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巨大ブラックホールの謎 宇宙最大の「時空の穴」に迫る (ブルーバックス) |
本間 希樹 | |
講談社 |
イベント・ホライズン・テレスコープが、M87の中心に位置する巨大ブラックホールの撮影に成功したニュースが流れたことは記憶に新しい。
ブラックホールとは、脱出速度が光速度を越えるもので、一度落ち込むと光さえ脱出できないことからこの名前がついている。
太陽の30倍以上の重い星が寿命を終えてたどり着くものは、通常の恒星程度の質量を持っているので、恒星質量ブラックホールと呼ばれる。質量は太陽の数倍から10倍程度だという。
一方、巨大ブラックホールというのは、銀河系の中心に一つあるもので、質量は、太陽の100万倍から100億倍程度もあるものだ。そして、我々の天の川銀河の中心には、太陽400万個分の質量を持ついて座Aスターという巨大なブラックホールがあることが知られている。この巨大ブラックホールの生成過程にはまだまだ謎が多いようだ。
ブラックホールとは、上に述べたように光さえ脱出できないことから、つい暗い天体を連想してしまうが、実は巨大ブラックホールは宇宙で一倍明るい天体なのである。ブラックホールの周りは、ガスが円盤を形成し、周りながら落ち込む(降着円盤)。光速度に近い速さまで加速されたガスが摩擦で発光しているので、とても明るく輝いている。そして、ブラックホールからは、ガスが高速に近い速さで、遠くまで飛び出している。これはジェットと呼ばれる。ジェットはブラックホール本体や降着円盤に比べて桁違いに大きいため観測しやすいという。このジェットの加速過程も仮説はあるもののまだ良く分かっていないらしい。
ガスがブラックホールに落ち込ん時、静止質量の10~40%のエネルギーの解放が可能だという。これは原子力発電の静止質量比0.1%程度や核融合の0.7%程度と比べても、文字通り桁違いに高い数字である。もしブラックホールを利用した発電所ができればすばらしい発電所ができるのだが、周りの物をすべて飲み込むので危なく、実現はSFの世界だけだろうと著者は言っているが、なんとも夢のある話ではないか。
ブラックホールはSFの世界ではおなじみのものだが、その実態が解明されているとは言い難い。しかし、宇宙にはこんなものがあると想像するだけでも、なんともロマンを感じるのではないか。宇宙論に興味がある人にはぜひ読んで欲しいと思う。
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※初出は、「風竜胆の書評」です。