![]() | 純喫茶「一服堂」の四季 (講談社文庫) |
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講談社 |
・東川 篤哉
鎌倉にあるという、まるで客を拒否するかのような純喫茶「一服堂」。なにしろ見かけは古民家。看板は表札と間違えそうな小さなもの。知らない人は、ここが喫茶店などと気づかずに通り過ぎてしまうくらいだ。おまけに、店主は極度の人見知りで、接客が大の苦手。美人であるのだが、よくこれで店がつぶれずにいるものだと思う。
ところで、この美人店主の名前は安楽椅子。「アンラクイス」ではなく「アンラクヨリコ」と読む。その名の通り、安楽椅子探偵で、推理になると人格が変わる。
なにしろ、それまで自分が飲んでいたコーヒーの容器をいきなり割って、<甘いですわね!まるで『一服堂』のブレンド珈琲のように甘すぎますわ>(p59)などと自分の入れたコーヒーに対して自虐ツッコミをした挙句に、客の話から見事真犯人を推理するのだから。
本書は、タイトルの通り、春夏秋冬に起きた事件を収録したものだ。客がこの店で、事件の話をすると、椅子の人格が急に変わって、名推理を披露するというのが基本的なパターンである。
事件は死体が十字架に括りつけられていたり、バラバラにされていたりと、猟奇的なものばかりだが、話の方はいかにも東川篤哉の作品らしくテンポよくコミカルな調子で進んでいく。このギャップも彼の作品の魅力の一つだろう。
なお、この作品には、全体を通して一つのしかけが組み込まれている。春夏秋までは、そんなしかけがあることにはまず気が付かないのが、最終話の冬の話で、驚くような事実がいろいろと判明するのである。なかなか面白い話なので、シリーズ化して欲しいとも思っていたのだが、この「冬」最終話を読むと、シリーズ化も不可能ではないだろうが、ちょっと難しいかもしれないなと思った。
☆☆☆☆☆
※初出は、「風竜胆の書評」です。