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道中記 |
種田 山頭火 | |
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種田山頭火といえば、漂白の自由律俳人として知られた人物だ。今の山口県防府市の裕福な家に生まれたが、少年時代に母が自殺、家は没落して弟も自殺。結婚して子供を設けるも生活能力はゼロ。一生を漂白と酒に過ごした。
これは山頭火が50歳ごろの記録であろうか。その頃彼は今の山口市小郡に其中庵(ごちゅうあん)という庵を結んでいた。昭和7年から昭和13年の間だという。彼はここを拠点にして、日田、別府、福岡など主に九州の北半分に住んでいる俳句仲間を訪ねている。そして彼はいよいよ其中庵を解消する決心をした。
四月十日 曇。
(略)
――私はいよ/\重大決意をした、――いさぎよく其中庵を解消して、再び行乞流転の旅人となるのである。
全体を通してはユーモラスな文体なのだ。例えば、このような一文がある。いったいどうしたんだろう?
三月十七日 日本晴、宇佐。
(略)
ふんどし異変、山頭火ナンセンスの一つ、私としては飲み過ぎた祟りであり、田舎の巡査としては威張りたがる癖とでもいはう、とにかく、うるさい世の中だ、笑ひたくて笑へない出来事であつた。
しかし、ユーモラスな文体ながら、彼の孤独と寂寥感を感じられるような記述もある。
三月十六日 好晴、中津。
(略)
夜は句会、二丘、昧々、耕平、そして主人と私、あまりしやべつたので、さびしくなつた、かなしくさへなつた。
山頭火という人物に興味を持った人は、読んでおくといいのではないだろうか。彼の漂白の生活の一旦なりと分かるだろうから。
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※初出は、「風竜胆の書評」です。