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一日目の講義のあと、グループ分けと部屋割の説明があり、それぞれの部屋に案内された。
宿舎は、食堂になっている部屋の前を更に進み、突き当って直角に曲がった所からの一辺があてられていて、ホテルのような部屋がずらりと並んでいる。
この建物は、大きな中庭を取り囲んだ「回」の形になっていて、講義が行われていた部屋と対面する形で宿舎となる部屋が三十ばかりも並んでいて、さらに曲がった先の一部にも部屋が続いている。何でも、最大では二百人近い宿泊が可能だそうである。
三姉妹の部屋は真ん中あたりで、三人で使用するように割り当てられていた。姉妹なので特別に配慮されたということではなく、申込単位で、二人から四人で一部屋を利用するように割り当てられていて、一人での申込者は、同性の何人かが一部屋になるように決められていた。
部屋の鍵は、それぞれに与えられているICカードが機能を持っていて、三姉妹の場合は、誰のカードでも使用できるように、既に設定されていた。ドア横にカードを接触させる機器が設置されていて、かなりしっかりと接触させないと働かないようになっていた。
三人は車から荷物を運び込み、部屋の整理にかかった。
といっても、三人が持ち込んだのはいずれも大型のスーツケースではあったが、その殆どは衣類なので改めて片付けるということもなかった。
部屋は十分な広さが確保されていた。入った所がたたき風になっていて、履き物入れがあり新しいスリッパが三足用意されていた。講義に出る時以外は食堂などへも履いて行ってもよく、個人的に準備したものを使うのも自由であった。室内全体はカーペットが敷かれていて、土足のままで部屋を使っても差し障りなかった。
部屋全体は奥に長い造りになっていて、たたきにあたる部分に洗面所があり小さな調理台もついている。その次にベッドルームが四つあり、その奥にトイレと洗面所と風呂が配置されている。入り口ドアから一番奥の窓際までは幅の広い廊下になっていて、一番奥の部分は応接セットが置かれていた。
ベッドルームにはロッカーと机が置かれていて、出入り口は引き戸になっていて施錠も出来るようになっている。
間取りからすれば、四人用と考えられるが、ベッドさえ追加させれば八人でも可能な広さを持っている。
三人は部屋割を決め、荷物の一部を各自のロッカーに移した。三人が使う部屋も一番奥を空けることにして、一番奥に長女の和美、その横が次女の君枝、一番手前に雅代が入ることにした。
いつもは和美を真ん中にするのが習慣のようになっているが、ここの部屋割では長女を一番奥にするのが姉を守ることになると妹たちは考えたのである。
**
「少し、イメージ違ったなあ・・・」
雅代が二人の姉に近づきながらつぶやいた。
参加者全員がそれぞれ割り当てられた部屋に入り、片付けや休憩でしばらく時間を過ごした後夕食となった。
歓迎会を兼ねたもので、役員や世話役の人も加わったバイキング形式の食事会で、世話役の人たちは大変気を使って参加者たちに話しかけてくれていた。ただ、残念ながら、参加者の方は今一つ打ち解けることが出来ず、慣れない一日に疲労を感じている人もいる様子で、主催者側の人たちの動きが目立つ夕食会となった。
参加者にとっては緊張した一日の予定がようやく終わり、再びそれぞれの部屋に入った。
三姉妹も、部屋に戻ると早速に交代で風呂に入った。風呂の様子などはすでに確認済みで、長女の和美は着替えもそこそこに風呂に向かった。風呂に入る順番は特別に相談することもなく、当然のように和美が最初で、二番目は、これは当然ではないが次女の君枝が入り、最後が三女の雅代という順になっていた。
風呂は洋式になっているので、順序は特に考えなくてもよいが、危険でないものはたいてい和美が最初というのが不文律のようになっていた。
広い廊下の窓際がリビングのようになっていて、狭いながらも四人が座れるように応接セットが置かれている。和美と君枝は席についていて、テーブルにはビールの入ったグラスが置かれている。
「さあ、座って。乾杯しよう」
君枝が姉と妹にグラスを配り、乾杯の音頭を取った。
「何はともあれ、無事に初日をスタート出来てよかったね。それで、イメージが違うって、何が?」
一息にグラスを半分ほど開けて、君枝が尋ねた。
グラスは和美の家から運んできたもので、ビールとつまみは、夕食会の残りを頂戴してきたものである。
「何がって・・・。お偉いさん達の話よ。わたしが考えていたのとは、少し違うみたい」
「違うって、どのあたりが?」
「お偉い方々が次々挨拶されたでしょう。どなたも歓迎してくれているのはよく分かるの。でも、何だか難しそう」
「難しい・・・。別にそれほど難しいほどの話ではなかったわよ」
「いえ、ね、難しいというのとは少し違うけど・・・、つまり、ちょっと様子が違うぞ、って感じかな」
「何よ、それ?」
「わたしはね、ここの市民になれば、恵まれた自然の中で自由気ままに自分の好きなことをしながら過ごせると思っていたの。もちろん、お姉さんたちのお世話は一生懸命するわよ。でも、それ以外は、のんびりとした生活が待っているものだと期待していたの。でも、お偉い方々の話では、何だか、わたしたち、お世話をするためにやってきたみたいよ。
『どうぞご心配なく。皆さまが活躍していただける場所は必ずありますから』だって・・・」
雅代が、役員の挨拶の一節を真似るようにして不満を述べたので、姉たちは声を出して笑った。そして、そのあとを和美が引き取った。
「確かに、雅代さんの言う通りかもしれないわね。この講座は、私が二人をひっぱってきてしまったようなものでしょ。ですから、受けたからって、入国しなければならないってことではないのよ。じっくりと中身を検討してから決めたらいいのよ」
