地方分権の必要条件は、多くのかたが認めるところだと思います。すなわち、よりきめ細かな政治、住民自治を可能にするという必要性。
では、地方分権を可能にする十分条件はなにか。
そのひとつは、そして、それは最も重要なところかと思いますが、地方分権を支えるに耐えうる行政主体があること、例えば、きちんと条例を制定する力を有する行政主体があることが求められるところと思われます。
条例のあり方が判示された裁判において、最高裁で、行政学の専門家であった藤田裁判官が、大いなる苦言を呈されています。
<広島市暴走族追放条例事件>
【事件番号】 最高裁判所第3小法廷判決/平成17年(あ)第1819号
【判決日付】 平成19年9月18日
裁判官:裁判長裁判官・堀籠幸男,裁判官・藤田宙靖,裁判官・那須弘平,裁判官・田原睦夫,裁判官・近藤崇晴
******関連法令******
憲法
第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
○2 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
第三十一条 何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。
広島市暴走族追放条例(平14広島市条例39号):最後に掲載
該当条文 16-1、17、19
****************
5人の裁判官で3人の多数意見で、条例は、違憲ではないとされましたが(違憲ではない3名:違憲である2名)、判決文「この判決は,裁判官堀籠幸男,同那須弘平の各補足意見,裁判官藤田宙靖,同田原睦夫の各反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見によるものである。」とあるように、藤田氏、田原氏の二人が反対意見を述べられました。
藤田氏は、その反対意見での苦言。
「本件は,当審が敢えて合憲限定解釈を行って条例の有効性を維持すべき事案ではなく,違憲無効と判断し,即刻の改正を強いるべき事案であると考える。」との強い口調です。
地方分権を実現するために、条例をきちんとつくる能力がどこの自治体でも求められます。
*******該当部分抜粋*********
裁判官藤田宙靖の反対意見は,次のとおりである。
多数意見は,本条例19条,16条1項1号,17条等について,これらの規定の規律対象が広範に過ぎるため本条例は憲法21条1項及び31条に違反するとの論旨を,いわゆる合憲限定解釈を施すことによって斥けるが,私は,本件においてこのような合憲限定解釈を行うことには,賛成することができない。
いうまでもなく,日本国憲法によって保障された精神的自由としての集会・結社,表現の自由は,最大限度に保障されなければならないのであって,これを規制する法令の規定について合憲限定解釈をすることが許されるのは,その解釈により規制の対象となるものとそうでないものとが明確に区別され,かつ合憲的に規制し得るもののみが規制の対象となることが明らかにされる場合でなければならず,また,一般国民の理解において,具体的場合に当該表現行為等が規制の対象となるかどうかの判断を可能ならしめるような基準を,その規定自体から読み取ることができる場合でなければならないというべきである。この点多数意見は,本条例2条7号における「暴走族」概念の広範な定義にもかかわらず,目的規定である1条,並びに5条,6条,そして本条例施行規則3条等々の規定からして,本条例が規制の対象とするのは,専ら社会的通念上の暴走族及びそれに準じる者の暴走行為,集会及び祭礼等における示威行為に限られることが読み取れる,という。しかし,通常人の読み方からすれば,ある条例において規制対象たる「暴走族」の語につき定義規定が置かれている以上,条文の解釈上,「暴走族」の意味はその定義の字義通りに理解されるのが至極当然というべきであり(そうでなければ,およそ法文上言葉の「定義」をすることの意味が失われる),そして,2条7号の定義を字義通りのものと前提して読む限り,多数意見が引く5条,6条,施行規則3条等々の諸規定についても,必ずしも多数意見がいうような社会的通念上の暴走族及びそれに準じる者のみを対象とするものではないという解釈を行うことも,充分に可能なのである。加えて,本条例16条では「何人も,次に掲げる行為をしてはならない」という規定の仕方がされていることにも留意しなければならない。多数意見のような解釈は,広島市においてこの条例が制定された具体的な背景・経緯を充分に理解し,かつ,多数意見もまた「本条例がその文言どおりに適用されることになると,規制の対象が広範囲に及び,憲法21条1項及び31条との関係で問題があることは所論のとおりである」と指摘せざるを得なかったような本条例の粗雑な規定の仕方が,単純に立法技術が稚拙であることに由来するものであるとの認識に立った場合に,初めて首肯されるものであって,法文の規定そのものから多数意見のような解釈を導くことには,少なくとも相当の無理があるものと言わなければならない。
