チクチク テクテク 初めて日本に来たパグと30年ぶりに日本に帰ってきた私

大好きな刺繍と大好きなパグ
香港生活を30年で切り上げて、日本に戻りました。
モモさん初めての日本です。

歩荷(ぼっか)

2016年09月11日 | 日々のこと

曇り、25度、96%

 衛星放送のNHKワールドを付けっ放しにしていました。この局はNHKの海外向けの局で英語放送です。尾瀬のことを紹介しています。アナウンサーの響きの良い「ぼっか」という言葉が耳に入って来ました。画面に目をやると、背負子に段ボールの箱をたくさん載せて歩く人の後ろ姿です。山小屋に日常品や食料品を担いで上がる人です。すれ違う人たちが道を開けてその「ぼっか」を通します。「ぼっか」私の耳には素敵な響きを持ってその言葉が残りました。

 英語放送ですから、荷を担ぐ人のことを英語で「ぼっか」というのかと思い調べます。英語ではなさそうです。確か放送では今では荷を担いであげるのは、この尾瀬地方だけになったと言っていました。そこで、「尾瀬、荷物担ぎ」で検索すると出て来ました。「歩荷」日本語です。

 山小屋に荷を担いで上がるのを仕事にしている人のことは、新田次郎の小説や串田孫一の「山のパンセ」などで読んで知っていましたが、「歩荷」と書いて(ぼっか)ということを知りませんでした。「歩荷」という字を文章の中で読んだことはあるかも知れません。その読みが(ぼっか)ではなく、きっと勝手に(ほに)とでも読んでいたのでしょうか。改めて「歩荷」と書いて(ぼっか)と読むことを認識します。

 この(ぼっか)の言葉に響きの良さに魅かれて、「歩荷」のことを調べてみました。今では何処の高い山小屋にもヘリコプターを使って荷を上げます。日本で「歩荷」を職業としている人は尾瀬地方だけのようです。しかもみんな男性。確かに数百キロの荷物を背負っての山道の仕事は女性のものではありません。それでも戦前は女性の「歩荷」もいたのだそうです。何故尾瀬にだけ「歩荷」が残っているのか、これは私の想像ですが、あの尾瀬の空にヘリコプターの騒音が響くのを避けてのことではないでしょうか。

 胸の辺で両腕を組むようにしてやや前屈みに背中にはたくさんの荷物を乗せて歩く「歩荷」のテレビに写し出された姿が忘れらません。無心で歩いているのでしょうか。何かを反芻しながら歩いているのでしょうか。山小屋にたどり着けば待っていた人の笑顔に迎えられます。その瞬間は、ほんとに肩の荷が下りる思いでしょう。でも、上れば降りなくてはなりません。行きとは違い背中には涼しい風も吹きます。周りの緑や鳥のさえずりを楽しむ余裕もあるはずです。行きに反芻して考えていたことも、帰りには雲が晴れるようになくなっているかもしれません。

 突然テレビから耳に飛び込んで来た「ぼっか」という言葉にここ数ヶ月いろいろな思いを合わせてみます。あの時、私の耳に「ぼっか」が聞こえなかったら、何処かで「歩荷」と書いてあっても「ほに」と今でも読んでいたかもしれません。澄んだ空気の中を伏し目がちに歩く「歩荷」の後ろ姿は何やら尊さが漂っていました。

 

コメント
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