一日目の講義のあと、グループ分けと部屋割の説明があり、それぞれの部屋に案内された。
宿舎は、食堂になっている部屋の前を更に進み、突き当って直角に曲がった所からの一辺があてられていて、ホテルのような部屋がずらりと並んでいる。
この建物は、大きな中庭を取り囲んだ「回」の形になっていて、講義が行われていた部屋と対面する形で宿舎となる部屋が三十ばかりも並んでいて、さらに曲がった先の一部にも部屋が続いている。何でも、最大では二百人近い宿泊が可能だそうである。
三姉妹の部屋は真ん中あたりで、三人で使用するように割り当てられていた。姉妹なので特別に配慮されたということではなく、申込単位で、二人から四人で一部屋を利用するように割り当てられていて、一人での申込者は、同性の何人かが一部屋になるように決められていた。
部屋の鍵は、それぞれに与えられているICカードが機能を持っていて、三姉妹の場合は、誰のカードでも使用できるように、既に設定されていた。ドア横にカードを接触させる機器が設置されていて、かなりしっかりと接触させないと働かないようになっていた。
三人は車から荷物を運び込み、部屋の整理にかかった。
といっても、三人が持ち込んだのはいずれも大型のスーツケースではあったが、その殆どは衣類なので改めて片付けるということもなかった。
部屋は十分な広さが確保されていた。入った所がたたき風になっていて、履き物入れがあり新しいスリッパが三足用意されていた。講義に出る時以外は食堂などへも履いて行ってもよく、個人的に準備したものを使うのも自由であった。室内全体はカーペットが敷かれていて、土足のままで部屋を使っても差し障りなかった。
部屋全体は奥に長い造りになっていて、たたきにあたる部分に洗面所があり小さな調理台もついている。その次にベッドルームが四つあり、その奥にトイレと洗面所と風呂が配置されている。入り口ドアから一番奥の窓際までは幅の広い廊下になっていて、一番奥の部分は応接セットが置かれていた。
ベッドルームにはロッカーと机が置かれていて、出入り口は引き戸になっていて施錠も出来るようになっている。
間取りからすれば、四人用と考えられるが、ベッドさえ追加させれば八人でも可能な広さを持っている。
三人は部屋割を決め、荷物の一部を各自のロッカーに移した。三人が使う部屋も一番奥を空けることにして、一番奥に長女の和美、その横が次女の君枝、一番手前に雅代が入ることにした。
いつもは和美を真ん中にするのが習慣のようになっているが、ここの部屋割では長女を一番奥にするのが姉を守ることになると妹たちは考えたのである。
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「少し、イメージ違ったなあ・・・」
雅代が二人の姉に近づきながらつぶやいた。
参加者全員がそれぞれ割り当てられた部屋に入り、片付けや休憩でしばらく時間を過ごした後夕食となった。
歓迎会を兼ねたもので、役員や世話役の人も加わったバイキング形式の食事会で、世話役の人たちは大変気を使って参加者たちに話しかけてくれていた。ただ、残念ながら、参加者の方は今一つ打ち解けることが出来ず、慣れない一日に疲労を感じている人もいる様子で、主催者側の人たちの動きが目立つ夕食会となった。
参加者にとっては緊張した一日の予定がようやく終わり、再びそれぞれの部屋に入った。
三姉妹も、部屋に戻ると早速に交代で風呂に入った。風呂の様子などはすでに確認済みで、長女の和美は着替えもそこそこに風呂に向かった。風呂に入る順番は特別に相談することもなく、当然のように和美が最初で、二番目は、これは当然ではないが次女の君枝が入り、最後が三女の雅代という順になっていた。
風呂は洋式になっているので、順序は特に考えなくてもよいが、危険でないものはたいてい和美が最初というのが不文律のようになっていた。
広い廊下の窓際がリビングのようになっていて、狭いながらも四人が座れるように応接セットが置かれている。和美と君枝は席についていて、テーブルにはビールの入ったグラスが置かれている。
「さあ、座って。乾杯しよう」
君枝が姉と妹にグラスを配り、乾杯の音頭を取った。
「何はともあれ、無事に初日をスタート出来てよかったね。それで、イメージが違うって、何が?」
一息にグラスを半分ほど開けて、君枝が尋ねた。
グラスは和美の家から運んできたもので、ビールとつまみは、夕食会の残りを頂戴してきたものである。
「何がって・・・。お偉いさん達の話よ。わたしが考えていたのとは、少し違うみたい」
「違うって、どのあたりが?」
「お偉い方々が次々挨拶されたでしょう。どなたも歓迎してくれているのはよく分かるの。でも、何だか難しそう」
「難しい・・・。別にそれほど難しいほどの話ではなかったわよ」
「いえ、ね、難しいというのとは少し違うけど・・・、つまり、ちょっと様子が違うぞ、って感じかな」
「何よ、それ?」
「わたしはね、ここの市民になれば、恵まれた自然の中で自由気ままに自分の好きなことをしながら過ごせると思っていたの。もちろん、お姉さんたちのお世話は一生懸命するわよ。でも、それ以外は、のんびりとした生活が待っているものだと期待していたの。でも、お偉い方々の話では、何だか、わたしたち、お世話をするためにやってきたみたいよ。
『どうぞご心配なく。皆さまが活躍していただける場所は必ずありますから』だって・・・」
雅代が、役員の挨拶の一節を真似るようにして不満を述べたので、姉たちは声を出して笑った。そして、そのあとを和美が引き取った。
「確かに、雅代さんの言う通りかもしれないわね。この講座は、私が二人をひっぱってきてしまったようなものでしょ。ですから、受けたからって、入国しなければならないってことではないのよ。じっくりと中身を検討してから決めたらいいのよ」