運転手さんはすべてを聞いていて、「終点の深川まで行ったら、営業所まで乗って行ってください」と言った。ありがたいことである。
ルオントからの乗客も私ひとり。まあ、平日に深名線に乗る旅人は相当珍しい。
定刻の5分より早い14時53分、バスは幌加内バスターミナルに到着した。ここで15分の時間調整があり、その間に旅行貯金をする。幌加内には幌加内郵便局があるのだ。ここも何回か貯金したことがあるが、やむを得ない。私が運転手さんに断ると、「ちょっとくらい遅れても待ちますから」と、ありがたいお言葉だった。
郵便局は、ここから徒歩3分くらいのところにあった。「幌加内郵便局」213円。これでひとつの課題がクリアされた。
交流プラザ(バスターミナル)内の蕎麦屋「雪月花」は、もう本日の営業を終了していた。私は2階に上がり、深名線資料館に入る(無料)。ここは冬期間、平日ではなく土日祝が休館日になる、不思議なシステムである。でもそれゆえ、きょうは見学できるのだ。
ここにはもう何度も入っているが、いつも複雑な気分になる。私は鉄道の深名線に乗ったのは1回だけで、代替バスのほうに十数回も乗っているからだ。鉄道よりバスのほうが好きなのか、と言われても仕方ない。
幌加内15時13分発。さてここからが問題である。このバスは深川に16時30分に着く。深川から旭川まではふんだんに特急が走っているが、こんな短距離で特急料金は払いたくない。幸い16時46分に普通列車があるので、その列車に乗りたい。しかし終点深川から営業所までは、どのくらい時間がかかるのか、また、すぐにスマホを返してもらえるのかも問題だった。
雪景色を愉しみながら、バスは16時28分に深川に着いた。最後まで、乗客は私ひとりだった。
「このまま乗っていてください」と運転手さんが改めて言い、私はお言葉に甘える。営業所があまり遠いところにあると面倒だが、バスはいま来た道を戻り、JRの路線を越えると右折した。ふだんは通らないルートに乗車できたから、不思議な体験だ。バスは、わりと駅舎に近いところに止まった。
すると営業所から年配の職員氏が現れ、スマホを差し出してくれた。私はありがたくいただく。書類上の手続きもなかった。
「あのピンクの屋根のところ、あそこにエレベーターがあります。自由通路を通って駅側に出られますから。電車には間に合うでしょう」
至れり尽くせりである。私は日本人だが、日本人の親切が身に沁みた。
深川駅には余裕で着いた。改札口の横にはかつてキオスクがあったが、数年前に撤退し、いまはガランとしている。深川も深名線が廃止され、いくつかレールが剥がされた。深川駅が徐々に衰退しているのが分かる。
旭川行きの普通列車は、3両編成だった。快速エアポートに使用される733系で、ちょっと得した気分になる。旭川には、定刻を6分遅れの17時15分に着いた。
改札を抜けたコンビニキオスクで、道内時刻表を買う。あらかた旅の行程が終わったので必要はないが、旅の記念である。自分自身へのお土産、といえようか。
さて、このあとどうするか。旭川空港からの上りは19時40分である。駅前からの空港連絡バスは、18時06分発・空港着18時45分のに乗ればよい。
買物公園の氷像をゆっくり鑑賞するもよし、シャレた喫茶店で時間を潰すもよし。でも私は、家族亭のそばを食べたかった。早足で店に入り、もりをたぐるくらいならクリアできるのではないか。私はちょっと、勝負に出てみた。
ライトアップされた氷像を横目に、ズンズン歩く。
家族亭には、17時34分に着いた。ここまで約15分かかった。家族亭はもちろん開いていて、私は大もりを頼んだ。ただの「もり」でいいのに、この期に及んでも私は意地汚い。
大もりは17時41分に出された。薬味に天かすが添えられているのが旭川流で、むかし買物公園の近くにあった蕎麦屋も、天かすを付けてくれていた。
私はさっそくかっ食らう。紅花会館のそばほどの香りはないが手打ちの味があり、そばもゆでたてでこしがあって美味い。
4~5分で平らげ、会計である。520円は激安である。
「ここのそばが食べたくて来ました。これから東京に帰ります」
私はなじみの店に行っても無口だが、たまにこんなことを言うのだ。
ここから全力の早歩きで、バスの時間には間に合った。私は勝負に勝ったのだ。
が、肝心のバスが来ない。結果、7分遅れの18時13分に到着した。
それはいいのだが、出発したバスは渋滞に巻き込まれ、なかなか進まない。飛行機に間に合わない、ということはないが、焦ることは焦る。結果、バスは18分遅れの19時03分に到着した。ここから手続きをしなければならないから、けっこうギリギリだった。
と思いきや、運航掲示板にお知らせがあり、積雪の影響で、出発が20時15分になっていた。
スマホのメールにも同様のお知らせが来ていた。これが分かっていれば、この後の最終バスに乗っても大丈夫だったのだが、まあ、早く着いたに越したことはない。
Air Do 88便に搭乗する。ANAを選択しなかったのは大失敗だが、仕方ない。今回はさっぽろも旭川もなよろもスカで、せいわ温泉にも入れなかった。そばだけ食べに行ったようなものだが、リフレッシュできただけでも佳しとしようか。
