本書は、名医というより名探偵と言った方が相応しい?天医会総合病院の副院長兼統括診断部長の若き女医・鷹央先生の活躍する「推理カルテ」シリーズの一つ。本書に収められているのは、次の三作。すなわち「禁断の果実」、「七色の猫」、「遺された挑戦状」である。このうち最後の「遺された挑戦状」が本書の半分以上を占めており、2つの短編と1つの中編というのが相応しいだろう。
この「遺された挑戦状」では鷹央の学生時代の師匠だった人が出てくる。当時の帝都大総合病院の教授で今は御子神記念病院の院長である御子神氷魚という人物だ。鷹央は、診断の技術は神がかっていると言っていいほど天才的であるが、対人関係はさっぱりだ。前々からそのような設定ではないかと思っていたが、本書にはその辺りがはっきり書かれている。鷹央は「かってはアスペルガー症候群と呼ばれ、今は自閉症スペクトラム障害のひとつとされている特性を持っている」(pp37-38)とある。そして氷魚も同じような特性を持っているのだ。その氷魚が、不審な死を遂げる。これに挑戦するのが鷹央先生という訳だ。これは主として「遺された挑戦状」で扱われているが、「禁断の果実」では毎年定期的に肝炎を起こす高校生の話、「七色の猫」では、身体に色を塗られた猫の謎。
作者は現役の医師でもある。だから医学的知識は豊富である。これをうまく活かした医学ミステリーではないかと思う。
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