一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

第29回将棋ペンクラブ大賞・最終候補作、決まる

2017-06-20 00:04:39 | 将棋ペンクラブ
LPSA麹町将棋サロンin DISの22日の第2部は、中倉宏美女流二段の担当。
先日まで1席残っていたのでよほど申し込もうと思ったのだが、グズグズしていたら埋まってしまった。
私は今精神的に最悪で、こういう時こそ宏美女流二段の平安顔に癒されたかったのだが、叶わず。
いつの時も私は決断が遅く、それで損ばかりしている。

   ◇

第29回将棋ペンクラブ大賞・最終候補作が当局から発表されたので、お知らせする。


【観戦記部門】

大川慎太郎 第30期竜王ランキング戦1組1回戦 糸谷哲郎―藤井猛 読売新聞

先崎学 第65期王座戦2次予選 三浦弘行―先崎学 日本経済新聞

内田晶 第41期棋王戦五番勝負第4局 渡辺明―佐藤天彦 共同通信

田中幸道 第88期棋聖戦1次予選 中田功―都成竜馬 産経新聞

北野新太 第66回NHK杯将棋トーナメント2回戦 行方尚史―永瀬拓矢 NHK将棋講座


【文芸部門】

後藤元気・編「将棋観戦記コレクション」(筑摩書房)

安次嶺隆幸「将棋に学ぶ」(東洋館出版社)

中原誠「私の履歴書」(日本経済新聞)


【技術部門】

及川拓馬「全戦型対応!絶対に覚えたい 将棋・囲いの守り方110」(マイナビ出版)

石川陽生「三間飛車名局集」(マイナビ出版)

神谷広志「禁断のオッサン流振り飛車破り』(マイナビ出版)

戸辺誠「石田流を指しこなす本【持久戦と新しい動き】」(浅川書房)


以上である。観戦記部門では、今年はこれがいちばんかなあ…と思った作品が最終選考に残った。また、私が応援しているにもかかわらず「良」とつけた観戦記者の作品も、最終選考に残った。
文芸部門では、読んだ瞬間に「優」をつけたのに、いろいろ考え過ぎて、投函当日に「良」に変えた作品が、最終選考に残った。
なんだかんだ言っても、気になった作品が残ればホッとするものである。
最終選考会は7月15日(土)に行われるとのこと。観戦記、文芸とも、どれが大賞になってもおかしくない。発表を楽しみに待ちたい。
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6月3日の大野教室(後編)

2017-06-19 00:49:56 | 新・大野教室

第2図以下の指し手。▲6六金△5七角成▲5九香△6六馬▲5二香成△7八飛成▲3一金△2二玉▲2一金△1三玉(投了図)
まで、一公の勝ち。

Sar君は▲6六金と銀を取り、△5七角成に▲5九香。このカウンターが狙いだったか。
私は△6六馬と取るよりないが、ここでSar君がちょっと動揺を見せた。が、そのまま▲5二香成。私は構わず△7八飛成。これで先手玉は受けなしで、後手玉が詰むかどうかだ。
が詰みそうになく、であれば私の勝ちである。Sar君はここまで見えての「躊躇」だった。
本譜は△1三玉まで、Sar君が投了。勝った私が、キツネにつままれたようだった。

感想戦。Sar君は▲6六金に代えて、▲5八歩を示した。なるほどこれが好手で、後手の手段をすべて消している。これなら私が負けていた。
いずれにしても私には僥倖だったが、Sar君にはだいぶ逆転負けを喫している。たまにはこんな勝利があってもいいだろう。

7局目はU君と指す。私の先手で▲7六歩△3四歩▲2六歩△4四歩。U君は居飛車党なので、ここから矢倉を目指すのだろう。それで、▲3八銀と上がった。原始棒銀のつもりである。しかしU君は△4二飛! 彼の振り飛車は初めて見たから、心底驚いた。
私は▲3六歩から▲3七銀とし、通常棒銀に戻す。

第1図以下の指し手。▲2四歩△同歩▲1五歩△同歩▲3五歩△4五歩▲3三角成△同飛▲4五歩(第2図)

△3二飛の先受けに▲2四歩~▲1五歩~▲3五歩と仕掛けた。端歩を絡めるのは、加藤一二三九段の指し手をパクった。
U君は△4五歩と反撃し、私は▲3三角成。△同飛にじっと▲4五歩と戻した。

