雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

釈迦菩薩 閻浮提に下る ・ 今昔の人々

2025-01-05 08:09:40 | 今昔の人々

     『 釈迦菩薩 閻浮提に下る ・ 今昔の人々 』


『 今昔、釈迦如来、未だ仏に不成給ざりける時は、釈迦菩薩と申して、兜率天の内院と云所にぞ住給ける ・・・ 』
「今昔物語」は、一千余話にのぼる物語が集められている膨大な作品集であるが、その最初の物語、「巻第一の第一話」は、この文章で始まる。

さて、釈迦菩薩が閻浮提(エンブダイ・古代印度の仏教的宇宙観で、須弥山の南方洋上にある大島で、我々の住む世界とされる。)に下られようと思われたが、その時、五衰(ゴスイ)を現わしなさった。
五衰と申すのは、一つは、天人は瞬きをするはずがないのに、瞬きをなさった。二つには、天人の頭の花鬘(ケマン・生花で作られた飾り。)は萎(シボ)むことがないのに萎んだ。三つには、天人の衣に塵がつくことはないのに、塵・垢がついた。四つには、天人は汗を流すことがないのに、脇の下から汗が流れ出た。五つには、天人は自分の座を替えることがないのに、もとの座を求めず、行き当たった所を座となさった。

このように五衰を示される釈迦菩薩を見て、諸々の天人は不思議に思って言った。
「我らは、今日、この相を現じ給うのを見て、驚き恐れ、身体が震え心が落ち着きません。願わくば、我らのために、その故を話して下さい」と。
釈迦菩薩は諸天に答えて、「諸行無常ということを、今こそ知るべきです。私は、久しからずして、この天の宮を離れて、閻浮提に生れようとしています」と言った。これを聞いて、諸々の天人はたいへん嘆いた。

こうして、釈迦菩薩は、「閻浮提に生れるのに、誰を父とし誰を母とするべきか」と思案された。その結果、「迦毘羅衛国(カピラエコク)の浄飯王(ジョウボンオウ)を父とし、摩耶夫人(マヤブニン)を母にするのが条件に適している」と思い定められた。
そして、癸丑(ミズノトウシ)の年の七月八日(釈迦の誕生年月日については、多くの説がある。)、摩耶夫人の胎内に宿られた。
その夜、夫人が寝ている時の夢に、菩薩が六牙の白象(ロクゲのビャクゾウ・普賢菩薩の乗り物とされる。)に乗って大空からやってきて、夫人の右の脇から身体の中に入られた。夫人は驚いて目覚め、浄飯王の御許に行って、この夢のことを申し上げた。
すると、王は、「我もまたそのような夢を見た。どう判断すればよいか分らない」と申された。

そこで、善相婆羅門という人を招いて、夫人の夢を占わせたところ、「夫人の妊みたる太子は、たいへん尊い相をお持ちです。きっと釈迦族を光りで包むでしょう」などと、やがて誕生してくる御子のただならぬ将来を占ったと言う・・・。
やがて誕生なさるお方の壮大な生涯は、こうして始まるのである。

           ☆   ☆   ☆

     ( 「今昔物語 巻第一の第一話」を参考にしました )

 



 



    


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