本書は、物理学者なのに、夏目漱石門下であり、随筆家としても知られる、寺田寅彦さんの少年時代の勉強法を描いたエッセイである。彼は熊本にある旧制五高で、当時英語教師だった夏目漱石と出会い、大きな影響を受けた。その後東京帝大理科大学に進み、そこの物理学の教授にまでなっている。
これは、寺田さんが高知県にある旧制中学校を受験した時の思い出話だ。旧制中学というのは、現在の高校相当だが、ほとんどの人は義務教育だった尋常小学校卒業までで、その上の高等小学校や中学校は誰もが行くところではなかった。この点今の学制とは全然違う。その点をまず頭にいれて読む必要があるだろう。
寺田さんは、高等小学校3年のときに、中学を受験して、この時は不合格になっている。しかし、これによって一念発起して翌年も受験し、成績がよかったので2年に編入された。つまり、長い目で見れば辻褄があったことになる。今だったら考えられないことだが、昔の教育制度は、けっこうフレキシブルだったようだ。最近は教育職場のブラック度が知れ渡り、教員を目指す人が少なくなっていると聞く。また教師自体の質も大分低下している節もある。昔のように飛び級を認めれば、多少なりとも解消する方向に向くのではないだろうか。
さて、肝心の寺田さんの勉強法だが、一言で言えば、やりたい時にやって、毎日時間を決めてやったというわけではない。また寺田さんの家もこれを許すような環境だったようだ。ただ、本は多読といっていいほどたくさん読んだようだ。これによって読解力がかなりつき、それがいろいろな科目にプラスに影響したのだろう。
もちろん、当時は塾も予備校も無かった。今のように当たり前のように塾や予備校に行ってなんでも習うというのは、少し考える必要があるのではないか。そういった親たちに次の言葉を送りたい。
「10で神童、15で才子、20歳過ぎれば只の人」
そう、大金をはたいて、只の人となるために、子供を塾や予備校に通わせているという現実を世の中の親はもっと知るべきだろう。
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