月島三丁目の同じ町内において、「月島三丁目南地区再開発(月島三丁目27~30番、高さ190m50階750戸)」と「月島三丁目北地区再開発(月島三丁目18番~24番、高さ199m59階1120戸)の二つの大規模マンション開発が同時期に行われる計画が浮上しています。
南地区では、再開発準備組合の理事の皆様と地権者・借家人含めた地域住民との間で、同じ住民同士の膝を突き合わせた話合いの準備作業中です。
北地区では、住民有志と再開発準備組合事務局との話合いが、12月15日(金)19時~あすなろの木(月島三丁目30-4飯島ビル1F)で予定されています(参加自由)。
現時点での両再開発の問題点を整理致します。
第1、第一種市街地再開発事業など大規模な公共事業を行う以上は、地域住民を排除することなく、その開発計画の素案の段階から、地域住民の声を反映させながら作成すべきことについて
第一種市街地再開発事業など大規模な公共事業を行う際は、その影響の大きさから、地権者・借家人そして周辺住民の三者がまちづくりに参加し、三者それぞれの合意形成を経てなされていく必要があります。
しかし、現行の区の街づくりにおいては、市街地再開発施行区域内の地権者の一部の者だけでまちづくりの案が検討されるのみで、まちづくりの素案の検討に際し、その再開発に影響を受ける地域住民からの意見を反映させる機会が存在していません。例えば、月島三丁目南地区再開発では、地域住民がその開発計画を知らされたのは、本年4月27日であり、区が都市計画原案説明会を9月20日に行うわずか5ヶ月前でした。
中央区も主催者の位置づけで地元の再開発協議会など開催をし、開発計画などの素案の作成にかかわっているにも関わらず、検討事項の情報が、区民への還元がなされていません。このような姿勢は、全体の奉仕者であるべき(憲法15条2項)中央区が、一部の地権者への奉仕者となっているとみなさざるを得ません。
自らの土地建物だけで建替え工事をするのであればまだしも、公園や区道も自らの事業のために用いることになる大規模な公共事業です。日影・風害等周辺の地域住民に対し及ぼす悪影響も甚大です。地権者でまちづくりを進めてよいことの法的根拠を区に問うても、法定の再開発組合等ができた場合の条文である『都市再開発法2条の2』をあげるのみであり、前段階である準備組合などにおける根拠づけはなされないままです。
大阪学院大学法学部教授安本典夫氏著書の『都市法概説』(3版53頁)によると、「「膨張する都市に規制・誘導を加えることによって適正な市街地形成を図る」ことから、「ストックを活かして都市のアメニティ・個性づくりと活性化を図る」ことへと、都市政策の重点が移り、その下で、その場所の個性等を最も良く知る住民、その場で様々な活動を行う主体が、決定過程で積極的な役割を担うことが期待される」とあり、「対話型都市計画理論」が必要とされる時代になっています。
日本国憲法92条の住民自治の考えかたに基づけば、まちづくりに参加する権利は、地権者・地域住民に平等にあります。新基本構想の理念からしても、開発計画の素案の検討も地域住民参加のもと進められるべきです。公共事業である市街地再開発の開発計画作成にあたり地域住民を排除するのではなく、素案の段階から、地域住民と共に考える民主的な対話型のまちづくりに中央区も転換すべきと考えます。
第2、月島三丁目南地区再開発事業は、現行の「地区計画」の「目標」、「地区施設の整備の方針」、「建築物等の規制・誘導の方針」に該当していないことについて
月島三丁目南地区再開発事業の都市計画手続きである公告縦覧が11月24日に締め切られたところですが、この大規模再開発は、現行の「月島三丁目地区地区計画」の「地区計画の目標」でいう「細い街路の拡幅整備などで、良好な街並みの形成」を行うことに合致していません。「地区施設の整備の方針」も、「路地を活かして地区施設を配置し、歩行者専用の通路として整備する。」とあり、「相当規模の一団の土地の面的整備」の必要性への記載がなく、「建築物等の規制・誘導の方針」においても同様です。
