文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
90以上の資格試験に合格。
執筆依頼、献本等歓迎。

書評:イシマル書房編集部

2018-09-11 17:48:29 | 書評:小説(その他)
イシマル書房編集部 (ハルキ文庫)
クリエーター情報なし
角川春樹事務所

・平岡陽明

 満島綾子は、OA機器会社を退職して、小さなイシマル書房という出版社でインターンとして働き始める。イシマル書房は、他にそれぞれ社長と専務である石丸周ニ・美代夫婦(実は既に夫婦関係は解消していたのだが)と営業で元暴走族総長の宇田川竜巳の3人だけしかいないという本当に小さな会社だ。本の取次も使えず、もっぱら直販で商売をしている。

 しかし、経営不振のため、今はIT企業だというCTカンパニーの子会社になっている。おまけにこのままではパチンコメーカーに身売りされてしまう。株を買い戻すためには、7千万円も必要だ。社長の石丸が打ち出したのが、経験十分な出版人をシニア・インターンとして迎え入れること。

 そこでイシマル書房に加わったのが、作家たちと数々の伝説を持つ岩田鉄夫という元編集者。彼は、昔期待されていたが、盗作疑惑で消え、今は官能小説で糊口をしのいでいる作家の島津正臣を担ぎだす。果たして彼らのイシマル書房サバイバル大作戦はうまくいくのか。

 本書を読んでいるといろいろと出版界の事情が分かり興味深い。例えば本の粗利が大体4割であるとか、取次店との取引条件がどうだとかというようなことだ。

 もうひとつは、いわゆるIT業界というやつのうさんくささ、軽薄さが良く表れている気がする。親会社の担当者の横柄さ、軽薄さがよく描かれているのではないだろうか。

 しかし、いろいろなところに伏線が張ってあるのは感心する。例えば綾子の実家は印刷屋で祖父は活字を拾う職人だという設定だが、これが後々生きてくるのだ。また、イシマル出版が出していた「里山の多様性」という本の作者の梨木にもちゃんと役割があった。

☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。




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