![]() | 平家物語 ビギナーズ・クラシックス 日本の古典 (角川ソフィア文庫) |
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KADOKAWA / 角川学芸出版 |
全12巻もある膨大な平家物語を、文庫1冊にコンパクトに纏めた「平家物語―ビギナーズ・クラシックス」(角川書店編)。副題に「ビギナーズ・クラシックス」とあるように、あまり、古典に慣れ親しんでいない人でもその面白さが分かるようにうまく編集されている。
本書は、全巻全章の要約に加え、各巻の見処となる場面の現代語訳とその原文で構成されている。この原文を声を出して読めば、琵琶法師のようにはいかないだろうが、本来の名調子の一端なりとも、味わうことができるだろう。
見どころとして、選ばれているのは、祇王と仏御前の話、俊寛の話、熊谷直実と平敦盛の話など、平家物語は読んだことが無くても、その概要位は知っている人が多いようなものだ。ただひとつ疑問なのは、木曽義仲の最後の場面で、どうして愛妾の巴御前との別れの場面でなく、乳兄弟の今井四郎兼平との最後の場面を選んだのかということである。
巴御前は、元祖戦闘派美女とも言える人物だ。義仲一行が最後の数騎になったとき、最後まで女を連れていたとあっては名折れとなると言い聞かせて巴を帰す。巴を死なせたくないという義仲の優しさだったのだろうが、巴は、最後に義仲に見せるために、敵と戦って、その首をねじ切って去っていく。まさに戦闘派美女の面目躍如ではないだろうか。この別れのシーンにはいかにも彼女らしい華がある。
「平家物語」では、清盛は、悪人ながらも、妖怪を睨んで退散させるほどの胆力のある人物としてえがかれている。これに比べ、重盛などは、完璧な人格者として描かれているが、あまりに分別臭い。物語の前半では、この二人の対比というのが、ひとつの見どころだろう。そして、この二人が死んだころから平家の衰退が始まる。
もちろんこれは「物語」なので、史実とは異なる部分も多い。しかし、日本人の教養として、その概要なりとも知っておきたいものだ。本書は、忙しいサラリーマンでも、気楽に平家物語の世界を楽しめるという優れものの一冊である。
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