現行の「地区計画」では、記載がなく想定をしていない大規模な開発がなされようとしており、法律に基づく行政の原理が適用されるならば、「地区計画」に反する開発行為であり検討の余地がないことになります。
しかし、今回の都市計画案では、本年8月24日開催の「月島地区まちづくり協議会」で、配布資料に記載もなく、議論がなされていなかったにも関わらず、「地区計画の目標」や「整備の方針」「建築物等の規制・誘導の方針」に「相当規模の一団の土地の面的整備」の内容を、「月島地区まちづくりガイドライン」策定にかこつけて記載が加えられ、あたかも南地区再開発が、地区計画でも認められているかのように体裁を整えようとしています。
地区計画に沿わない大規模な計画をするのであれば、まず、地区計画のほうを、都市計画審議会を経て先に大規模の計画を許容する形に変更し、その後、その地区計画に則った開発計画を検討するべきであると考えます。地区計画にそぐわない開発計画だからと、地区計画の方を開発計画に合わせて変更可能にするとすれば、その地区計画のもつ意味が形骸化させる行為となり、法治主義の原理から絶対に許されないと考えます。
「ガイドライン」に合わせた月島各地区の地区計画の変更はこれからまちづくり協議会で話される議題であり、月島三丁目地区地区計画のみ先行して「ガイドライン」を反映させることは、まちづくり協議会の検討も経ていないために手続き上もできないと考えます。
第3、住宅750戸(南地区)や1120戸(北地区)を供給することは、区全域で準備作業中の急激な人口増に対応するための地区計画改定方針に反することについて
急激な人口増に対応するため、住宅による容積率緩和をしないようにする地区計画の改定方針を本年9月に中央区は打ち出しました。その方針に則り、現在、中央区全域でまちづくり協議会を開催し、地区計画の改定に向け、準備作業中です(「月島地区まちづくり協議会」は、12月5日18時半~「アートはるみ」で開催)。
しかし、南地区や北地区を含め月島地域の各再開発は、容積率を緩和して、いずれも住宅の大規模供給が行われようとしており、人口増を抑えるという地区計画改定の方針に明らかに反しています。規模を抑えるどころか、月島第一小学校の学校区(通学区域)を変更してまで、住宅の大規模供給を許容することは、本末転倒ではないでしょうか。
第4、都市計画手続を開始の是非を判断するにあたり、地権者の9割の同意率達成を条件とする慣習法の堅持について
月島地区の市街地再開発事業においては、施行区域内の地権者の同意率が9割で都市計画手続きに入っています。例えば、月島一丁目3・4・5番地区90.7%、勝どき五丁目地区94.3%、月島一丁目西仲通り地区89.8%、豊海地区97.3%など実際に9割で都市計画手続きに中央区が入って来ました(平成29年10月決算特別委員会 資料198参照、最後に掲載)。住民説明会や都市計画審議会においても同意率は重きが置かれている現況から、言わば9割の達成は、慣習法となっていると考えられます。
このことは、嫌が負うでも施行区域内の地権者の土地建物を法的強制力をもって取り上げてしまう市街地再開発事業の性格上、多数決ではなく、ほぼ全員の同意で事業を行うためであるとともに、もうひとつ大切なこととして、民間の一任意団体に過ぎない準備組合の提案を地域の提案として地区計画に反映されるべきことの正統性を示すためであると考えます。
各再開発準備組合の皆様もご存じのように、月島地区の過去の市街地再開発事業において、同意率を9割を達成することを指導してきた事実が現にあります。今後の市街地再開発においても、月島地区においては、中央区まちづくり行政の慣習法ともいうべき同意率9割は、堅持をしていくべきことは当然であると考えます。
