夏には麦わら帽子とツッカケがあれば、わたしはたちまち ‘少年時代’ にもどることができます。
これに虫捕りアミと、(ツッカケでなく)ちびた下駄があれば完璧です。
小学生の夏休み、新潟の田舎町に住んでいたわたしは、シオカラトンボ、ムギワラトンボはめずらしくなく、捕ろうとも思わなかったものですが、それより少し大きくて黒と黄色のしま模様のトンボ、オニヤンマには胸が躍りました。
人にはきっと “捕獲本能” があるのですね。 熊を仕留めるマタギのように、大間(おおま)のマグロを一本釣りする漁師のように、わたしは胸をときめかせてオニヤンマを追いかけたものです。(レベルが違うけど)
そのオニヤンマは結構つかまえましたが、どうしても捕れなかったのがギンヤンマです。
ギンヤンマはオニヤンマと同じくらいの大きさで、胴が竹色のスッとスマートなトンボでした。
その辺の草花にとまるようなことはなく、いつも悠然と、それでいてかなり速いスピードで、グライダーのように水平飛行しているだけでした。
見つけて駆けつけても間に合わず、待っていても来るとはかぎりません。
わたしは見かけただけでドキドキと胸が高鳴ったものでした。 ギンヤンマはわたしにとって、絶対につかまえたい幻のトンボだったのです。
そのギンヤンマを近所のおじさんが捕ったときのことは、数十年経た今でも忘れられません。
ギンヤンマが2匹連らなって飛んでいくその先に、おじさんは虫捕りアミを構えていました。
それを見たわたしはつかまってほしくないと思いました。
でも、わたしの願いもむなしく、バタッと地面にふせたおじさんのアミにギンヤンマたちは入ってしまったようでした。
そばにいた子供たちが近寄っていきます。
わたしも駆けつけました。すると、なんとアミの中の2匹のうち1匹の頭が取れてしまっているではありませんか。
アミのふちに強くぶつかったのでしょうか、地面にたたきつけられたからでしょうか。ショックというかかわいそうというか、自分が捕りそこねた悔しさとともに、このときのことは今でもありありと甦ってきます。
麦わら帽子にツッカケ、それに半ズボンで近くのポストまで行ったヨ、さすがにこの格好で都心まではいけないネ、という話を書こうと思ったのですが、ギンヤンマのことを急に思い出し、長々と書いてしまいました。
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