていた。
将棋は後手番松尾女流初段のゴキゲン中飛車となった。中盤の入口まで中井女流六段が十分の形勢に見えたが、松尾女流初段も丁寧に受け、容易に決め手を与えない。
敵陣に作った馬を小刻みに動かし、飛車を閑地に追いやる。これは松尾女流初段、よく戦っていると思った。
やがて松尾女流初段がリードを奪う。その後も一進一退の攻防が繰り返され、勝利の針がわずかに松尾女流初段に傾いたまま、将棋は終盤に突入した。
138手目、☖8六桂の王手に☗8八玉。
絶対王者はときとしてヒールになる。中井女流六段は質実剛健頭脳明晰、ファンにも優しく、私が尊敬する女流棋界のママである。しかし今回だけは、松尾女流初段に勝ってもらいたい。そしてその勝利が、松尾女流初段の目前に迫っているのだ。
松尾女流初段、☖8五銀と銀を取る(疑問手)。ここで中井女流六段、☗6七銀打。この一局の中で、私がいちばん感心した一手である。じっと銀を打たれてみると、先手玉は容易に寄らない(ように見える)。終盤の秒読みの中こんな手を指されたら、私だったら混乱してしまう。
しかし松尾女流初段は踏ん張った。竜で自玉を脅かされながらも、強く角を取る。さらに竜(飛)も手に入れ、160手目、☖6七竜。ただここは☖6七飛成とし、☗同銀なら☖8七銀で寄っていたと思う。とはいえこれでも松尾女流初段の勝ちである。本譜は☗6七同銀に☖9六桂打。中継サイトのコメント欄には、「松尾、ついにやったか!」の文字が躍る。
やむない☗同歩に☖同桂☗同香。ここでドラマが待っていた。
166手目☖9七角。これがいままでの苦労をフイにした大悪手。☗9九玉とナナメに落ちられ、もう詰まない。コメント欄には、「※これでは詰まない。」「なんという結末…。☖9九角ならば詰んでいた。」と冷たく記されていた。
9七に打つなら、銀でも詰んでいた。よりによって詰まない手を指してしまうとは…と外野がほざくのはヤボというもので、疲労のないクリアな頭で局面を見るのと、朝から極度の緊張状態の頭で局面を見るのとでは、見える手も自ずと違う。
ましてや☖9九角は捨て駒だし、あとに銀1枚で詰むとは思えない不利感もある。また☖9七銀以下の詰みも、途中に角捨てがあったりして、結構むずかしい。
しかし138手目☖8六桂の時点では「松尾、生涯の名局か。」とまで書かれたのである。負けてしまっては、なんにもならない。
まったく、松尾女流初段には残念な一局だった。会心の一局を将棋を落とした無念さは、いかばかりか。酒豪の松尾女流初段、6日はヤケ酒でもあおったのだろうか。まあいい。飲んで、飲んで、飲まれて飲んで、飲んで、酔い潰れて眠るまで飲んだら、また将棋を勉強して、出直せばいいのだ。ただしこの悔しさだけは、決して忘れてはなるまい。
松尾女流初段に次にお会いするのは21日だろうか。そのときは、お疲れさまでした、とねぎらおうと思う。全国の天神ファンの代わりに。
コメント (4)
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