なお,補足意見が指摘するように,被告人の本件行為は,本条例が公共の平穏を維持するために規制しようとしていた典型的な行為であって,多数意見のような合憲限定解釈を採ると否とにかかわらず本件行為が本条例の規定自体に違反することは明らかである。しかしいうまでもなく,被告人が処罰根拠規定の違憲無効を訴訟上主張するに当たって,主張し得る違憲事由の範囲に制約があるわけではなく,またその主張の当否(すなわち処罰根拠規定自体の合憲性の有無)を当審が判断するに際して,被告人が行った具体的行為についての評価を先行せしむべきものでもない。そして,当審の判断の結果,仮に規律対象の過度の広範性の故に処罰根拠規定自体が違憲無効であるとされれば,被告人は,違憲無効の法令によって処罰されることになるのであるから,この意味において,本条例につきどのような解釈を採ろうとも被告人に保障されている憲法上の正当な権利が侵害されることはないということはできない。
私もまた,法令の合憲限定解釈一般について,それを許さないとするものではないが,表現の自由の規制について,最高裁判所が法令の文言とりわけ定義規定の強引な解釈を行ってまで法令の合憲性を救うことが果たして適切であるかについては,重大な疑念を抱くものである。本件の場合,広島市の立法意図が多数意見のいうようなところにあるのであるとするならば,「暴走族」概念の定義を始め問題となる諸規定をその趣旨に即した形で改正することは,技術的にさほど困難であるとは思われないのであって,本件は,当審が敢えて合憲限定解釈を行って条例の有効性を維持すべき事案ではなく,違憲無効と判断し,即刻の改正を強いるべき事案であると考える。
***********************
広島市暴走族追放条例
公布:2002(平成14)年3月28日広島市条例第39号
施行:2004(平成14)年4月1日(附則但し書き:2002《平成14》年5月1日)
第1条(目的)
この条例は、暴走族による暴走行為、い集、集会及び祭礼等における示威行為が、市民生活や少年の健全育成に多大な影響を及ぼしているのみならず、国際平和文化都市の印象を著しく傷つけていることから、暴走族追放に関し、本市、市民、事業者等の責務を明らかにするとともに、暴走族のい集、集会及び示威行為、暴走行為をあおる行為等を規制することにより、市民生活の安全と安心が確保される地域社会の実現を図ることを目的とする。
第2条(定義)
この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
1 自動車等 道路交通法(昭和35年法律第105号。以下「法」という。)第2条第1項第9号に規定する自動車及び同項第10号に規定する原動機付自転車をいう。
2 少年 少年法(昭和23年法律第168号)第2条第1項に規定する少年をいう。
3 保護者 少年法第2条第2項に規定する保護者をいう。
4 公共の場所 道路、公園、広場、駅、空港、桟橋、駐車場、興行場、飲食店その他の公衆が通行し、又は出入りすることができる場所をいう。
5 暴走行為 法第68条の規定に違反する行為又は自動車等を運転して集団を形成し、法第7条、法第17条、法第22条第1項、法第55条、法第57条第1項、法第62条若しくは法第71条第5号の3の規定に違反する行為をいう。
6 示威行為 多数の者が威力を示して行進又は整列をすることをいう。
7 暴走族 暴走行為をすることを目的として結成された集団又は公共の場所において、公衆に不安若しくは恐怖を覚えさせるような特異な服装若しくは集団名を表示した服装で、い集、集会若しくは示威行為を行う集団をいう。
8 暴走族追放 暴走族による暴走行為等の防止、暴走族への加入の防止、暴走族からの離脱の促進等を図ることにより、暴走族のいない社会を築くことをいう。
第3条(本市の責務)
本市は、第12条の規定による基本計画に基づき、暴走族追放に関する総合的かつ広域的な施策を策定し、これを実施する責務を有する。
第4条(市民の責務)
市民は、この条例の目的を達成するため、前条の規定による施策に協力するよう努めなければならない。
第5条(保護者の責務)
保護者は、暴走族が少年の健全な育成を阻害するおそれがあることを踏まえ、その監護に係る少年を暴走族に加入させないよう努めるとともに、当該少年が暴走族に加入していることを知ったときは、当該暴走族から離脱させるよう努めなければならない。
第6条(学校、職場等の関係者の責務)
