朝の10時43分から始まった第4回ペア将棋選手権も、ついに決勝戦を迎えた。対局者は中井広恵女流六段・嘉野満アマペアと島井咲緒里女流初段・城間春樹アマペアである。本命の中井・嘉野ペアに初代1dayクイーンと元奨励会三段が挑むという図だ。スタッフのI原氏が白布を拡げ振駒を行い、中井・嘉野ペアの先手となった。
1局だけだが、選手の配置を記しておこう。
嘉野・中井(先)
盤(時計)
島井・城間(後)
解説は田村康介六段、聞き手は石橋幸緒天河である。
対局場のギャラリーも若干増え、16時15分、対局開始となった。
まずは中井・嘉野アマが居飛車明示。島井・城間ペアは四間飛車穴熊だろう。石橋天河が
「(観客のリクエスト?では)矢倉がいいそうですけれどもー」
と語っていたが、そのころはすでに、島井・城間ペアは四間飛車に振っていた。
ここで中井・嘉野ペアがどうするかと見ていると、☗7八銀と締めた。最後の1局は左美濃でジックリ戦うハラだ。
傍らでは、船戸陽子女流二段が渡辺徳之アマ相手に、どうぶつしょうぎを指している。闘志の炎が鎮まず、もう一勝負というところなのだろう。
16時27分、島井・城間ペアの☖7三金に、石橋天河が
「これは島井さんの手ですね」
と言うのが聞こえる。
しかしこれを指したのは城間アマ。島井女流初段は☖7二飛と袖飛車にすることが多く、☖7三金は指さないと思う。
☖9四歩。これは島井女流初段の指し手だが、これこそ攻撃的な島井女流初段らしい。しかしこの手には田村六段が疑問を投げかける。修業時代、先輩棋士から
「このハシだけは受けないほうがいいよ」
と教えを受けたらしい。☖9四歩は島井女流初段の棋風が指させたものだが、私たちはマネしないほうが無難のようだ。
さらに城間アマ、☖7二金と引く。じっと手を渡すのが元奨励会三段の手。さすがに鍛えが入っている、と思った。
船戸女流二段が、今度は将棋駒を出した。しかし使用している駒数が少ない。これは「5×5」で戦う「ウルトラマン将棋」であろう。ペア将棋敗退の悔しさを晴らすチャンスは、これからいくらでもある。
16時33分。中盤の難所に差し掛かっている。ここでの指し手が勝敗に直結する。4人とも真剣な表情だ。島井女流初段はプリティーな顔立ちだが、この1日ですっかり貫禄がついた感じだ。勝負師の顔がほのかにのぞく。
島井・城間ペアの後ろにアイリスのスタッフ嬢が待機している。彼女はLPSAの公開対局で棋譜読み上げを担当するなどし、私もよく見かける。今回改めて拝見したが、なかなかの美形だと思った。…あれっ!? LPSA全員の女流棋士より上回っているかもしれない。
16時37分、島井・城間アマは☖4四歩。対して☗5三桂成と捨てたのが好手。☖5三同角に☗2四歩と突けては、桂損でも先手を持ちたい感じだ。ただし田村六段の解説では、ここから先手が手を繋ぐのはむずかしい、とのことだった。
☗2三歩の合わせに、島井女流初段、「勝手にして」とばかり☖3三桂。振り飛車は左桂が捌ければ満足である。この桂がどこまで活躍するか。
☗2二歩成の飛車取りに、城間アマが☖4二飛と逃げたのはどうだったか。☗3三とと引いた手が☗4三との飛車銀両取りを見て厳しい。
島井女流初段、取られそうな桂を4五に跳ねる。5七の銀取りだが、6七金のヒモが付いている。中井・嘉野アマは☗6八銀と逃げたが、構わず☗3三とと寄る手もあったと思う。
いずれにしても☖6二飛と逃げるようでは、後手は形勢を損ねた。
16時43分。中井・嘉野アマ、☗4三歩。この垂らしが厳しい。こんな歩だけの攻めで穴熊を崩されては敵わない。先手は金銀4枚の堅陣だし、気の早い人なら、ここで投了してもおかしくない。
しかし島井・城間アマは踏ん張った。☖6六歩☗同金☖6五歩☗同金とつり上げて、☖4二角が3手一組の勝負手。☗4二同とと角は取られたが、☖6五飛と金を取りつつ飛車が捌けては、かなり形勢が縮んだ感じだ。
