職場の中での人材育成にはどの組織も苦労していることと思いますが、おもしろい調査研究を入手しました。
公益財団法人日本生産性研究本部が昨年度に行った「第2回職場のコミュニケーションに関する意識調査」で副題として、「日本の課長と一般社員 叱られると 『やる気を失う』一般社員は、56.8%」となっています。
【日本の課長と一般社員 叱られると「やる気を失う」一般社員は、56.8% ~第2回「職場のコミュニケーションに関する意識調査」結果~】
http://activity.jpc-net.jp/detail/mhr/activity001384.html
組織の中の課長と部下に注目して、上司の意識と部下の意識の乖離がよく分かる調査結果となりました。
発表の概要として掲載されている調査内容は、
1.課長・一般社員とも業務上のコミュニケーションは取れていると感じている
(1)課長の82%、一般社員の73.1%が「業務上のコミュニケーションは取れている」と感じている。
2.部下の能力発揮と上司のサポートにチグハグ感がある
(1)有益な情報の共有について、課長の57.7%が「共有されている」としたのに対し、一般社員は45.1%にとどまった。
(2)叱ることが「育成につながると思う」課長は89.0%いる一方、叱られると「やる気をうしなう」一般社員は56.8%にのぼった。
(3)部下を「褒めている」課長が80.3%いるのに対し、「上司は褒める方だ」と回答した一般社員は51.4%にとどまった。
(4)職場で「率先して仕事に取り組んでいる方だと思っている」一般社員が78.3%いる一方で、部下、または後輩の仕事ぶりに「満足している」課長は37%にとどまった。
(5)育成を「面倒だとは感じない」課長が73.3%いる一方で、育成に「自信がある」課長は41.7%にとどまった。
3.一般社員が、組織への貢献感や「いきいき」を感じられない傾向にある
(1)自分自身が組織にとって「重要な存在と思う」課長が73%だったのに対し、一般社員は49%にとどまった。
(2)一般社員の62.5%が「疲れ気味」と感じている一方、部下、または後輩を「疲れ気味」と感じているのは49.7%にとどまった。
【引用ここまで】
まあ、上司と部下との意識の乖離がよく分かって面白いですね。
特に2の(2)の叱ることが育成と感じている上司と、「叱られると凹む」と思っている部下の意識の乖離は問題です。
よかれと思っていることが結果には結びついておらず逆効果になっているのですから、ここは上司にも意識改革をしてほしいところです。
かくいう私も似たような立場に立っていて難しいのは、「叱る」と「怒る」を区別していない人が結構いるということです。
穏やかな話しぶりでも叱ることはできますし、逆に顔を真っ赤にして大声を上げるのはどう見ても「怒っている」としか見えません。
辞書では「怒る」と「叱る」の区別をあまりしておらず、「怒る」の意味として「不満・不快で我慢できない気持ちを表す」という意味の他に、「相手の非をとがめ厳しく注意する」という意味を含めています。
しかし人材育成と組織マネジメントの観点から見ると、「叱る」と「怒る」は明確に意識して使い分けなくてはいけない違いがはっきりあります。
よく、「自分のために怒る。相手のために叱る」とも言われます。
「怒る」のは、自分が腹を立てていることを見せるだけの感情的なふるまいで、自分が溜飲を下げるためということであり、叱るのは相手の足らざる部分を指摘してより良くなって欲しいということを強く伝えるためのこと、というわけです。
幼児教育の世界でも、子供を叱るときには、「感情的になるな」とか、「ちゃんと言い分を聞いてから叱れ」とか、「人格を否定するような突き放す言葉は使うな」といった注意事項があります。
叱るときには、感情を抑えて相手のためにという思いを大切にしたいものです。
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逆に、私も叱られたり怒られたりした立場からすると、やはり調査にあったように凹むものです。
叱られるのではなく怒られていると、(この人は自分を嫌いなのかな)と落ち込んだりもします。
でもそんなときは、怒られる側になったときでも、(この上司は『叱る』と『怒る』の区別のついていない人だなあ)と冷静に心の中で上司を眺め、(これで凹む部下も多いようだが、自分は凹まないでおこう)と自らを鼓舞しましょう。
この調査は、上司が自らを省みるためにも使えますが、部下としても心をコントロールするために使いたいものですね。