第2図以下の指し手。△3二飛▲2三角△1一角▲6六銀△6五歩▲7七銀△5五歩
以下、U君の勝ち。

U君はじっと△3二飛と引いたが、渋い。振り飛車党の指し手に見えた。
私は▲2三角と打ったが、あまり考慮にない手を指してしまい、よくなかった。
U君は△1一角。△1二香型を活かした手で、これにも唸った。私は▲6六銀と上がるよりないが、U君は△6五歩~△5五歩とし快調。ただし形勢は互角で、居飛車も指せている。
が、この後私はじりじりと形勢を損ね、終盤、私の守りは銀1枚になってしまった。U君も小駒ばかりになったが、ここで△5六歩▲同銀△5七金とした手が厳しく、以下数手で私の投了となった。
感想戦は大野八一雄七段と佐藤氏をまじえ行い、第2図で△3五歩と指したら? がテーマとなった。
私は▲2二歩△1三桂▲2一歩成の予定だったが、大野七段らは▲2一歩成で▲1五銀を示す。たしかにそうで、棒銀を捌かなければ話にならない。
もっとも世間では棒銀が評価されていないから、この進行でもすぐに振り飛車がよくなると思った。が、どの変化も居飛車がおもしろいのだ。大野七段も「おかしい」を連発したが、しまいには「端歩の突き捨てが入ると居飛車も指せる」という評価に変わった。
加藤流恐るべし、であった。

今日は土曜日にもかかわらず客が少なく、もう相手がいない。私はここまで4勝3敗で、この最悪の状態で勝ち越すとは、勝負事は分からないものだ。
U君のお母さんが見えた。お母さんにお会いするのは久しぶりで、相変わらずお綺麗だ。
みなでしばしおしゃべりを楽しむ。お母さんが息子さんの将棋に寄せる期待は大きいが、奨励会に入れる気はないようだ。もっとも今は、アマ棋界で活躍すれば、プロへの道も開かれている時代である。のんびりやればよいと思う。
さて、食事である。今日の参加は大野七段、W氏、Fuj氏、私の4人。いままでありそうでなかったメンバーで、珍しい。
時間がたっぷりあるので、ガストに行った。席に座り、Fuj氏が割引券を提供してくれたので、そのメニューを頼んだ。
食事をした後、例によっておしゃべり。私は現在、仕事も私生活も精神状態も崖っ淵なので話は弾まないが、Fuj氏は将棋、麻雀、競馬と、どんな話題でも主役でしゃべりまくる。まるでマシンガン口調で、何かに憑りつかれたようだ。聞き役のW氏は黙って相槌を打っているが、私なら話題を変えているところである。
私は大野七段と話した。私が「仕事がなくなって張り合いがない」と愚痴ると、大野七段も「私も引退したあとはそうでした」と同調してくれた。
ここには書けない、腹を割った話もして、私は精神的にラクになった。私が大野教室に来る理由、それはこのひとときにあると言っても過言ではない。
その後も4人のおしゃべりは続き、11時50分すぎにガストを出た。が、最終1本前の電車に乗り遅れ、私たちは改札の前で再びおしゃべり。しかしいくらなんでも話しすぎで、よくネタが尽きないものだと、我ながら呆れた。
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6月3日の大野教室(中編)

2017-06-18 01:31:17 | 新・大野教室
17日は大野教室に行った。Kaz氏との対局で、終盤私の▲5三歩(図)にKaz氏は△4二金寄とし、▲5二銀以下私が勝った。

しかし△4二金寄では△6六金もしくは△3六桂の勝負手があった。
△6六金以下の後手の理想手順は、▲5二歩成△3六桂▲同歩△5五角で後手勝ち。
△3六桂には▲1八玉と寄って逃げていると思ったが、相当あぶない。
Kaz氏は「一公さんの名局」とホメてくれたが、かようなわけで、私には不満が残る内容だった。
この将棋は後日紹介します。