城間アマ、ハッとしたように、ギャラリーに目をやる回数が多くなってきた。決勝戦だけあって、対局場の観戦客も多くなっている。やはり気になるようだ。
城間アマは2年前のペア将棋選手権では中倉彰子女流初段と組んで決勝に進出したが、石橋幸緒女流四段・遠藤正樹アマに完敗し、涙をのんだ。今度こそは、の意気込みだろう。
しかし形勢は中井・嘉野アマが優勢である。島井・城間アマ、☖7六歩と取りこみ角取り。16時53分、ここで中井・嘉野アマが作戦タイムを取った。いままではなかった、終盤でのタイムだ。これは大きい。検討のしがいがある。
先ほどのアイリス嬢がストップウォッチを片手に前へ出た。彼女は作戦タイムの計測のためにいたのだ。
中井・嘉野ペアは急いで駒を並べる。☗7二角成☖7七歩成☗同銀☖7二金☗同竜☖7一金☗7五竜☖6九飛成☗7二歩☖6一金☗7一銀…。
嘉野アマ「あと何分?」
アイリス嬢「30秒です」
嘉野アマ「あと何分?」
アイリス嬢「ありません」
加藤一二三九段みたいなやりとりに、ギャラリーがドッと沸いた。
中井・嘉野ペアと入れ替わるようにして、島井・城間ペアも作戦タイムに入る。これが本日最後の作戦タイムだ。
☗7二角成☖7七歩成☗同銀☖7二金☗同竜☖7一金。ここで島井女流初段は当然のように☗7三歩と打ち、中井・嘉野ペアの検討手順から分かれた。
しかしここで私が感心したのは、どちらも王手で7七角を取る手(取らせる手)を当然のように考えていたこと。角損よりも、☗7二角成と殺到する順を真っ先に読んだのだ。
終盤は駒の損得よりスピードというが、さすがに女流棋士とアマ強豪だと思った。
対局再開。☖7一金と竜をハジいた手に対し、中井・嘉野ペアは☗7五竜~☗7一銀と、検討どおりに進めてゆく。
ここで城間アマが指した☖5七角が、竜取りと同時に7九にも利かせた好手。☗6六歩に、島井女流初段の☖7四歩がまた玄妙な一手だった。中井・嘉野アマは☗6五竜。大駒はなるべく敵陣から遠いところから利かしたい。中井・嘉野アマもそう考えてひとつ竜を寄ったのだが、この手が明暗を分けることになった。
城間アマ、☖7九角打。これしかない☗9八玉に、どう指すか。☖9五歩では甘いと見ていると、島井女流初段が☖8六桂と放った。この手があったか!!
☗8六同銀直は☖7八竜があるので☗同銀右だが、構わず☖7八竜~☖8八金で、一気に島井・城間アマの勝勢となった。
☖8七銀に、中井・嘉野アマが投了。17時19分、島井・城間アマの嬉しい初優勝となった。
投了以下は、☗6七玉☖6八角成☗5六玉☖5七馬まで。このとき先手の竜が6四にいたら、玉が6五に抜け出せたのだ。苦し紛れに跳ねた☖4五桂も、最後は先手玉の詰みに一役買っている。勝つときはすべての駒が働くものだ。
30分近く遅れての表彰式。田村六段は
「ペア将棋なのに指し手のレベルが高く、ひとりで指しているのかと思いました」
と述べた。
島井・城間ペアと、中井・嘉野ペアに表彰状が手渡される。好局を落とした中井女流六段は、「こんなものでしょう」とサバサバしたものだった。1日5局の真剣勝負は、年齢的にもかなりキツかったと思う。
決勝進出ペア当ての正解者は、なんと2名。今回は必ずしも中井女流六段が有利というわけではなく、予想がバラバラに分かれたからだと思われる。
ちなみにW氏、Tat氏は船戸・渡辺ペアと松尾・野島ペアの進出を予想していた。私も同じ組み合わせだったから、案外このあたりが本命だったのかもしれない。
あらためて優勝ペアのコメントとなる。
島井女流初段は、
「私が無理でも攻めたいところを、城間さんがグッとこらえてくれて、助かりました」
というような言葉を述べた。また城間アマは、
「島井さんはああ言いましたが、私のほうこそ助かりました」
と、パートナーをいたわるコメントを述べた。
島井女流初段は若干感極まった感じ。城間アマも、苦闘の末の優勝に、目頭が熱くなったようだ。実に心温まる光景だった。