学校、職場その他の少年の育成に携わる団体の関係者は、その職務又は活動を通じ、相互に連携し、当該団体に属する少年を暴走族に加入させないよう努めるとともに、当該少年が暴走族に加入していることを知ったときは、当該暴走族から離脱させるよう努めなければならない。
第4条(事業者の責務)
① 自動車等若しくは自動車等の部品の販売又は自動車等の修理を業とする者は、本市が実施する暴走族追放のための施策に協力するよう努めるとともに、その事業活動において、暴走行為を助長することのないよう努めなければならない。
② 自動車等の燃料の販売を業とする者は、本市が実施する暴走族追放のための施策に協力するよう努めるとともに、その事業活動において、法第62条又は法第71条の2の規定に違反することが外観上明らかな自動車等の運転者に燃料を販売することにより、暴走行為を助長することのないよう努めなければならない。
③ 衣服、はちまき、旗等(以下「衣服等」という。)に刺しゅう、印刷等(以下「刺しゅう等」という。)をすることを業とする者は、本市が実施する暴走族追放のための施策に協力するよう努めるとともに、暴走族の名称等を衣服等に刺しゅう等をすることにより、暴走行為又は暴走族のい集、集会若しくは示威行為を助長することのないよう努めなければならない。
第8条(自動車等の運転者の責務)
タクシー、トラックその他の自動車等の運転者は、暴走行為を発見したときは、速やかに、その旨を警察官に通報するよう努めなければならない。
第9条(自動車等の所有者等の責務)
自動車等の所有者又は使用者は、暴走族に自動車等を譲渡し、又は貸与して、暴走行為を助長することのないよう努めなければならない。
第10条(暴走族の集合場所の所有者等の責務)
暴走族が暴走行為をする際に集合する場所又はい集、集会若しくは示威行為を行う場所の所有者又は管理者は、暴走族の集合等を禁ずる旨の掲示をするなど暴走族の集合等をさせないための措置を講ずるよう努めなければならない。
第11条(道路管理者等の責務)
道路を設置し、又は管理する者は、暴走行為が行われている道路について、暴走行為を防止する措置を講ずるよう努めなければならない。
第12条(基本計画)
① 本市は、暴走族追放のため、次に掲げる事項を内容とする基本計画を策定するものとする。
1 暴走族追放に係る啓発活動及び市民意識の高揚に関する基本的な事項
2 暴走行為をさせない環境づくりに関する基本的な事項
3 暴走族への加入の防止に関する基本的な事項
4 暴走族からの離脱の促進に関する基本的な事項
5 少年の居場所づくりに関する基本的な事項
6 前各号に掲げるもののほか、暴走族追放に関する基本的な事項
② 本市は、前項の規定による基本計画を策定し、又は変更したときは、これを公表するものとする。
第13条(関係機関への要請)
本市は、暴走族追放に関する施策の実施について、必要に応じ、関係機関に対して協力要請を行うものとする。
第14条(保護者への要請)
本市は、暴走族に加入していると認められる少年の保護者に対して、少年の健全育成の観点から当該少年を暴走族から離脱させるよう指導することを要請することができる。
第15条(情報の提供等)
本市は、市民、事業者等に対し、暴走族追放に関する施策の効果的な推進を図るため、情報の提供を行うとともに、必要な指導又は助言を行うよう努めるものとする。
第16条(行為の禁止)
① 何人も、次に掲げる行為をしてはならない。
1 公共の場所において、当該場所の所有者又は管理者の承諾又は許可を得ないで、公衆に不安又は恐怖を覚えさせるようない集又は集会を行うこと。
2 公共の場所における祭礼、興行その他の娯楽的催物に際し、当該催物の主催者の承諾を得ないで、公衆に不安又は恐怖を覚えさせるようない集、集会又は示威行為を行うこと。
3 現に暴走行為を行っている者に対し、当該暴走行為を助長する目的で、声援、拍手、手振り、身振り又は旗、鉄パイプその他これらに類するものを振ることにより暴走行為をあおること。
4 公共の場所において、正当な理由なく、自動車等を乗り入れ、急発進させ、急転回させる等により運転し、又は空ぶかしさせること。
② 何人も、前項各号に掲げる行為を指示し、又は命令してはならない。
第17条(中止命令等)
前条第1項第1号の行為が、本市の管理する公共の場所において、特異な服装をし、顔面の全部若しくは一部を覆い隠し、円陣を組み、又は旗を立てる等威勢を示すことにより行われたときは、市長は、当該行為者に対し、当該行為の中止又は当該場所からの退去を命ずることができる。
第18条(委任規定)
この条例の施行に関し必要な事項は、市長が定める。
第19条(罰則)
第17条の規定による市長の命令に違反した者は、6月以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。
