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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

名人に香車を引いた男

2011-01-08 19:53:51 | 読んだ本
升田幸三 2003年 中公文庫版
もうひとつだけ将棋つながりで。
昨日おとといので私が大山ファンだと思われたら何なんで、やっぱ大山だしたら、こちらも出さなきゃってことで「升田幸三自伝」。
現役を退いたあと、雑誌連載された口述をもとに昭和55年に出版された本の文庫版ってことだが。
そりゃあ、人間の生きざまとしたら、大山より升田のほうが全然おもしろいです。
なんせ天才だから。
ほんと天才ってのは、このひとのことぢゃないかと、残されたものを読むたびに思う。
この自伝の最初にも、生まれたときに漢方医で骨相学をやる親戚が「この子は奇相である。すごい運勢をもっている。」って言ったって話があるけど、伝わるところによれば、実際に会ったひとは、その独特の迫力にみな圧倒されたらしい。
昔の武芸の達人(宮本武蔵とか?)とかはこんなんだったんぢゃないだろうか、みたいなたとえをよくされてたみたいだけど、とにかくそういうオーラがあったそうな。
古今東西、歴史上の人物もふくめて、会ってみたい人間をあげろと言われたら、私はまちがいなく升田幸三をあげると思う。
ちなみに、戦後の何だかの人気投票で、1位が古橋廣之進(フジヤマのトビウオ)で、2位が升田幸三ってことで、狭そうな将棋の世界の住人なのに、当時の日本人のヒーロー的存在のひとりだったらしい。
いま誰なんでしょうねー? イチローとか? それはそれで天賦の才の持ち主だと思うけど、イチローとか、それこそ羽生とか、べつにそんなに会ってみたいと思わないんだよね、私の個人的感覚では。やっぱ、升田幸三のほうが面と向かってみたら魅力的だと思う。(「ブワッカ(馬鹿)!」とか言われちゃうんだろうか、言われてみたいよね)
で、自伝は、やっぱおもしろいです。
そもそもが将棋指しになるために家出するとっから始まりますから。近年のエリートたちとは違います。
この家出のときに「名人に香車を引く」って書き置きを残したことは有名で、でも「名人より強くなるまで故郷(広島)に帰らない」みたいなニュアンスで広まってるとしたらそれはウソで、ここに本人が書いてあるとおり「この幸三、名人に香車を引いて勝ったら大阪に行く」が正しい。
本人が“どういう意味か判然としない”と言っちゃってる文なんだけど、「勝つために大阪に行く」という意味ではないともハッキリ言っている。広島に名人がいるだろうから、それに勝ったら、さらに大阪に行くという、少年当時の思いではないかというのが、どうやら正解らしい。
その他、若いころの話とか、時の第一人者=木村名人に挑んだ話(これは戦いの前後の舌戦とかあって、今の時代にはありえない非常に面白い対決)とか、戦後GHQに談判した話とか、エピソードいっぱい。
大山に勝って、名人・三冠王になったところがクライマックスになってて、その後についてはサラっと流してるだけなんで、升田ファンなら読んでて「ついに名人に香車を引いた」ってとこに共感できる、気持ちいい半生記だと思います。
コメント
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