第4図以下の指し手。▲9四歩△3六歩▲2八銀△9二歩▲7四歩△同歩▲8五桂△4六歩▲同歩△5四馬▲7四飛△7三歩▲7九飛△4六飛▲4七歩△6六飛(第5図)
天から水滴が降ってくる。これは何なのだろう。
左を見れば、Sea Candle入場のお客さんが列を作っている。場合によっては追加料金を払って入場することも考えていたが、私は行列に並ばない主義なので、これはダメである。
つるの剛士アマ三段は、▲9四歩と取り込んだ。これは大きな手だ。ザブングル・加藤歩アマ初段はそれを尻目に△3六歩と叩く。乃木坂46・伊藤かりんさんは、「加藤さんは顔色ひとつ変えてないですね」と感心した。
▲2八銀にそこで△9二歩。
かりんさん「端の攻防は難しいですね。私は端攻めをされるのがイヤで、戸辺先生には5回くらい教わりました」
これには解説の戸辺誠七段も、「端のやり取りはプロでも難しいんですよ」と同意した。
▲7四歩と味をつけ、△同歩につるのアマ三段が秒読みとなった。
かりんさん「ここで秒読みは厳しいですね。私とつるのさんは長考派なんです。つるのさんとはよく指すんですが、深夜の対局で、一局に2時間以上かかったこともあります」
それは大変だが私などは、かりんちゃんと深夜に2時間も指すとは……と、つるの氏を羨ましく感じるのである。たぶんほかの「かりん党」も同じ気持ちであろう。
もうひとりの解説、竹俣紅女流初段はニコニコして、ふたりの引き立て役に徹しているようである。
つるのアマ三段は▲8五桂と跳んだ。今度は加藤アマ初段が考える番だ。「どちらも勝負どころになると、ピタッと手を止めて考える。これはいいことです」
と、戸辺七段。△4六歩もいい味付けで、戸辺七段は後手持ちの見解を示した。
そして△5四馬とじっと引いた手には、「雰囲気が出てますね」。
つるのアマ三段は飛車を縦横に動かすが、加藤アマ初段の飛車も、ついに4六-6六と出動してきた。
第5図以下の指し手。▲2二角△6五飛▲9三歩成△同歩▲同香成△同桂▲7三桂成(途中1図)
△8二銀▲7二成桂△同金▲6六歩(第6図)
つるのアマ三段は▲2二角と駒を蓄えにいった。私ならそこで△3三歩と打ち、反則負けしているところ。加藤アマ初段はもちろん△6五飛と逃げる。
「後手が上手く立ち回って、先手は難しいですね」
と、戸辺七段。
つるのアマ三段は▲9三歩成。
「いい反撃です。ここ▲8六歩は攻めのターンが回ってこないと見ましたね」
そのまま9筋を攻めると思いきや、▲7三桂成(途中1図)とこちら側に成った!
「フェイント使いましたね」
「すごい。私は9三の地点しか見えてないですもん」
と、かりんさんが感嘆する。
つるのアマ三段、▲7二成桂と駒得して、形勢の針を元に戻したようだ。
かりんさんは両者の表情を観察し、「もうそれどころじゃありません」と表現する。「でも加藤さんは、持ち時間をまだ3分くらい残してるんですね」
▲6六歩は、こう指したくなるところであろう。
第6図以下の指し手。△3七香▲4九玉△9五飛▲7四歩△7五歩▲9六歩△同飛▲1一角成△9八飛成▲7五飛△8九竜▲7九香(第7図)
加藤アマ初段は△3七香と放った。「このタイミングで!!」と戸辺七段も叫ぶ。先の△3六歩もそうだが、加藤アマ初段は攻めと受けの手を絶妙に散らす。これは大山康晴十五世名人が得意とするところで、相手側はあっちこっちに注意を払わねばならず、くたびれてしまうのだ。
つるのアマ三段は▲4九玉と逃げたが、▲3七同桂は△同歩成▲同銀△2五桂▲2八銀△3七歩で面倒と読んだか。
△9五飛に、▲7四歩と打った。戸辺七段「玉は包むように上品に寄せるのがよくて、これはいい手です。片方から攻めると、逃げられてしまうんですね」
ただ△7五歩もいい辛抱で、こうなってみると「▲7四歩では▲7三歩でしたか」。
つまり▲7三歩△同銀▲7四歩△8二銀▲○○○なら、一手早く攻められた理屈だ。むかし中原誠十六世名人が若手棋士だったころ、相矢倉の将棋で▲3三歩と叩かず、▲3四歩と垂らしたことがあった。その手を(たしか)芹沢博文九段が注意したものだ。
つまり本局の▲7四歩もそのレベルの緩手であって、1歩を大切にするがゆえに指されたとも云える。じっと拠点を作る▲7四歩は、つるのアマ三段が実力を示した一手なのだった。
つるのアマ三段は飛車筋をズラし、やっと香を補充する。と、加藤アマ初段が、ガバッとお尻を突きだした。
竹俣女流初段が「クラウチングスタートみたいですね」と驚く。加藤アマ初段、正座で足が痺れ、脚を浮かせたというわけだった。その気持ち、よく分かる。
かりんさん「対局中はずぅっと正座じゃなきゃいけないんですか?」
戸辺七段「いえ、あぐらになってもいいんですよ」
だが公開対局の場であぐらもできまい。それでクラウチングスタート?になったらしかった。だがこれはこれで、獲物を狙うヒョウのようでもある。
そして△9八飛成。4二の飛車が、ついに敵陣に侵入した。
第7図以下の指し手。△6三桂▲7八飛△同竜▲同香△7九飛▲5九金△7八飛成▲3一飛△6一香▲7三銀△同銀▲同歩成(第8図)
加藤アマ初段は△6三桂と据えた。「控えの桂」の好手で、私などは▲7三銀を恐れるあまり△6一桂と打ってしまう。が、それは反撃の味がないからダメだ。飛車に当てる△6三桂がいいのである。
つるのアマ三段は▲7八飛と引く。加藤アマ初段の足の痺れはひどいようで、かりんさんが「限界みたい。今は足のシビレとも戦っているんですね」と心配する。
加藤アマ初段が△7八同竜と取ったので、つるのアマ三段の飛車も、相手陣にワープできることになった。
だが、続く△7九飛の王手も大きい。つるのアマ三段は▲5九金と節約して受けたが、ここは手堅く▲5九銀、が戸辺七段の推奨だった。
△7八飛成に、▲3一飛と打つ。ここで加藤アマ初段も秒読みになった。盤上、痺れ、秒読みの波状攻撃である。
加藤アマ初段が△6一香と合駒すると、つるのアマ三段は▲7三銀と殺到した。
あれ……?
(つづく)