では、地方分権を可能にする十分条件はなにか。
そのひとつは、そして、それは最も重要なところかと思いますが、地方分権を支えるに耐えうる行政主体があること、例えば、きちんと条例を制定する力を有する行政主体があることが求められるところと思われます。
条例のあり方が判示された裁判において、最高裁で、行政学の専門家であった藤田裁判官が、大いなる苦言を呈されています。
<広島市暴走族追放条例事件>
【事件番号】 最高裁判所第3小法廷判決/平成17年(あ)第1819号
【判決日付】 平成19年9月18日
裁判官:裁判長裁判官・堀籠幸男,裁判官・藤田宙靖,裁判官・那須弘平,裁判官・田原睦夫,裁判官・近藤崇晴
******関連法令******
憲法
第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
○2 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
第三十一条 何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。
広島市暴走族追放条例(平14広島市条例39号):最後に掲載
該当条文 16-1、17、19
****************
5人の裁判官で3人の多数意見で、条例は、違憲ではないとされましたが(違憲ではない3名:違憲である2名)、判決文「この判決は,裁判官堀籠幸男,同那須弘平の各補足意見,裁判官藤田宙靖,同田原睦夫の各反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見によるものである。」とあるように、藤田氏、田原氏の二人が反対意見を述べられました。
藤田氏は、その反対意見での苦言。
「本件は,当審が敢えて合憲限定解釈を行って条例の有効性を維持すべき事案ではなく,違憲無効と判断し,即刻の改正を強いるべき事案であると考える。」との強い口調です。
地方分権を実現するために、条例をきちんとつくる能力がどこの自治体でも求められます。
*******該当部分抜粋*********
裁判官藤田宙靖の反対意見は,次のとおりである。
多数意見は,本条例19条,16条1項1号,17条等について,これらの規定の規律対象が広範に過ぎるため本条例は憲法21条1項及び31条に違反するとの論旨を,いわゆる合憲限定解釈を施すことによって斥けるが,私は,本件においてこのような合憲限定解釈を行うことには,賛成することができない。
いうまでもなく,日本国憲法によって保障された精神的自由としての集会・結社,表現の自由は,最大限度に保障されなければならないのであって,これを規制する法令の規定について合憲限定解釈をすることが許されるのは,その解釈により規制の対象となるものとそうでないものとが明確に区別され,かつ合憲的に規制し得るもののみが規制の対象となることが明らかにされる場合でなければならず,また,一般国民の理解において,具体的場合に当該表現行為等が規制の対象となるかどうかの判断を可能ならしめるような基準を,その規定自体から読み取ることができる場合でなければならないというべきである。この点多数意見は,本条例2条7号における「暴走族」概念の広範な定義にもかかわらず,目的規定である1条,並びに5条,6条,そして本条例施行規則3条等々の規定からして,本条例が規制の対象とするのは,専ら社会的通念上の暴走族及びそれに準じる者の暴走行為,集会及び祭礼等における示威行為に限られることが読み取れる,という。しかし,通常人の読み方からすれば,ある条例において規制対象たる「暴走族」の語につき定義規定が置かれている以上,条文の解釈上,「暴走族」の意味はその定義の字義通りに理解されるのが至極当然というべきであり(そうでなければ,およそ法文上言葉の「定義」をすることの意味が失われる),そして,2条7号の定義を字義通りのものと前提して読む限り,多数意見が引く5条,6条,施行規則3条等々の諸規定についても,必ずしも多数意見がいうような社会的通念上の暴走族及びそれに準じる者のみを対象とするものではないという解釈を行うことも,充分に可能なのである。加えて,本条例16条では「何人も,次に掲げる行為をしてはならない」という規定の仕方がされていることにも留意しなければならない。多数意見のような解釈は,広島市においてこの条例が制定された具体的な背景・経緯を充分に理解し,かつ,多数意見もまた「本条例がその文言どおりに適用されることになると,規制の対象が広範囲に及び,憲法21条1項及び31条との関係で問題があることは所論のとおりである」と指摘せざるを得なかったような本条例の粗雑な規定の仕方が,単純に立法技術が稚拙であることに由来するものであるとの認識に立った場合に,初めて首肯されるものであって,法文の規定そのものから多数意見のような解釈を導くことには,少なくとも相当の無理があるものと言わなければならない。
