この業界でお世話になった先輩と、ある会合で久しぶりに会いました。
まだ髪もふさふさあって見た目は若々しいのですが、私の若い時に所長でお世話になった大先輩です。
「失礼ですが、お幾つになられましたか?」と訊くと、「69歳だよ、もう歳だよ」と笑います。
「今はどうされていますか?」と訊ねると、「今は本業は農業ですよ」と言って農場の代表の名刺をくれました。
農場は仁木町にあって、主な生産品目は、サクランボ、ミニトマト、ブルーベリー、プルーン、プラムなどの果樹などが多く、またそれらを加工した果汁製品やトマトジュースなども作っているのだとか。
「農場というと、どれくらいの広さなんですか?」
「いやあ、2ヘクタールくらいなもんだよ」
「しかし、そもそも農地の取得なんかは農家でなければ難しいのじゃありませんか?」
「そうなんだけど、最近は離農して荒れている畑もあるからね。それまでも家庭菜園レベルでは農作業をしていたんだけど、そういう実績の書類を作って役場へ行って農業委員会に諮り、最後は面接まで受けたけどなんとか土地が買えました」
「これだけ果樹が多いとなると、ビニールハウスとかそれなりの設備も必要ではありませんか」
「そうそう、もちろんだよ。サクランボのハウスもあるよ」
サクランボは、結実する時に雨に当たると実が割れて商品価値が下がるので、雨が当たらないように大きなハウスが必要とされています。そこまで投資をして農業をやるというのは家庭菜園の域を遙かに超えています。
「やっぱり農協に出荷したりするんですか?」
「いや、そういう付き合いはなくて、資材は直接知り合いから買うし、取れた作物も直接市場に送り込んでいます。で、実はここのホテルにも納めているんですよ。ちょっと幹部に知り合いがいるものですから(笑)そうだ、サクランボの季節になったら連絡ちょうだいよ。美味しいんだよ」
農作業や作物の話をする姿がとても楽しそうで、幸せな時を過ごしていることが伝わってきます。
今、十勝の農業高校を舞台にした漫画「銀の匙」が、テレビアニメでも大人気。若い人の就農意欲が向上するといいなあ、と思います。
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さて、現在国の農業政策は兼業農家から大規模な農地で専業で効率的に農業を行う農家を奨励するという方向に傾いています。
それは小規模な農業ではどうしても効率が悪く農産品の出荷価格が下がらないからです。特に日本では小規模農家が多く、なかなか農地を他人に委ねて大きな農地の再編ができない理由の一つとなっています。
だからTPPの議論では、日本の農産品は高く安い外国産が入ってくれば関税で守らなければ壊滅するという論法になってゆきます。
しかし農業には、職業としての農家、農民の問題から、農地という土地の問題、農村の集落の問題、地域の収入源である産業の問題、土地改良のための公共事業の問題、耕作されていることによる環境の問題、薬漬けだとか遺伝子操作などの不安要素や、担い手の高齢化など問題が複雑多岐にわたります。
現実に今農業に携わって生計を立てている人がいるなかで、農業が将来あるべき姿を議論してそちらへ移行して行かなくてはならず、農政は消費者でありかつ地域に暮らす我々にとって大きなテーマ。
農家ではない者の一人としては、食の問題として安全・安心な地域食材を価格との兼ね合いで地域を支える消費者としてしっかりと考えた消費行動をしたいものです。
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それにしても、ある程度の年金があって収入が支えられている高齢者による退職後の農家って魅力的に写ります。
健康で元気な高齢者によって、結果的に安くて質の良い農産品が供給されるなんて世の中になるでしょうか。
先輩の農場にも一度行ってみなくては。来春が楽しみです。