先日、1日ヒマだったので、昼前にかかりつけの病院に行こうと思った。降圧剤と胃薬をもらうためである。
ところが、バッグから黒の長財布を取ろうとしたら、なかった。そんなはずはないだろうとバッグをひっくり返し、隅々まで調べたが、やはりなかった。
ふだん使いのリュックサックやセカンドバッグを探しても、ない。狭い我が家で私の行動範囲は限られているので、ほかに探すところもない。
最後に財布を見たのは前日の夜9時で、最寄りの駅でSuicaに1000円をチャージし、お釣りの9000円を財布に入れたのまでは覚えている。
ということは、そこで財布をバッグに入れ損ね、エスカレーターのあたりで落とした可能性が高い。しかしまったく気づかなかった。
なぜ1000円をチャージしたか。病院の会計のとき、壱万円札を出すのはアレだと思ったので、わざわざ崩したのだ。そのどうでもいい配慮?がアダとなった。
私はとりあえず最寄り駅の改札口に行く。駅員さんに聞くと、財布の落とし物は届いていない、とのことだった。まあ、そうであろう。
私はダメ元で近くの交番へ行く。だが、やはり届け出はなかった。これで万事休すである。現金は24,000円余。それにクレジットカードの類がいっぱいある。ANA、ヨドバシカメラ、多慶屋、三菱UFJなどである。さらに運転免許証、保険証、各病院の診察券、すべて入っている。
財布を誰かに拾われたとして、いまだに届け出が出ていないということは、現金はすべて使われているだろう。
クレジットカードは暗証番号が必要だから簡単には使われないと思うが、中には暗証番号なしでも使えるところもある。やはり安心はできないのである。
2日後には長崎旅行を控えているのに、どうするんだ!? とにもかくにもおカネを下ろすしかないが、カードを紛失したいま、そのカネがおろせないのだった。
「あなた、運転は毎日します?」
と警官。
「いえ、父親を病院に送っていくときしか運転しませんから」
「ああそうですか。しばらく運転はしないでください」
それから、警官の勧めで、紛失届を書いた。意味はないと思ったが、後日落とし物を届けてくれることもあるという。いや、ないと私は思う。
「日本人はそこまで親切じゃないです」
私は断言した。
ともあれ書類一式を書いて、私は自宅に戻った。もう昼だから午前中の病院は、無理。
財布を無くしたいま、いっぱいやることはあるが、とりあえず多慶屋のクレジットカードを停止してもらうことにした。
ところが、肝心のスマホの電話が使えない。なんだか知らぬが、機内モードになっていた。
それで、黒電話から電話する。オペレーターに繋がり、話始めたところだった。
「一公!」
便所からオヤジの声がした。
あれは数年前、北海道に旅行する直前、ANAカードがないことに気づいた。私はそのまま渡道したが、現地に着き、ANAカードのクレジット機能を停止してもらうよう、スマホから電話を掛けた。
その途中、私のスマホに割り込み電話が何度も入ったが、私は無視し、そのままANAカードを停止した。
が、その電話がオヤジからで、ANAカードが見つかった、とのことだった。私が工場に置き忘れたのを、オヤジが見つけてくれたのだ。しかしもう、遅かった。私がオヤジの電話に出ていたら、再発行してもらうことはなかった。
その轍を踏むまいと、私はオヤジの声に耳を傾けた。すると、私の財布が便所にある、とのことだった。
あ、あった!?