また、地権者の重要な意思の表明である同意書は、慎重に取り扱うべきであると考えます。すなわち、同意書の集め方についても、「出していないのはあなただけだから」「もう決まったことだから」と準備組合コンサルタントに言われて提出してしまったことを後悔し、同意書撤回をされた方が月島三丁目南地区ではおられました。同意書は、準備組合が集めるものでも、区が回収するものでもなく、地権者自身の手により区に提出がなされるべきものであり、また、「同意書の提出の有無」や「同意の可否」の個人情報は、区の責任において厳重に管理がなされるべきと考えます。
付け加えて、準備組合での議案「都市計画決定の依頼書の提出について」等の都市計画の手続きを開始することを中央区に要請することの是非を問う重要な総会決議を取る際も、挙手の方法では賛成・反対の意思がお互いに知れることになり個人情報保護の観点からは、そのような決議は、無効な決議と言えます。きちんと、選挙の時のように投票の秘密を厳格に保護した無記名投票の形をとるべきです。
第5、月島三丁目南地区再開発の同意率が7割台で正統性を欠くことについて
月島三丁目南地区の同意率は、現在、7割7分と8割にも届いておらず、前述第4の9割の慣習法に則るのであれば、都市計画手続きが進められる状態にありません。また、同地区では、地域住民と準備組合理事とのお互い住民同士で、まちづくりのあり方について、膝を突き合わして話し合いをもつことが協議中です。同意率9割の達成や住民同士の話し合いの結果を待たずして、区が独走して手続きを進め、都市計画審議会へは付議することはできない状態にあります。
月島三丁目南地区再開発の事業内容の正当性についても疑義が生じています。すなわち、南地区に接して防災広場約2300㎡の公共施設がすでに整備され、建て替えによる更新も現行地区計画に則りなされており、南地区は、都市再開発法3条の市街地再開発施行区域要件に該当しない可能性があります。
そもそも、「なぜ、190m50階750戸の住宅が必要であるのか」と道行くひとは疑問を投げかけます。再開発を中止し代替案の検討を求める請願賛同者160名、再開発へ予算執行の差止める住民監査請求82名、再開発の中止を求める署名470名に上っており、住民監査請求に続いて「都市再開発法の施行区域要件に反し違法である事業への補助金支出をしてはならないとする差止めの住民訴訟」が11月24日に提起されました。
一方、同24日まで公告縦覧がなされた都市計画案の「理由書」において、国土交通省『都市計画運用指針』で「理由書」に記載すべきこととなっている「規模の妥当性」についての記載がなされていません。『月島三丁目南地区第一種市街地再開発事業』の規模の妥当性について、未だに区は区民が納得できる形での説明責任を果たしておりません。
また、代替案の検討が、具体的に十分なされたのか、なされていないのであれば、都市計画審議会に諮る前に、代替案を含めた検討を十分になされるべきと考えます。代替案で地域の課題が解決されるのであれば、日影や風害等地域住民に及ぼす弊害が大きく且つ地権者にとっても背負うリスクが膨大な超高層の案をわざわざ採用する理がなくなります。
第6、月島三丁目北地区再開発の商店街等への深刻な影響について
北地区の計画では、高さ199m59階建て1120戸と、南地区のさらに1.5倍の規模を有する巨大開発であり、その施行区域の南側は、月島西仲通り商店街4番街に面しています。
この大規模再開発がなされると、西仲通り商店街の連続性が途絶え、また、多数の路地が壊され、路地長屋の雰囲気で情緒を醸し出していた商店街の良さが半減することに直接繋がります。結果、この情緒を楽しみにして訪れる観光客も半減すると考えます。
また、北側の第二種住居地域には、深刻な日影被害が生じます。
