人間学を学ぶ雑誌「致知」、今月の誌面の中に会社単位でこの「致知」を読んで勉強する社内木鶏会の全国大会がこの五月に札幌で開かれたときの模様が紹介されていました。
これは社内木鶏会を続けることで、社員が変わり企業がどう変化をしたのかを事例紹介し合う催しです。
今回発表したのは北は北海道から九州代表までの五社で、参加者全員の投票により感動大賞に選ばれたのは関西地区代表のヒロセという会社でした。
以下、誌面の一部を紹介します。
…「一人のめざめは百人に及び、百人のめざめは千人に及び、千人のめざめは社会全体に及ぶ」
社内木鶏企業の発表を聞くたびに胸に浮かぶのは、この松下幸之助氏の言葉である。一人の社長のめざめが周囲を大きく変えていく実例が、社内木鶏企業の発表には溢れている。
特に今回、大賞に選ばれたヒロセの社員、松谷晋さんの発表には心を揺さぶられた。「人々の心の中に明徳と名づけたる無価の宝あり」(全ての人の心の中に明徳という値段のつけられない宝がある)と中江藤樹は言っているが、社内木鶏こそその明徳を発揮させる最高の同情になると、松谷さんの発表で教えられた。
松谷さんは三十三歳でヒロセに途中入社した。頭は金髪。気に入らないと上司だろうと食ってかかっていく。そういう社員だった。
社長が社内木鶏を始めることを告げたときも、「なにィ、本を読んで感想文を書くゥ?人前で発表するゥ?」と反発。「たかが汲み取り屋、ゴミ取り屋やん。何でそんなことせなあかんねん」と社長に直談判に及んだ。
社長は言ったという。
「私はそれが嫌やねん。あんたたちが自分の仕事に誇りも持てへん。世間からは、きつい、危険、汚い、レベルの低い社員って思われているのが、私は悔しくてたまらんのや。そやから私は木鶏会を通じて本を読む力、読んで感想を書く文章力、感想を人前で発表する発言力をつけて、あんたたちが世間に馬鹿にされない、自分の仕事に誇りを持てる会社にしたいんや」
涙声だった。社長の熱い思いは電流のように松谷さんを貫いた。
「冷め切っていた心に熱い火が灯り、この社長に応えたいと思い、真剣に社内木鶏に取り組むようになった。最初は一、二行だった感想文も、今では用紙いっぱい書けるようになった」と言う。
最後にこう締めくくる。
「こんな私を見捨てずに根気よく、熱い思いでまっとうな人間に導いてくれて、人を思いやる心、感謝、感激、感動の心を養わせてくれた社長に、心から感謝します。そして木鶏会を通じて教養力、自分の仕事に誇りを持てるように導いてくれた致知出版社の方々に、心から感謝致します」
力闘向上。松下幸之助の言葉である。
「事業を経営することも商売を営むことも、そのこと自体が真剣の戦いである以上、これを戦い抜く精神が旺盛でなければ、結局敗者にならざるを得ない。ただし、その戦いたるや、正々堂々でなくてはならぬ。よい意味における闘争心、正しい意味における競争精神なきところ、事業の成功も個人の向上も絶対に望めない」
三K(危険、汚い、きつい)の三文字を「感謝、感激、感動」に変えたいと決意し、全社員の反発に遭いながらそれを果敢に実行、貫徹した女性社長の姿に、力闘向上の精神の化身を見るのである。 (引用ここまで)
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人はいつでもどこでも、誰かにそして何かに出会うことで変わることができます。
しかし往々にしてその自分が変わるきっかけをみすみす見逃してもいます。
社長の思いが電流のように身体を貫いた松谷さんはそのときに心のスイッチが入ったのでしょうね。
自分の人生の中で心のスイッチはどこにありましたか。これからもすぐ近くにありますよ、きっとね。