私は慌てて電話を切る。
私はバッグから財布を取り出し、セカンドバッグに移すつもりだった。ところがその途中に便所に入り、財布を窓際に置いたまま、出てきてしまったのだ。まったく記憶になかった。
ああー、でもオヤジが便所に入ってくれて本当によかった。一度クレジットカードを停止しちゃうと、再発行に手間とカネがかかるからだ。
ともあれ、一度は無くしたと思った財布が出てきた。このときのよろこびを思えば、ここまでの悩みなどどうでもよくなった。この瞬間だけは。
ところが、バッグから黒の長財布を取ろうとしたら、なかった。そんなはずはないだろうとバッグをひっくり返し、隅々まで調べたが、やはりなかった。
ふだん使いのリュックサックやセカンドバッグを探しても、ない。狭い我が家で私の行動範囲は限られているので、ほかに探すところもない。
最後に財布を見たのは前日の夜9時で、最寄りの駅でSuicaに1000円をチャージし、お釣りの9000円を財布に入れたのまでは覚えている。
ということは、そこで財布をバッグに入れ損ね、エスカレーターのあたりで落とした可能性が高い。しかしまったく気づかなかった。
なぜ1000円をチャージしたか。病院の会計のとき、壱万円札を出すのはアレだと思ったので、わざわざ崩したのだ。そのどうでもいい配慮?がアダとなった。
私はとりあえず最寄り駅の改札口に行く。駅員さんに聞くと、財布の落とし物は届いていない、とのことだった。まあ、そうであろう。
私はダメ元で近くの交番へ行く。だが、やはり届け出はなかった。これで万事休すである。現金は24,000円余。それにクレジットカードの類がいっぱいある。ANA、ヨドバシカメラ、多慶屋、三菱UFJなどである。さらに運転免許証、保険証、各病院の診察券、すべて入っている。
財布を誰かに拾われたとして、いまだに届け出が出ていないということは、現金はすべて使われているだろう。
クレジットカードは暗証番号が必要だから簡単には使われないと思うが、中には暗証番号なしでも使えるところもある。やはり安心はできないのである。
2日後には長崎旅行を控えているのに、どうするんだ!? とにもかくにもおカネを下ろすしかないが、カードを紛失したいま、そのカネがおろせないのだった。
「あなた、運転は毎日します?」
と警官。
「いえ、父親を病院に送っていくときしか運転しませんから」
「ああそうですか。しばらく運転はしないでください」
それから、警官の勧めで、紛失届を書いた。意味はないと思ったが、後日落とし物を届けてくれることもあるという。いや、ないと私は思う。
「日本人はそこまで親切じゃないです」
私は断言した。
ともあれ書類一式を書いて、私は自宅に戻った。もう昼だから午前中の病院は、無理。
財布を無くしたいま、いっぱいやることはあるが、とりあえず多慶屋のクレジットカードを停止してもらうことにした。
ところが、肝心のスマホの電話が使えない。なんだか知らぬが、機内モードになっていた。
それで、黒電話から電話する。オペレーターに繋がり、話始めたところだった。
「一公!」
便所からオヤジの声がした。
あれは数年前、北海道に旅行する直前、ANAカードがないことに気づいた。私はそのまま渡道したが、現地に着き、ANAカードのクレジット機能を停止してもらうよう、スマホから電話を掛けた。
その途中、私のスマホに割り込み電話が何度も入ったが、私は無視し、そのままANAカードを停止した。
が、その電話がオヤジからで、ANAカードが見つかった、とのことだった。私が工場に置き忘れたのを、オヤジが見つけてくれたのだ。しかしもう、遅かった。私がオヤジの電話に出ていたら、再発行してもらうことはなかった。
その轍を踏むまいと、私はオヤジの声に耳を傾けた。すると、私の財布が便所にある、とのことだった。
あ、あった!?
私は慌てて電話を切る。
私はバッグから財布を取り出し、セカンドバッグに移すつもりだった。ところがその途中に便所に入り、財布を窓際に置いたまま、出てきてしまったのだ。まったく記憶になかった。
ああー、でもオヤジが便所に入ってくれて本当によかった。一度クレジットカードを停止しちゃうと、再発行に手間とカネがかかるからだ。
ともあれ、一度は無くしたと思った財布が出てきた。このときのよろこびを思えば、ここまでの悩みなどどうでもよくなった。この瞬間だけは。