なお,補足意見が指摘するように,被告人の本件行為は,本条例が公共の平穏を維持するために規制しようとしていた典型的な行為であって,多数意見のような合憲限定解釈を採ると否とにかかわらず本件行為が本条例の規定自体に違反することは明らかである。しかしいうまでもなく,被告人が処罰根拠規定の違憲無効を訴訟上主張するに当たって,主張し得る違憲事由の範囲に制約があるわけではなく,またその主張の当否(すなわち処罰根拠規定自体の合憲性の有無)を当審が判断するに際して,被告人が行った具体的行為についての評価を先行せしむべきものでもない。そして,当審の判断の結果,仮に規律対象の過度の広範性の故に処罰根拠規定自体が違憲無効であるとされれば,被告人は,違憲無効の法令によって処罰されることになるのであるから,この意味において,本条例につきどのような解釈を採ろうとも被告人に保障されている憲法上の正当な権利が侵害されることはないということはできない。
私もまた,法令の合憲限定解釈一般について,それを許さないとするものではないが,表現の自由の規制について,最高裁判所が法令の文言とりわけ定義規定の強引な解釈を行ってまで法令の合憲性を救うことが果たして適切であるかについては,重大な疑念を抱くものである。本件の場合,広島市の立法意図が多数意見のいうようなところにあるのであるとするならば,「暴走族」概念の定義を始め問題となる諸規定をその趣旨に即した形で改正することは,技術的にさほど困難であるとは思われないのであって,本件は,当審が敢えて合憲限定解釈を行って条例の有効性を維持すべき事案ではなく,違憲無効と判断し,即刻の改正を強いるべき事案であると考える。
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広島市暴走族追放条例
公布:2002(平成14)年3月28日広島市条例第39号
施行:2004(平成14)年4月1日(附則但し書き:2002《平成14》年5月1日)
第1条(目的)
この条例は、暴走族による暴走行為、い集、集会及び祭礼等における示威行為が、市民生活や少年の健全育成に多大な影響を及ぼしているのみならず、国際平和文化都市の印象を著しく傷つけていることから、暴走族追放に関し、本市、市民、事業者等の責務を明らかにするとともに、暴走族のい集、集会及び示威行為、暴走行為をあおる行為等を規制することにより、市民生活の安全と安心が確保される地域社会の実現を図ることを目的とする。
第2条(定義)
この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
1 自動車等 道路交通法(昭和35年法律第105号。以下「法」という。)第2条第1項第9号に規定する自動車及び同項第10号に規定する原動機付自転車をいう。
2 少年 少年法(昭和23年法律第168号)第2条第1項に規定する少年をいう。
3 保護者 少年法第2条第2項に規定する保護者をいう。
4 公共の場所 道路、公園、広場、駅、空港、桟橋、駐車場、興行場、飲食店その他の公衆が通行し、又は出入りすることができる場所をいう。
5 暴走行為 法第68条の規定に違反する行為又は自動車等を運転して集団を形成し、法第7条、法第17条、法第22条第1項、法第55条、法第57条第1項、法第62条若しくは法第71条第5号の3の規定に違反する行為をいう。
6 示威行為 多数の者が威力を示して行進又は整列をすることをいう。
7 暴走族 暴走行為をすることを目的として結成された集団又は公共の場所において、公衆に不安若しくは恐怖を覚えさせるような特異な服装若しくは集団名を表示した服装で、い集、集会若しくは示威行為を行う集団をいう。
8 暴走族追放 暴走族による暴走行為等の防止、暴走族への加入の防止、暴走族からの離脱の促進等を図ることにより、暴走族のいない社会を築くことをいう。
第3条(本市の責務)
本市は、第12条の規定による基本計画に基づき、暴走族追放に関する総合的かつ広域的な施策を策定し、これを実施する責務を有する。
第4条(市民の責務)
市民は、この条例の目的を達成するため、前条の規定による施策に協力するよう努めなければならない。
第5条(保護者の責務)
保護者は、暴走族が少年の健全な育成を阻害するおそれがあることを踏まえ、その監護に係る少年を暴走族に加入させないよう努めるとともに、当該少年が暴走族に加入していることを知ったときは、当該暴走族から離脱させるよう努めなければならない。
第6条(学校、職場等の関係者の責務)
学校、職場その他の少年の育成に携わる団体の関係者は、その職務又は活動を通じ、相互に連携し、当該団体に属する少年を暴走族に加入させないよう努めるとともに、当該少年が暴走族に加入していることを知ったときは、当該暴走族から離脱させるよう努めなければならない。