(きのうのつづき)
私は棋友との対戦成績は記録していないが、Fuj氏とのそれは分かる。
なぜならFuj氏がかつて、私との勝敗数をいちいちつぶやいていたからだ。最初は私が大きく負け越していたがその後追い上げ、私の14勝15敗までこぎつけた。30局目の対戦は私が勝勢になったのだが、ここで痛恨の時間切れ負け! タイに持ちこむはずが、また星2つの差になってしまった。
その後私が連敗し、現在14勝18敗。これ以上負け越すことはできず、本局は正念場なのだった。
私の先手で▲7六歩△8四歩。相居飛車は指したくなかったので、中飛車に振った。
Fuj氏は△5三銀から△7二飛。

第1図以下の指し手。▲7九金△3三角▲6八金△7五歩▲同歩△同飛▲7六歩△7四飛▲5七金△7三桂▲7八飛△8六歩▲同歩△6五歩(第2図)

私は大山流で▲7九金と引いたが、ここはもっと構想を練るべきだった。
Fuj氏は△7五歩とせず、△3三角と待つ。それならと私は▲6八金と上がったが、この動きはよくなかった。
Fuj氏が1歩を手にして△6五歩としたからで、この仕掛けを軽視していた。

第2図以下の指し手。▲6五同歩△同桂▲3三角成△同桂▲5八金引△7七歩(第3図)

厳密にいえば、▲6五同歩に△同桂を軽視した。私は角を換えるしかないが、金取りの後手を引いたのが痛いのだ。
こんなことなら△6五歩には▲6八飛とし、△6六歩▲同金と応じればまだしもだった。
本譜は▲5八金引に△7七歩が厳しく、私は考え込んでしまった。

第3図以下の指し手。▲7七同桂△同桂成▲同飛△8八角▲7八飛△9九角成▲7五歩△8四飛▲7四歩△7七歩▲6八飛△7四飛(投了図)
まで、Fuj氏の勝ち。

第2図で私は▲8三角が楽しみで、△6五の桂はできればタダで取りたい。だから△7七歩には▲9八飛と逃げたいが、△8八歩▲同飛△7九角でわるいと思った。
いまいましいが▲7七同桂と取る。だが△8八角の飛車香両取りが厳しく、ここで指す気が失せた。
それでも私は力を振り絞って▲7八飛から▲7四歩と指したが、△7四飛まで投了。あーあ、つまらぬ将棋を指してしまった。

感想戦。Fuj氏は第2図で▲9八飛を考えたというが、たんに△7九角と打たれて先手わるい、の結論になった。
右銀を上がって△6五歩、はFuj氏の得意戦法だが、こんなシンプルな仕掛けで振り飛車が潰れるのは、私の指し方があまりにもわるかったということ。序盤が雑で、悔いが残った一局。

続いてTaga氏と一局。社団戦が迫っているからか、Taga氏も私と平手戦を所望した。しかも今回は時間ハンデもなしときた。
将棋はTaga氏の、角道止めず四間飛車。私が△4四歩と止め、玉頭位取り戦法を採った。
中盤、Taga氏の指し手がむずかしいと思ったが、▲5五歩△同歩▲同角から▲7三角成と切り込んだのが見事だった。以下△同桂▲同飛成△8一飛で駒損になるが、次に▲3四桂の王手角取りがあって、十分攻めが成立したのだ。

しかしここからTaga氏がグズり、第1図は私が優勢。ここから△4六角成▲同歩△3六桂▲1八玉△2八金まで、私の勝ちとなった。
Taga氏も強いのだが、簡単な詰みの有無ぐらいは読んでもらわないと困る。詰将棋をどんどんこなすべきだ。
3時半過ぎにHon氏が来たので、彼の指導対局中に、社団戦に出たい旨を告げた。
もう申し込み期間は過ぎているので微妙だったが、Hon氏は特例を認めてくれた。ありがたいことである。私が参加するのは第1日目のみの予定だが、当日は渡部愛ちゃんによろこんでもらえるよう、がんばる。

6局目はSar君と指す。Sar君も強いが、中飛車しか指さないので作戦は立てやすい。ところがそれが勝利に結びつかず、ここまで私の1勝10敗前後である(勝ち星だけは憶えている)。
本局もSar君の先手中飛車。私は急戦で迎え撃ったが、若干指し手がおかしく、こちらの模様がわるくなった。

第1図以下の指し手。△8八飛▲7八角△6六銀▲5六金△1三角(第2図)

