文理両道

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書評:倭の五王 - 王位継承と五世紀の東アジア

2018-12-16 10:48:15 | 書評:学術・教養(人文・社会他)
倭の五王 - 王位継承と五世紀の東アジア (中公新書)
クリエーター情報なし
中央公論新社

・河内 春人

 倭の五王とは、中国の歴史書に現れる日本の王のことだ。中国の歴史書には、讃、珍、済、興、武とあるこの5人が、果たして日本の古代天皇の誰に当たるかは謎が多い。讃が仁徳天皇、珍が反正天皇、済が允恭天皇、興が安康天皇、武が雄略天皇だというのが代表的な説だが、異論も多い。済、興、武についてはほぼ定まっているというのが定説だが、これとて決定的なものはない。

 本書は、中国の歴史書に見える倭の五王について解説したものだ。従来の定説にも異を唱える意欲的なものである。例えば、武を雄略天皇(ワカタケル)とした従来の説にも色々と根拠を示したうえで、疑義を呈している。

<武とワカタケル、471年前後の王の問題は今後の課題として残される。>(p205)

 しかし、残念なことに、倭の五王が日本の古代天皇の誰に当たるのかということについては、あまり踏み込んではいない。

<天皇系譜は五世紀以来、政治的変動や歴史書の編纂のなかで追加や削除が繰り返されてきたものものである。それをふまえずに誰に当てはまるかを議論しても、それは実りのある結論を生み出すことはない。倭の五王は、記・紀に拘泥せずにひとまずそれを切り離して五世紀の歴史を組み立ててみる作業が必要なのであり、本書はそのための露払いである。>(p206)

 これは研究者としては明確な証拠がない限り、深入りはできないということだろうが、読者の立場からは少し物足りないかもしれない。

 歴史の定説というのは、よくひっくり返る。例えば鎌倉幕府の成立年だ。私たちが高校で日本史を履修した時には1192年ということになっており、「いいくにつくろう」という語呂合わせで覚えていた人も多いだろう。今は色々な説があるようだ。また、聖徳太子や足利尊氏の絵だとされていたものが、現在は異論ありとされている。

 歴史の真実は、作為的なものが入る文献的なものよりは、考古学的な成果に期待したい。しかし、これとて、モノが現在まで残っている必要がある。何と言っても大昔のことだ。残っている方が不思議なくらいである。ともあれ、学会の大ボスが言っうことが絶対だと、安易に迎合することのないようにしてほしい。

☆☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

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