南地区同様、地域コミュニティの崩壊、月島の地域資源であり重要な財産である路地長屋の街並の消失そして、商店街の存続の危機に影響を与える以上、大規模な再開発は中止し、路地を活かした低層の再生を行うべきと考えます。北地区においても、代替案は十分に検討がなされてきたことの提示を区は怠っています。
第7、同じ町内での大規模な二つの再開発を考えた場合の、同時工事に伴う過度な住民負担について
南地区の工事期間は、平成33年から平成36年(2021~24年)の4年間、北地区の工事期間は、平成34年から平成37年(2022~25年)の4年間で、合計すると5年間の期間、特に3年間は両方の工事が小さな月島三丁目の町内において同時進行で行われることとなります。
現在、西仲通り商店街2番街で行われている高さ125m36階503戸の「月島一丁目西仲通り地区」、南地区の約0.7倍の規模ですが、このひとつの再開発事業に伴う騒音・振動でさえ耐えられないと月島の住民から悲鳴が上がっています。月島三丁目北地区と南地区の両再開発が始まってしまうと、特に、4面のうちの2面が工事で挟まれることとなる月島三丁目13番~17番、20番、26番、27番等にお住まいの住民の皆様にとって、生活の平穏が脅かされることになってしまうことは明らかです。
同じ町内のほぼ隣接する二つの大規模な再開発の同時進行は、ありえないと考えます。行うのであれば、都市計画決定の最終判断をする区の責任おいて、両方の工事に伴う騒音・振動・工事車両通行等の影響を合わせて評価し、健康や平穏な生活のレベルに影響が出ないことを、環境影響評価の手法に則って、事前に確かめる必要があると考えます。
第8、佃・月島の路地長屋を再生し十年後の世界遺産登録について
佃・月島といえば、その街の財産は、江戸の街割りを残した路地や長屋です。この路地の空間は、生活するものにとっても、近隣とのコミュニケーションの場であるとともに、月島を訪れる外来者の目を楽しませるものであります。
この木密の路地を逆に整備をし、佃・月島の路地長屋を再生したうえで、世界遺産の登録を目指そうという動きが地元でもあります。再開発問題が生じて以来、地域住民が、「愛する月島を守る会」の名のもとで、今までに16回にわたり月島の再生のありかたについて開かれた形の議論がされて来ています。
超高層再開発では、今まで培われてきた月島の顔の見えるコミュニティが、そのコミュニティは認知症やご高齢の方を見守る力を有しているにもかかわらず、崩壊してしまいます。風害、日影被害も大きく、防災面でも長周期地震動や長周期パルスに対する建物自体の脆弱性があり、共用部分の防火対策があっても、各戸の中には燃える物が多数存在し火災災害の危険性もまた消えていません。高額の管理費や修繕積立金など将来の不安や将来の建て替え費用など持続可能性があるとは到底言えません。あまりにも多くの弊害を超高層再開発は生んでしまいます。
超高層大規模再開発ではなく、今ある月島三丁目の再開発の機運を生かし、南地区1.0haと北地区1.5haを合わせた2.5haの規模を活用して、小規模の再生で路地をよみがえらせ、十年後の世界遺産登録を目指すべきと考えます。
月島築島百周年を記念し地元の先人の皆様が25年前に作成・発行された『月島百年史』に描かれる未来の月島像は、まさに月島らしさを守った低層の街の更新でした(閲覧ご希望の方はお声掛け下さい。区立図書館にも所蔵有り。)。既存の中高層住宅の資産価値をも下げてしまうほどの超高層開発乱立ではなく、先人の皆様の思いを継承し、既存住宅の価値を上げる街の魅力を高める月島の再生を、今こそ提言していくべき時だと考えます。
以上
*次回第17回「愛する月島を守る会」は、12月11日(月)19時~あすなろの木(月島三丁目30-4飯島ビル1F)で開催予定。
*『月島三丁目北地区再開発問題』について、「準備組合事務局」との話し合い、12月15日(金)19時~あすなろの木(同上)で開催予定。両会ともに参加自由。ご関心のある方、奮ってご参加、ご意見願います。