(おわり)
ルオントからの乗客も私ひとり。まあ、平日に深名線に乗る旅人は相当珍しい。
定刻の5分より早い14時53分、バスは幌加内バスターミナルに到着した。ここで15分の時間調整があり、その間に旅行貯金をする。幌加内には幌加内郵便局があるのだ。ここも何回か貯金したことがあるが、やむを得ない。私が運転手さんに断ると、「ちょっとくらい遅れても待ちますから」と、ありがたいお言葉だった。
郵便局は、ここから徒歩3分くらいのところにあった。「幌加内郵便局」213円。これでひとつの課題がクリアされた。
交流プラザ(バスターミナル)内の蕎麦屋「雪月花」は、もう本日の営業を終了していた。私は2階に上がり、深名線資料館に入る(無料)。ここは冬期間、平日ではなく土日祝が休館日になる、不思議なシステムである。でもそれゆえ、きょうは見学できるのだ。
ここにはもう何度も入っているが、いつも複雑な気分になる。私は鉄道の深名線に乗ったのは1回だけで、代替バスのほうに十数回も乗っているからだ。鉄道よりバスのほうが好きなのか、と言われても仕方ない。
幌加内15時13分発。さてここからが問題である。このバスは深川に16時30分に着く。深川から旭川まではふんだんに特急が走っているが、こんな短距離で特急料金は払いたくない。幸い16時46分に普通列車があるので、その列車に乗りたい。しかし終点深川から営業所までは、どのくらい時間がかかるのか、また、すぐにスマホを返してもらえるのかも問題だった。
雪景色を愉しみながら、バスは16時28分に深川に着いた。最後まで、乗客は私ひとりだった。
「このまま乗っていてください」と運転手さんが改めて言い、私はお言葉に甘える。営業所があまり遠いところにあると面倒だが、バスはいま来た道を戻り、JRの路線を越えると右折した。ふだんは通らないルートに乗車できたから、不思議な体験だ。バスは、わりと駅舎に近いところに止まった。
すると営業所から年配の職員氏が現れ、スマホを差し出してくれた。私はありがたくいただく。書類上の手続きもなかった。
「あのピンクの屋根のところ、あそこにエレベーターがあります。自由通路を通って駅側に出られますから。電車には間に合うでしょう」
至れり尽くせりである。私は日本人だが、日本人の親切が身に沁みた。
深川駅には余裕で着いた。改札口の横にはかつてキオスクがあったが、数年前に撤退し、いまはガランとしている。深川も深名線が廃止され、いくつかレールが剥がされた。深川駅が徐々に衰退しているのが分かる。
旭川行きの普通列車は、3両編成だった。快速エアポートに使用される733系で、ちょっと得した気分になる。旭川には、定刻を6分遅れの17時15分に着いた。
改札を抜けたコンビニキオスクで、道内時刻表を買う。あらかた旅の行程が終わったので必要はないが、旅の記念である。自分自身へのお土産、といえようか。
さて、このあとどうするか。旭川空港からの上りは19時40分である。駅前からの空港連絡バスは、18時06分発・空港着18時45分のに乗ればよい。
買物公園の氷像をゆっくり鑑賞するもよし、シャレた喫茶店で時間を潰すもよし。でも私は、家族亭のそばを食べたかった。早足で店に入り、もりをたぐるくらいならクリアできるのではないか。私はちょっと、勝負に出てみた。
ライトアップされた氷像を横目に、ズンズン歩く。
家族亭には、17時34分に着いた。ここまで約15分かかった。家族亭はもちろん開いていて、私は大もりを頼んだ。ただの「もり」でいいのに、この期に及んでも私は意地汚い。
大もりは17時41分に出された。薬味に天かすが添えられているのが旭川流で、むかし買物公園の近くにあった蕎麦屋も、天かすを付けてくれていた。
私はさっそくかっ食らう。紅花会館のそばほどの香りはないが手打ちの味があり、そばもゆでたてでこしがあって美味い。
4~5分で平らげ、会計である。520円は激安である。
「ここのそばが食べたくて来ました。これから東京に帰ります」
私はなじみの店に行っても無口だが、たまにこんなことを言うのだ。
ここから全力の早歩きで、バスの時間には間に合った。私は勝負に勝ったのだ。
が、肝心のバスが来ない。結果、7分遅れの18時13分に到着した。
それはいいのだが、出発したバスは渋滞に巻き込まれ、なかなか進まない。飛行機に間に合わない、ということはないが、焦ることは焦る。結果、バスは18分遅れの19時03分に到着した。ここから手続きをしなければならないから、けっこうギリギリだった。
と思いきや、運航掲示板にお知らせがあり、積雪の影響で、出発が20時15分になっていた。
スマホのメールにも同様のお知らせが来ていた。これが分かっていれば、この後の最終バスに乗っても大丈夫だったのだが、まあ、早く着いたに越したことはない。
Air Do 88便に搭乗する。ANAを選択しなかったのは大失敗だが、仕方ない。今回はさっぽろも旭川もなよろもスカで、せいわ温泉にも入れなかった。そばだけ食べに行ったようなものだが、リフレッシュできただけでも佳しとしようか。
(おわり)