火を焚きなさい―山尾三省の詩のことば | |
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新泉社 |
・山本三省
この本は故人である著者が屋久島に移住して後の、祈りと貧しい生活の中から生まれた詩を集めたものだ。著者は1977年に屋久島に移住し、生活の中から生まれた詩を読む。
田舎育ちの私には、共感できる部分も多いのだが、必ずしも著者の生き方に共鳴しているわけではない。著者は仏教に傾倒しており、それは子供たちの名前にも表れている。
第1子、第2子の太郎、次郎までは普通なのだが、それに続くのが、ラーマ、ヨガ、ラーガそして末っ子の道人。ヨガは説明する必要はないと思うが、ラーマは、インドの叙事詩である「ラーマーヤナ」の主人公、ラーガとはインド音楽の旋律理論のことである。なんかいろいろ苦労しそうな気もするのだが。
しかし、この部分は自家撞着だと思う。著者は長男の太郎が二十歳を目前に東京に行くのでそれを送り出すための詩を読んでいる。(pp71-77 食パンの歌 -太郎にー)
この詩は、東京に行っても、今の価値観を大事にして欲しいというものだが、島を出ること自体に反対はしていない。その一方で、著者は、島の高校の入学式にあたり、次のようなことを言っている。
<教師たちよ
再び島に帰らぬ「都会人」を育てるな
第三世界を侵食する「国際人」を作るな>(高校入学式)(p124)
自分の長男は、東京に行くのに、他の人間には島に帰れというのか。しかし、島は一次産業が主体だろう。当然それ以外に適正のある子供も多い。多くの可能性を持った子供たちの未来を狭めてもいいのだろうか。また上記に抜粋した「高校入学式」にも論理の飛躍がある。「都会人」になったからといって、第三世界を侵食するとは言えない。
最後に一言、上記の詩によれば、島の高校には118名の新入生が入ったということである。私の出た高校が、自分が高校生だったときに、一学年が120名程度だから同じような規模の学校だろう。なんだか親近感が湧くな。
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