夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『馬々と人間たち』

2015年01月10日 | 映画(あ行)
『馬々と人間たち』(英題:Of Horses and Men)
監督:ベネディクト・エルリングソン
出演:イングヴァール・E・シーグルソン,シャーロッテ・ボーヴィング,ステイン・アルマン・マグヌソン,
   キャルタン・ラグナルソン,ヘルギ・ビョルンソン,シグリーズル・マリア・エイルスドティール他

前々日はタイ料理屋で、前日は蕎麦屋で忘年会。
連日飲んでいるうえに寝不足でちとしんどい。
出かけるのはせめて梅田までにしておこうと、テアトル梅田へ。

珍しいアイスランド作品。
アイスランドといえば『レイキャヴィク・ホエール・ウォッチング・マサカー』(2009)。
あれは相当イッちゃっているB級作品でしたが、本作もかなり怪しい。
けれどもあれよりかは芸術的な香りはして、お上品っぽい。さて。

冷たい風が吹く日もある、春まだ浅いアイスランドの小さな村。
娯楽の少ないこの村では、村人の誰もが双眼鏡を持っている。
話題の種を見逃すことがないようにするためだ。

現在の村人の最大の関心事は、独身男コルベインと子持ちの未亡人ソルヴェーイグの恋の行方。
コルベインがソルヴェーイグの自宅を訪れることになっている日、
どの家も外に椅子を持ち出して、お茶や酒を片手に双眼鏡を覗き込む。
コルベインとソルヴェーイグの茶話が無事終わったかと思いきや、
コルベインが乗ってきた自慢の牝馬にソルヴェーイグの飼馬がのしかかる。
きずものにされてしまった牝馬を泣く泣く撃ち殺すコルベイン。
飼馬を去勢するソルヴェーイグ。

ヴェルンハルズルは大のウオッカ好き。
ロシアのトロール船が寄港したさいにはウオッカを譲ってもらうのが常。
ところがある日、その機会を逃してしまう。
すでに出港したトロール船を追い、ヴェルンハルズルは馬に乗ってずぶずぶと海の中へ。
ようやく追いついたトロール船の乗組員は酒を譲ってくれるが、
「これはウオッカではない。ウオッカより強い、恐ろしく強い酒。そのまま飲んでは駄目だ」と忠告する。
なのにヴェルンハルズルは馬に乗ったまま早速飲みはじめ、酒が急激に回って……。

エーギットールは馬を囲うために有刺鉄線の柵を作る。
しかし、馬を柵に入れるのが嫌いなグリームルは、有刺鉄線をぶった切って回る。
怒ったエーギットールはグリームルを追うが、トラクターの運転を誤って転落。
一方のグリームルも自分で切った有刺鉄線の先に目を直撃されて……。

手綱さばきが素晴らしい美女ヨハンナ。
気に入った牝馬を手に入れようとするが、その牝馬がほかの数頭とともに逃走。
「君には無理だ」という男どもに「私に任せて」と言い放つと、
ヨハンナはたったひとりで牝馬を追う。
やっと見つけたちょうどそこに、顔を血だらけにしたグリームルが。
グリームルを抱え、さらには何頭もの馬を引き連れて帰ってきたヨハンナは拍手で迎えられる。
その姿を見た旅する青年フアンはヨハンナの虜になり、
グリームルの息子オリが主催する乗馬観光への参加を即決するのだが……。

こんなオムニバス風群像劇です。
やっぱり変な国だという印象は拭えませんが、馬の目が優しいし、
馬と共に生きる村人たちの姿がたくましくもあり可笑しくもあり。

以下、ネタバレです。

私が感動したのは、乗馬観光の列から遅れたフアンが吹雪に遭ったとき。
凍え死ぬかというそのとき、ナイフを取り出した彼が何をするのかと思えば、
まず馬を殺し、その馬の腹を割いて腸を取り出すと、体ごと中に入るのです。
それで暖を取って凍死を免れたフアンは、朝になってようやく村人に発見されます。
自分が生き延びるために馬の腹を割いた旅人がどんなに咎められるのかと思っていたら、
気も狂わんばかりに泣き叫ぶフアンを村人は優しく抱きしめ、
「もう大丈夫だから」と声をかけるのです。
馬と共に生き、馬を大事にしつつ、最後の手段に馬の命を使った旅人を咎めない。
命をいただくということ、それを毎日体感して生きているのだなぁと思いました。

やっぱり全然ちがいました。B級作品とは。

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