ここでの指し方がまったく分からず、△8八飛とおろしたが▲7八角と受けられ、非勢に陥った。
私は△6六銀から△1三角だが、こんな手しかないようでは負けと思った。
ところが…。

(つづく)
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6月3日の大野教室(前編)

2017-06-17 00:05:38 | 新・大野教室
3日(土)は大野教室に行った。昼から入るのは久しぶりだ。
教室に入ると、大野八一雄七段は4面指しの最中。奥の和室では、Fuj氏が指していた。とはいえ土曜日にしては客が少ない。
早速大野七段のところに入る。角落ちの手合いで数手指したが、指導対局が終わった新人氏が出たので、この将棋は中断し、私と彼が指すことにした。
場所を和室に移し、Fuj氏の隣で指す。Fuj氏の相手はSar君で、好取組である。
新人Koba氏とは私の二枚落ち。手合い係・W氏の目が光っているので、私は大人しく△3二金~△2二銀と上がった。しかし右の金銀でどう指すのかという話だが、私は△8五金から△9五歩と端攻めをし、何とか勝負になった。
中盤、私が△2八角と桂香取りに打ち、さらに飛車取りに追う。Koba氏は飛車を逃げ回ったがこれが逸機で、強く飛車角交換に応じればよかった。下手は角を持てば、▲5一角の王手金取りがあったからだ。
その後私がうまくごまかし、第1図。

ここでKoba氏は▲6八金と上がったが、私は△5七香と打ち、▲同銀△4九竜▲5九桂△5八銀▲同金△7八金まで、Koba氏の投了となった。
戻って第1図では、▲6八玉と上がられるのがイヤだった。以下△7八金ならヒョイと▲6七玉で、相入玉のニオイとなる。
よって私は△7八歩成▲同金△同香成▲同玉△7六銀とするつもりだったが、これは上手自信がなかった。
Fuj―Sar戦はSar君が快勝していた。Fuj氏の珍しい拙局だった。
私は大野七段との対局に戻る。この間にほかの指導対局は全て終わり、1対1での対局となった。これでは早くも下手劣勢である。
△3二玉までで指し掛けだったが、私は2四の飛車を手拍子で▲2五飛と引いてしまう。今日は▲2六飛型で戦うつもりだったので、これは失敗した。
私は▲2六飛とあらためて引き、▲3五歩。しかし大野七段の△8六歩▲同歩△同飛に▲7五歩と突こうとして、待ったになってしまった。
私はひねり飛車を目指し▲7七桂と跳ねる。しかし上手に△7四歩と突かれ、▲7五歩を阻まれては構想が破綻した。

第1図の▲9七角にはある狙いがあったが、大野七段はまず△9四歩。
私は▲3四歩。もし△3四同歩なら▲同飛△3三銀▲5四飛△同銀▲6四角で勝負、という読みだが、大野七段はもちろん△9五歩ときた。私は▲3三歩成△同銀としたが、▲2五桂には△9六歩が厳しく見えて、▲8八角とひるむ。以下△9六歩▲9八歩(第2図)で下手にいいところがなくなり、以下5手で投げた。

もう感想戦をやるレベルではないのだが、下手は▲2六飛~▲3六飛と構え、▲6八銀~▲5九金とし戦機を伺うのがよかったという。
また本譜▲8八角で▲2五桂なら、△3五歩▲同飛△3四歩で先手を取るつもりだったとのこと。
いずれにしても私の完敗で、こんな将棋を指してばかりいるようじゃ、マジで手合いを飛車落ちに戻してもらわねばならない。

3局目はKob君と指す。この前は角落ちだったが、今日は平手である。こういう、「この前まで駒落ちの手合いだったのに、気が付けば平手」というケースは実に多い。子供たちの成長の早さを示すものである。
将棋は▲7六歩△3四歩▲1六歩△9四歩▲1五歩△9五歩という探り合いを経て、Kob君の居飛車、私の四間飛車となった。
Kob君は急戦を目指し、私は応じる。しかしKob君もうまく指し、第1図はほぼ互角。

第1図以下の指し手。△2三飛▲4五銀引△同銀▲同銀△同金▲3四銀(第2図)

▲2四角を防いで△2三飛はしょうがないと思う。しかしKob君に▲4五銀引から▲3四銀と打たれ飛び上がった。△4五同銀では△4五同金が正着で、これなら駒得が確定していた。