女流棋士とアマ強豪が寄り添って将棋を指す姿を見るのはつらく思ったが、実際はそうでもなかった。来年も開かれることがあれば、また観戦に出向きたいと思う。
1局だけだが、選手の配置を記しておこう。
嘉野・中井(先)
盤(時計)
島井・城間(後)
解説は田村康介六段、聞き手は石橋幸緒天河である。
対局場のギャラリーも若干増え、16時15分、対局開始となった。
まずは中井・嘉野アマが居飛車明示。島井・城間ペアは四間飛車穴熊だろう。石橋天河が
「(観客のリクエスト?では)矢倉がいいそうですけれどもー」
と語っていたが、そのころはすでに、島井・城間ペアは四間飛車に振っていた。
ここで中井・嘉野ペアがどうするかと見ていると、☗7八銀と締めた。最後の1局は左美濃でジックリ戦うハラだ。
傍らでは、船戸陽子女流二段が渡辺徳之アマ相手に、どうぶつしょうぎを指している。闘志の炎が鎮まず、もう一勝負というところなのだろう。
16時27分、島井・城間ペアの☖7三金に、石橋天河が
「これは島井さんの手ですね」
と言うのが聞こえる。
しかしこれを指したのは城間アマ。島井女流初段は☖7二飛と袖飛車にすることが多く、☖7三金は指さないと思う。
☖9四歩。これは島井女流初段の指し手だが、これこそ攻撃的な島井女流初段らしい。しかしこの手には田村六段が疑問を投げかける。修業時代、先輩棋士から
「このハシだけは受けないほうがいいよ」
と教えを受けたらしい。☖9四歩は島井女流初段の棋風が指させたものだが、私たちはマネしないほうが無難のようだ。
さらに城間アマ、☖7二金と引く。じっと手を渡すのが元奨励会三段の手。さすがに鍛えが入っている、と思った。
船戸女流二段が、今度は将棋駒を出した。しかし使用している駒数が少ない。これは「5×5」で戦う「ウルトラマン将棋」であろう。ペア将棋敗退の悔しさを晴らすチャンスは、これからいくらでもある。
16時33分。中盤の難所に差し掛かっている。ここでの指し手が勝敗に直結する。4人とも真剣な表情だ。島井女流初段はプリティーな顔立ちだが、この1日ですっかり貫禄がついた感じだ。勝負師の顔がほのかにのぞく。
島井・城間ペアの後ろにアイリスのスタッフ嬢が待機している。彼女はLPSAの公開対局で棋譜読み上げを担当するなどし、私もよく見かける。今回改めて拝見したが、なかなかの美形だと思った。…あれっ!? LPSA全員の女流棋士より上回っているかもしれない。
16時37分、島井・城間アマは☖4四歩。対して☗5三桂成と捨てたのが好手。☖5三同角に☗2四歩と突けては、桂損でも先手を持ちたい感じだ。ただし田村六段の解説では、ここから先手が手を繋ぐのはむずかしい、とのことだった。
☗2三歩の合わせに、島井女流初段、「勝手にして」とばかり☖3三桂。振り飛車は左桂が捌ければ満足である。この桂がどこまで活躍するか。
☗2二歩成の飛車取りに、城間アマが☖4二飛と逃げたのはどうだったか。☗3三とと引いた手が☗4三との飛車銀両取りを見て厳しい。
島井女流初段、取られそうな桂を4五に跳ねる。5七の銀取りだが、6七金のヒモが付いている。中井・嘉野アマは☗6八銀と逃げたが、構わず☗3三とと寄る手もあったと思う。
いずれにしても☖6二飛と逃げるようでは、後手は形勢を損ねた。
16時43分。中井・嘉野アマ、☗4三歩。この垂らしが厳しい。こんな歩だけの攻めで穴熊を崩されては敵わない。先手は金銀4枚の堅陣だし、気の早い人なら、ここで投了してもおかしくない。
しかし島井・城間アマは踏ん張った。☖6六歩☗同金☖6五歩☗同金とつり上げて、☖4二角が3手一組の勝負手。☗4二同とと角は取られたが、☖6五飛と金を取りつつ飛車が捌けては、かなり形勢が縮んだ感じだ。
城間アマ、ハッとしたように、ギャラリーに目をやる回数が多くなってきた。決勝戦だけあって、対局場の観戦客も多くなっている。やはり気になるようだ。
