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第5図以下の指し手。▲3六飛(か)△2五銀(加)▲5六飛(つ)△3六桂(紅)▲同飛(か)△同銀(加)▲6一成桂(つ)△同銀(紅)▲5八飛(か)(第6図)
対局者4人が段ボールの中を見下ろしている。
「これ、よく考えられていると思うのは、記録係の方向には段ボールが切り取られていて、横からも盤面が見えるんですね」
と、解説の戸辺誠七段。
▲3六飛が、乃木坂46・伊藤かりんアマ初段の棋風を表した手だった。「敵の打ちたいところに打て」で、△3六桂を防ぎつつ△5六銀取りにもなっている。
戸辺七段「やはり△3六桂は打たれたくなかったですか。かりんの自陣飛車ですね。かりんさんはこういう手が好きなんです」
なるほど、私などは飛車をすぐ敵陣に打ってしまうので、これは目からウロコだ。
▲3六飛には△4四桂もありそうだったが、ザブングル・加藤歩アマ初段は△2五銀。以下飛車を取ったものの、先手も▲6一成桂と金を取り、やはり先手が勝勢に見えた。
かりんアマ初段は▲5八飛と活用したが……。
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第6図以下の指し手。△3七銀成(加)▲同桂(つ)△3六桂(紅)▲1八玉(か)△2八角(加)▲2九桂(つ)△4四角(紅)▲2六銀(か)△2四飛(加)(第7図)
というところで、△3七銀成が鋭い。「強い! 厳しい手が来ましたよ。盤上最強の一手だと思います。ここは受けてもキリがないのでね」
▲3七同桂に、ついに△3六桂が実現した。ここでかりんアマ初段の手番だが、こんな切羽詰まった局面では、容易に次の手を指せない。
「ウルトラマンに来てほしい!!」
ついにかりんアマ初段が手を挙げた。戸辺七段へのヘルプ要請である。
「ここですか!? ここ、うーん、そうねえ。ここは拒否します。おふたりで指してください」
「ええー、ダメなんですか!?」
「拒否!? ウルトラマンキョヒ!?」
つるの剛士アマ三段も頓狂な声を上げる。
「そう拒否! ウルトラマンキョヒ」
2人でここまで戦ってきたんだから、最後まで自力で勝ち切ってください、という叱咤激励である。
かりんアマ初段は対局に戻る。そこに小高悠太郎奨励会三段の無機質な秒読みが響く。「20秒…7、8、9」
▲1八玉!!「寄りましたねえ。ギリギリのところで寄りました」
かりんアマ初段は△3六桂を必要以上に恐れたようだが、▲1六歩と突いてあるだけで、かなり延命できるものだ。
△2八角!!「すごい手がきましたよ! 最善手です」
▲2九桂!!「いやーー!! 魅せますね」
戸辺七段も千両役者で、一手一手を盛り上げる。将棋を知らぬ人も、切羽詰まった局面ということは分かるだろう。
△4四角!!「いやーー!! 降りそそぎますね!」
▲2六銀!!「あーーー!! すごいですね!! もう受けるマスがありませんね」
次は加藤アマ初段の手番だが、こちらもパニック状態だ。
「えーーちょっと待って! いま段ボールの中で、スゴイことが起こってるんですよ!!」
△2四飛!!
つるのアマ三段の手番だが、やはりパニック状態である。
「代理の手を使います! 会場の人に指してもらいます! これは先生、可能なんでしょう!?」
「うん、私が指すわけではありませんから……」
ただ局面的にも、代打の一手は双方でこれっきりであろう。よって、人選が重要になってくる。すなわち、つるの・かりんペアは最善手を指してもらいたいし、紅・加藤ペアは悪手を指してもらいたい。
とりあえず挙手を求め、すったもんだの末、つるのアマ三段が男子中学生を指名した。
だが紅・加藤ペアは虫が知らせたのか、彼を拒否する。それで、彼のお母さんに指してもらうことになった。ちなみに、彼に棋力を聞くと、「13歳・アマ四段」の答えが返り、客席がどよめいた。
お母さんに舞台に上がってもらう。母子は厚木から来た、とのことだった。
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お母さんは銀を持ち、ふらふらと盤上に置く。
「▲7三銀!」
自玉は不詰みと見て、敵玉に必至を掛けたのだ。先手もこの手を読んでいたようだ。
お母さんに聞くと、ふだん将棋は指さないが、そこは門前の小僧で、ある程度指し方は覚えてしまったという。歓喜するつるの・かりんペア。息子君の助言もあったようだが、これは良い人選となった。
さて竹俣紅女流初段の手番だが、私なら最後の突撃に出るが……と思ったら、もう先手玉にこれといった王手がかからないのだった。竹俣女流初段は、△7二銀と首を差し出した。
「ブシーーーー!!」
つるのアマ三段が叫び、金を高々と上げる。盛り上がる客席。
「▲8八金じゃい!!!!!」ビシッ!!
加藤「……8八って、ここだけど」
つるの「あっ!! 8二だ8二金!」
▲8二金△6一玉。ここでかりんアマ初段が▲7三銀を高々と掲げた。再び盛り上がる客席。
▲6二銀成!!
これで即詰みで、紅・加藤ペアが投了を告げた。終局は3時19分。
快勝したつるの・かりんペアは嬉しさを爆発させ、「嬉しいです!!」
加藤アマ初段「いやー、すみません、ボクが足引っ張ちゃいました」
竹俣女流初段「私もいい手を導けなくてごめんなさい」
加藤アマ初段「厚木のウルトラの母にやられましたわ」
最後は加藤アマ初段が笑わせて、ペア対局は幕となった。
第7図以下の指し手。▲7三銀(ウルトラの母)△7二銀(紅)▲8二金(つ)△6一玉(加)▲6二銀成(か)(投了図)
まで79手で、つるの・かりんペアの勝ち。
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(つづく)