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自分の考えは大勢順応ではないか。時代のわなに陥らないためには、そう自問し続けるほかない。

2018-10-21 23:00:00 | シチズンシップ教育
 自分の考えは大勢順応ではないか。時代のわなに陥らないためには、そう自問し続けるほかない。

 自分自身も常に気をつけねばならないことのひとつにしています。


******朝日新聞20181021*******
https://digital.asahi.com/articles/DA3S13733239.html
(日曜に想う)大勢順応という時代のわな 編集委員・大野博人
2018年10月21日05時00分

 「赤狩り」旋風が吹き荒れていた1951年の米国で奇妙な実験があった。

 大学の教室に集めた7人から9人の学生に2枚のカードを見せる。1枚目には直線が1本、2枚目には長短の異なる3本が並んで描かれている。このうち1本だけが1枚目の直線と同じ長さだ。

 学生たちは、その1本が3本の中のどれかと問われる。長短はかなりはっきりしている。ふつうならまちがえる率は1%に届かない。

 だが、グループの学生のほとんどが「サクラ」で本当の被験者が1人だけだとどうなるか。「サクラ」は事前に指示されたとおり同じ誤った答えを口にする。そのときただ1人事情を知らない学生の反応は?

 多数派に引きずられて答えを誤る率が36・8%に上った。だれも同調を強制していないし、答えが違っても罰則はないにもかかわらず、である。

 社会の多数派の声がどれほど個人の判断に影響するか。それを考えるために、心理学者のソロモン・アッシュ博士が行った有名な実験だ。

 55年の米科学誌に掲載された博士の報告によると、多数派への同調の理由は一様ではない。自分がまちがっていると信じた人もいれば、全体の和を乱すのを恐れた人もいたらしい。自分に欠陥があると思い込み、それを隠そうとした例もあったという。

 コミュニケーション技術が発達して、人々の考えが操作され同意へと誘導される時代だからこんな研究をしておく必要がある、と博士は述べている。

     *

 コミュニケーション技術はその後、さらに飛躍的な発達を遂げた。博士の心配は深刻な現実となった。

 ネット社会では、人はしばしば少数派に陥ったような心細さに襲われる。まるで半世紀以上も前の教室で孤立した学生のように。

 たとえば米国のトランプ大統領を賛美するネット空間に入り込めば、違和感を抱いても判断が揺らぐ。メディアが真実を突きつけても「フェイクニュース」だと信じる側に傾く。森友・加計問題は大した話ではない、という言説があふれるところに身を置くと、なにやらそんな気がしてくる。

 直線の長短の判断でさえ、多数派と違えばぐらつく。より複雑な政治や社会の問題ではなおさらだろう。

 今、内外の政治を包む空気は右傾化やナショナリズムの高まりと呼ばれることが多い。けれど、むしろ支配的なのは大勢順応の気分ではないか。

 自民党の総裁選挙では、安倍晋三氏への支持は党員票では55%だったのに国会議員では82%という高さだった。ネット空間ではないけれど、永田町もまた狭く閉じられた空間なのだろう。そこで大勢順応に流されていく議員たちの心の動きが透けて見えるような数字だ。

 もっとも、少数派だけが集う空間に浸れば、今度はそこでの多数派に影響されるかもしれない。

 同調を重ねながら、人は自分の意見を見失っていく。

     *

 なぜ人々は世界のひどい現状を受け入れるのか。問題は人々が反抗することではなく、従ってしまうことにある――。

 そんな視点から現代を読み解いた本が昨年、フランスで話題になった。著者はパリ政治学院のフレデリック・グロ教授(政治思想)。政治的隷属や市場への服従、大勢順応などの歴史と思想をたどる。米国の同調実験にも触れている。

 みんなの意見に溶け込んだときの「綿毛で」くるまれるような心地よさ、その「地味で自発的な大勢順応」がもたらす危うさ。教授は「あなたの代わりに考えることはだれにもできない」と「従わない」姿勢の意義を強調する。

 アッシュ博士によると、実験で一貫して正しく答え続けた被験者は約4分の1。この人たちも心理的な圧力は感じたけれど、はね返したのだという。

 自分の考えは大勢順応ではないか。時代のわなに陥らないためには、そう自問し続けるほかない。
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