第2図からの指し手。△2五歩▲6六飛△5六歩▲4八角△5七銀▲同角△同歩成▲同金直△5六歩▲同金△同金▲同飛△2四飛▲3五銀△2二飛▲4四銀△3九歩成▲2三歩(第3図)

私は△2三飛も△4五金も取られたくないから、△5六歩以下シャニムニ攻める。ごちゃごちゃやって△4五金が捌け、一段落。余裕の出た私は△2四飛と浮いたが、Kob君が▲3五銀と投入してくれたので、ここでよくなったと思った。
とはいえ▲2三歩にはどうするか。

私は思い切って△同飛と取った。対して▲同銀不成なら△4五角の予定だった。
よってKob君は▲5四歩と突きだしたが、△5二歩と受けてこの交換は私が得をしたと思った。

局面は進んで第4図。ここから△5八飛成▲同玉△6八金▲5七玉△5八金打まで、私の勝ち。
感想戦では、第3図からの△2三同飛に▲同銀不成と取り、△4五角に▲3六飛で先手有望、の結論になった。
ということは、第3図は後手がいいわけではなかったようだ。
いずれにしてもKob君、ちょっと前のヤル気のなかったころから比べれば長足の進歩で、これはどうしたことだろう。今や私といい勝負とは、繰り返すが、子供の伸びは恐ろしい。

ここで3時休み。今日はKoba氏のほかに新規のお客さんがもうひとりいるが、その人は先の渡部愛女流初段との指導対局で、この教室を知ったという。
お客はあれからU君が加わったのみで、これからHon氏が来るにしても、今日は1ケタの客数で終わりそうだ。
ところで現在、藤井聡太四段旋風で、中学生のU君にもクラスで注目が集まっているという。
私の時分は、将棋部は陰気なクラブの代表格で見向きもされなかったが、時代は変わったのだ。
3時休みが終わり、W氏が「Fujさんと指す?」と聞いてくる。私に拒否する理由がないので、もちろん応じた。
(つづく)
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工場の近況報告

