麗しの枕草子物語
ばつが悪い
そりゃあ、私にだって、ばつの悪いことってありますわ。
他の人を呼んでいるのに、「自分のことだ」とすっかり思い込んでしまい、お呼びになったお方の前に出て行ってしまった時。お呼びになったお方の困ったお顔を思い出すにつけ今でも恥ずかしさがよみがえってきます。
それが、ご褒美か何かを下されようとされている時となれば、その恥ずかしさは倍増しますわ。
ついつい調子に乗ってしまって、人さまの悪口を話しあってしまうことって、どなたでもありますでしょう。
ところがね、小さな子が聞いていて、当の本人がいる時に、私の口真似をするようにして言うのですよ。まったく、もう・・・。
どなたかが、とても悲しいお話をされて、聞いている人も本人も涙を流されていて、私も心から「お気の毒だ」と思っているのですが、なぜか涙が出てこないのですよ。必死になって泣き顔を作り、悲しげな表情をするのですが、一滴の涙も出てこないのは、何ともばつの悪いものでございます。
そのくせ、とても素晴らしいことを見たりしますと、たちまち涙があふれてきて次から次へと流れてきて止めるのに困ってしまうのです。あれはいったい何なのでしょうか。
(第百二十二段・はしたなきもの、より)