城間アマは2年前のペア将棋選手権では中倉彰子女流初段と組んで決勝に進出したが、石橋幸緒女流四段・遠藤正樹アマに完敗し、涙をのんだ。今度こそは、の意気込みだろう。
しかし形勢は中井・嘉野アマが優勢である。島井・城間アマ、☖7六歩と取りこみ角取り。16時53分、ここで中井・嘉野アマが作戦タイムを取った。いままではなかった、終盤でのタイムだ。これは大きい。検討のしがいがある。
先ほどのアイリス嬢がストップウォッチを片手に前へ出た。彼女は作戦タイムの計測のためにいたのだ。
中井・嘉野ペアは急いで駒を並べる。☗7二角成☖7七歩成☗同銀☖7二金☗同竜☖7一金☗7五竜☖6九飛成☗7二歩☖6一金☗7一銀…。
嘉野アマ「あと何分?」
アイリス嬢「30秒です」
嘉野アマ「あと何分?」
アイリス嬢「ありません」
加藤一二三九段みたいなやりとりに、ギャラリーがドッと沸いた。
中井・嘉野ペアと入れ替わるようにして、島井・城間ペアも作戦タイムに入る。これが本日最後の作戦タイムだ。
☗7二角成☖7七歩成☗同銀☖7二金☗同竜☖7一金。ここで島井女流初段は当然のように☗7三歩と打ち、中井・嘉野ペアの検討手順から分かれた。
しかしここで私が感心したのは、どちらも王手で7七角を取る手(取らせる手)を当然のように考えていたこと。角損よりも、☗7二角成と殺到する順を真っ先に読んだのだ。
終盤は駒の損得よりスピードというが、さすがに女流棋士とアマ強豪だと思った。
対局再開。☖7一金と竜をハジいた手に対し、中井・嘉野ペアは☗7五竜~☗7一銀と、検討どおりに進めてゆく。
ここで城間アマが指した☖5七角が、竜取りと同時に7九にも利かせた好手。☗6六歩に、島井女流初段の☖7四歩がまた玄妙な一手だった。中井・嘉野アマは☗6五竜。大駒はなるべく敵陣から遠いところから利かしたい。中井・嘉野アマもそう考えてひとつ竜を寄ったのだが、この手が明暗を分けることになった。
城間アマ、☖7九角打。これしかない☗9八玉に、どう指すか。☖9五歩では甘いと見ていると、島井女流初段が☖8六桂と放った。この手があったか!!
☗8六同銀直は☖7八竜があるので☗同銀右だが、構わず☖7八竜~☖8八金で、一気に島井・城間アマの勝勢となった。
☖8七銀に、中井・嘉野アマが投了。17時19分、島井・城間アマの嬉しい初優勝となった。
投了以下は、☗6七玉☖6八角成☗5六玉☖5七馬まで。このとき先手の竜が6四にいたら、玉が6五に抜け出せたのだ。苦し紛れに跳ねた☖4五桂も、最後は先手玉の詰みに一役買っている。勝つときはすべての駒が働くものだ。
30分近く遅れての表彰式。田村六段は
「ペア将棋なのに指し手のレベルが高く、ひとりで指しているのかと思いました」
と述べた。
島井・城間ペアと、中井・嘉野ペアに表彰状が手渡される。好局を落とした中井女流六段は、「こんなものでしょう」とサバサバしたものだった。1日5局の真剣勝負は、年齢的にもかなりキツかったと思う。
決勝進出ペア当ての正解者は、なんと2名。今回は必ずしも中井女流六段が有利というわけではなく、予想がバラバラに分かれたからだと思われる。
ちなみにW氏、Tat氏は船戸・渡辺ペアと松尾・野島ペアの進出を予想していた。私も同じ組み合わせだったから、案外このあたりが本命だったのかもしれない。
あらためて優勝ペアのコメントとなる。
島井女流初段は、
「私が無理でも攻めたいところを、城間さんがグッとこらえてくれて、助かりました」
というような言葉を述べた。また城間アマは、
「島井さんはああ言いましたが、私のほうこそ助かりました」
と、パートナーをいたわるコメントを述べた。
島井女流初段は若干感極まった感じ。城間アマも、苦闘の末の優勝に、目頭が熱くなったようだ。実に心温まる光景だった。
女流棋士とアマ強豪が寄り添って将棋を指す姿を見るのはつらく思ったが、実際はそうでもなかった。来年も開かれることがあれば、また観戦に出向きたいと思う。