第4条(事業者の責務)
① 自動車等若しくは自動車等の部品の販売又は自動車等の修理を業とする者は、本市が実施する暴走族追放のための施策に協力するよう努めるとともに、その事業活動において、暴走行為を助長することのないよう努めなければならない。
② 自動車等の燃料の販売を業とする者は、本市が実施する暴走族追放のための施策に協力するよう努めるとともに、その事業活動において、法第62条又は法第71条の2の規定に違反することが外観上明らかな自動車等の運転者に燃料を販売することにより、暴走行為を助長することのないよう努めなければならない。
③ 衣服、はちまき、旗等(以下「衣服等」という。)に刺しゅう、印刷等(以下「刺しゅう等」という。)をすることを業とする者は、本市が実施する暴走族追放のための施策に協力するよう努めるとともに、暴走族の名称等を衣服等に刺しゅう等をすることにより、暴走行為又は暴走族のい集、集会若しくは示威行為を助長することのないよう努めなければならない。
第8条(自動車等の運転者の責務)
タクシー、トラックその他の自動車等の運転者は、暴走行為を発見したときは、速やかに、その旨を警察官に通報するよう努めなければならない。
第9条(自動車等の所有者等の責務)
自動車等の所有者又は使用者は、暴走族に自動車等を譲渡し、又は貸与して、暴走行為を助長することのないよう努めなければならない。
第10条(暴走族の集合場所の所有者等の責務)
暴走族が暴走行為をする際に集合する場所又はい集、集会若しくは示威行為を行う場所の所有者又は管理者は、暴走族の集合等を禁ずる旨の掲示をするなど暴走族の集合等をさせないための措置を講ずるよう努めなければならない。
第11条(道路管理者等の責務)
道路を設置し、又は管理する者は、暴走行為が行われている道路について、暴走行為を防止する措置を講ずるよう努めなければならない。
第12条(基本計画)
① 本市は、暴走族追放のため、次に掲げる事項を内容とする基本計画を策定するものとする。
1 暴走族追放に係る啓発活動及び市民意識の高揚に関する基本的な事項
2 暴走行為をさせない環境づくりに関する基本的な事項
3 暴走族への加入の防止に関する基本的な事項
4 暴走族からの離脱の促進に関する基本的な事項
5 少年の居場所づくりに関する基本的な事項
6 前各号に掲げるもののほか、暴走族追放に関する基本的な事項
② 本市は、前項の規定による基本計画を策定し、又は変更したときは、これを公表するものとする。
第13条(関係機関への要請)
本市は、暴走族追放に関する施策の実施について、必要に応じ、関係機関に対して協力要請を行うものとする。
第14条(保護者への要請)
本市は、暴走族に加入していると認められる少年の保護者に対して、少年の健全育成の観点から当該少年を暴走族から離脱させるよう指導することを要請することができる。
第15条(情報の提供等)
本市は、市民、事業者等に対し、暴走族追放に関する施策の効果的な推進を図るため、情報の提供を行うとともに、必要な指導又は助言を行うよう努めるものとする。
第16条(行為の禁止)
① 何人も、次に掲げる行為をしてはならない。
1 公共の場所において、当該場所の所有者又は管理者の承諾又は許可を得ないで、公衆に不安又は恐怖を覚えさせるようない集又は集会を行うこと。
2 公共の場所における祭礼、興行その他の娯楽的催物に際し、当該催物の主催者の承諾を得ないで、公衆に不安又は恐怖を覚えさせるようない集、集会又は示威行為を行うこと。
3 現に暴走行為を行っている者に対し、当該暴走行為を助長する目的で、声援、拍手、手振り、身振り又は旗、鉄パイプその他これらに類するものを振ることにより暴走行為をあおること。
4 公共の場所において、正当な理由なく、自動車等を乗り入れ、急発進させ、急転回させる等により運転し、又は空ぶかしさせること。
② 何人も、前項各号に掲げる行為を指示し、又は命令してはならない。
第17条(中止命令等)
前条第1項第1号の行為が、本市の管理する公共の場所において、特異な服装をし、顔面の全部若しくは一部を覆い隠し、円陣を組み、又は旗を立てる等威勢を示すことにより行われたときは、市長は、当該行為者に対し、当該行為の中止又は当該場所からの退去を命ずることができる。
第18条(委任規定)
この条例の施行に関し必要な事項は、市長が定める。
第19条(罰則)
第17条の規定による市長の命令に違反した者は、6月以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。
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