よみがえる古代文書―漆に封じ込められた日本社会 (岩波新書) | |
平川 南 | |
岩波書店 |
古代の多賀城址で見つかった皮のようなもの。実はそれは漆紙と呼ばれるもので、漆を容器に入れた際のふたとして使われたふた紙だった。漆は一度乾くとものすごく強靭になる。
<漆芸家松田権六氏のことばをかりれば、それは漆という「生き物」のせいだ。泥水中に2000年浸っていても、漆膜の表面の硬さや電気に対する絶縁力は、まったく変わらなかったという(松田権六『うるしの話』)>(p2)
古代、紙は貴重品だったので、ふた紙に使われるものは反故紙である。そして反故紙であるということはそこに当時の何かが書かれているということだ。要するに元は何らかの文書だったということである。漆紙に書かれた文書を漆紙文書と呼ぶ。書かれている内容は、役所の公的なものだけでなく、教科書や暦まで。欠勤届や九九の書かれたものもあったという。暦には爪を切る日まで書かれていたというのだからなんとも面白い。もちろん漆にコーティングされていない部分は残っていないので、その部分に書かれていたことは推測するしかない。
漆がいかにすごい特性を持っているものかが分かるとともに古代の様子を紐解く面白さも伝わってくる。今残っているものは、多くは書いた者が何らかの意図を持って書いたことが多い。しかし漆紙文書の場合は偶然残ったもので、そこに恣意性が潜む可能性は少ない。漆紙文書だけですべてが分かる訳ではないが、我々の古代を知る一助になるのは確かだろう。こういった地道な積み重ねが古代史の扉を開くことを願いたい。
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※初出は、「風竜胆の書評」です。