2017-06-16 01:02:57 | プライベート
我が工場(こうば)の近況報告をしておこう。
ウチにはおもな得意先が2つあり、そちらに廃業を伝えたのが1月下旬である。手紙には3月末日を廃業としたが、それまでには関連作業がひととおり終わると考えた。
だが2月上旬に最後の注文がドドドと入り、予定が狂った。フルに作業をしても3月中の納品は無理で、一部は4月にズレこむことになった。ただ私は仕事を失いたくなかったから、作業が長引くのは大歓迎、むしろもっと発注が欲しいくらいだった。
あれは3月下旬のことである。得意先A社の担当(女性)から電話がかかってきた。いつも発注している製品を、いまから追加発注できないだろうか、という内容だった。
これはウチの主力製品で、1回注文があれば売り上げはウン十万円になる。この製品は構造が複雑で、代替の会社が簡単に造れる代物ではない。A社がウチから金型を引き取る前に、最後の注文を出したいと考えたのも無理はなかった。
しかしこの電話を受けたのが珍しくオヤジで、もう仕事に執着がないオヤジは断った。
運命のいたずら、というのはいつの時もある。もし私がいる時に電話が来たら、間違いなく私が出て、オヤジを説得して受注したはずだ。その売り上げも大きいが、まだ仕事を続けられるうれしさのほうが大きかったからだ。
そして何より、相手の希望も叶えてあげたかった。だがオヤジはドライだった。
4月中旬、最後の納品をA社にした時、女性担当者を呼んでもらった。表向きは最後の挨拶だが、先の製品の話が出てきたら、受けちゃおうと思ったのだ。
だが女性担当はこの4月から配置替えになっており、発注云々の話どころではなかった。
これですべてが終わった。ウチは工場内の整理を始め、もう納めようのない半製品等を徐々に処分し始めた。
だがその1週間後、A社の上役がウチに訪ねて来た。先日の製品の注文ができないかというのだ。
今度こそ私はオヤジを説得し、上役に受注する旨を伝えた。これでもう少し「寿命」が延びることになり、私は心から安堵した。
その翌日、半製品がまだ残っていたので、それを加工するべく、久しぶりにプレス機を動かした。工場がでっかい騒音に包まれ、心なしかオヤジと叔父は、うれしそうだった。何しろ二人とも戦後から55年以上、この仕事をやってきたのだ。スンナリ辞められるはずがない。
だが、私がゴールデンウイークの旅から帰ってきても、まだ正式な注文は来なかった。
発注が来てから材料を注文すると、時間を食ってしまう。5月8日、ウチは受注を待たずに、材料を発注した。
問題が発生したのはその翌日である。A社の別の担当から、例の製品の金型を引き取りたい、という電話があった。
だが、今この金型を持っていかれたら、製品が作れなくなる。
…ということは、この製品を造る会社が見つかったということだ。そこに任せるから、ウチの製品はもう必要ない、ということだ。
じゃああの上役との話は何だったのだ? 直々に頼みに来たから、オヤジだって首をタテに振ったんじゃないか。本来なら、上役から詫びの電話があって然るべきだろう。
実はこういう身勝手なところがA社にはある。今回の廃業にあたり、直接の要因はオヤジが病を得たことだが、間接的な要因のひとつは、この会社の自分勝手な社風だった。もう、ついていけなくなったのだ。
ウチは材料屋にキャンセルを申し出た。材料だって数万の売り上げになるから先方もいい顔はしなかったが、最終的には了承してくれた。
ともあれいきなり仕事を取り上げられて、この時は本当にショックだった。
こうなったらA社に、一刻でも早く残りの金型を引き取ってもらいたい。でないとウチが正式に廃業できないのだ。
ちなみに得意先B社は、4月中旬にすべての金型を引き取り、製品の在庫をひとつ残らず買い上げてくれた。あまりの手際のよさに、私たちはいたく感心したものである。
A社とB社の売り上げは7:3くらいだったが、土壇場の対照的な対応により、ウチの両社への評価は、天と地ほどに開いてしまった。
そんな5月の下旬、またA社の上役がひょっこり訪ねてきた。前回とは別の製品を、1,000個造ってもらいたいというのだ。
ウチにその金型は残っていたので注文の可能性も考えてはいたが、まさかの展開である。
だが今回はさすがに、私たちも眉唾で聞いた。もう、この上役の言うことは信用できないからだ。
だが今回は杞憂で、正式な注文が翌日にあった。ウチは即金を条件に材料を仕入れ、オヤジらは再びプレス機を動かした。
ちなみに私はプレス機をほとんど動かしていない。これは私がこの仕事を始めた時からそうで、息子に危険な機械仕事をさせたくない、というオヤジの強い信念からだった。
だから私は製品の梱包作業を中心にやっていたのだが、このぬるま湯的環境に私が満足してしまったことが、今回の廃業の遠因になったともいえる。
つまり自分が永久にこの仕事を続けたければ、オヤジを説得して機械仕事を覚えたはずで、それをしなかったのは、この仕事から逃げていたのだ。
結局、廃業のいちばんの原因は、私にあったのだ。
ともあれまたもや、工場内にプレスの音が響き渡った。私はビデオカメラを持ち出し、オヤジが機械を動かしているところをビデオに収めた。
パーツ品が揃うと、ここから私の仕事である。パーツをひとつに組み立てるのだ。だが1,000個という小ロットだから、その作業も2日間で終えてしまった。あとは納品日(26日)に納めればいいが、これは16日に納めるつもりだ。
そんな15日、誰かが表で話していた。ひとりはウチの叔父のようだ。…この前は久しぶりに機械が動いていたけど…とか聞こえる。「…もう仕事は止めたのかい?」
「そうだね。もう体が容易じゃない」
「オレも古い人間だから。このあたりは工場の音が聞こえてないとさびしいやね」
「昔はこの辺に工場もいっぱいあったけどね。いまはウチだけになっちゃった。だけどウチももう、ダメだ」
「この前は機械の音を聞いて、まだ仕事やってんだなと思ったけど、そうかい。音が聞こえねぇと、逆に静かでいけねえ」
いまは保育園の園児の声が騒音になる時代である。古くからの住人とはいえ、ウチのプレス音を佳く思っていた人がいたとはありがたい。そして、私がもっとマジメに働いて、この工場を少しでも長生きさせてあげればよかったと悔やんだが、もう遅かった。

今月末には動力の契約を打ち切る予定である。泣いても笑っても、16日が正真正銘、最後の納品となりそうだ。
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