野兎を悼む春 (創元推理文庫) | |
クリエーター情報なし | |
東京創元社 |
イギリス最北端に位置する島々、シェトランド諸島。面積1470㎢で、人口はわずかに22000人。訪れたことはないのだが、わが故郷である市は人口が26000人と、ここよりは少し多い程度だが、面積は1/3しかないので、いかにシェトランド諸島が自然豊かな島々かというのは大体想像がつく。
このシェトランド諸島を舞台にした、アン・クリーブスによる警察小説シリーズ、「シェトランド四重奏」の第3部となるのがこの「野兎を悼む春」(創元推理文庫)である。
シェトランド本島の東にある小さなウォルセイ島。今回の舞台はこの島になる。シリーズを通しての主人公はシェトランド署のペレス警部であるが、今回中心となるのはこの島の出身であるサンディ刑事だ。
その島では、大学院生のハティが、博士論文の執筆のため、遺跡の発掘を行っていた。その場所がサンディ刑事の祖母ミマの所有する小農場の敷地というわけなのだが、そこで人間の頭蓋骨が発見された。それが事件の発端となり、ミマ、そしてハティが死んでいるのが発見される。ミマは事故死、ハティは自殺と考えられたのだが、疑問を持ったペレス警部はサンディ刑事と共に事件の真相を調べることになる。
ところで、このサンディ刑事、自他ともに認める「できない子」でいつも間違ってばかりいるのだが、今回はなかなかいい仕事をしている。彼もこの事件の捜査を通して少しは成長しているようだ。そういった点に注意しながら、本作をサンディ君の成長物語として読んでみてもなかなか面白いのではないかと思う。
この作品には色々な伏線らしきものが散りばめられているのだが、これを全部殺人事件に結びつけようとすると、読者は戸惑ってしまうだろう。中には事件にあまり関係のないことや、別の事件に関係していることもあり、これが読み手を迷わせる。もちろん最後はペレス警部によって事件は解明されるのだが、その真相は驚くようなものだった。このシリーズも、次の巻でいよいよ最終章。実は「四重奏」の続編である「水の葬送」を先に読んでしまったので、ペレスとその婚約者であるフランに何か起きるかは分かっているのだが、事件の方は果たしてどんなものだったのか早く確認したい。
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※本記事は、書評専門の拙ブログ「風竜胆の書評」に掲載したものです。