伴大納言 疫病神となる・ 今昔物語 ( 27 - 11 )
今は昔、
[ 欠字あり。年時が入るが不詳。]の頃、国中に咳病(シワブキヤミ・流行性の風邪の一種か?)が大流行し、これに罹らぬ人はいないという状態で、上中下の人すべてが病み伏した。
その頃、ある所で、調理人をしている男が、家内の仕事をすべてし終わったので、亥の時(イノトキ・午後十時頃)の頃、皆が寝静まってからわが家に帰ろうと家を出たところ、門の所に、赤い上着を着て冠をつけていて、たいそう気高く怖ろしげな人に出会った。見たところ、その姿は気高く、誰だかわからないものの「下賤の者ではあるまい」と思って、その前にひざまずくと、その人は、「お前は、私を知っているのか」と言った。
調理人は、「存じ上げません」と答えると、その人は、「私はのお、昔、この国におった大納言の伴善雄(トモノヨシオ・伴善男とも。貞観八年(866)応天門炎上事件の首謀者とされた。伴氏は大伴氏から改姓したもの。)という者なのだ。伊豆の国に流罪となって、ずっと以前に亡くなっている。それが行疫流行神(エヤミノカミ・疫病を流行らせる神)となったのである。私は心ならずも朝廷に対して罪を犯し、重い罪をこうむったが、朝廷に仕えている間は、この国から多くの恩を受けた。それゆえ、今年は国中に疫病が流行して、この国の人皆が病死するはずになっていたが、私が咳病程度でとどめるようにしてやったのだ。そのため、咳病が流行っているのだ。私は、そのことをお前に伝えておこうと思ってここに立っているのだ。お前は何も恐がることはないのだ」と言うと、掻き消すように姿が消えた。
調理人はこれを聞いて、こわごわ家に帰り、人々に語り伝えた。
それ以来、「伴大納言は行疫流行神になっている」と人々は知ったのである。
それにしても、世に人はたくさんいるのに、どうしてこの調理人にこの事を伝えたのだろう。
それにもきっと何かわけがあるのだろう。
此(カク)なむ語り伝へたるとや。
☆ ☆ ☆
今は昔、
[ 欠字あり。年時が入るが不詳。]の頃、国中に咳病(シワブキヤミ・流行性の風邪の一種か?)が大流行し、これに罹らぬ人はいないという状態で、上中下の人すべてが病み伏した。
その頃、ある所で、調理人をしている男が、家内の仕事をすべてし終わったので、亥の時(イノトキ・午後十時頃)の頃、皆が寝静まってからわが家に帰ろうと家を出たところ、門の所に、赤い上着を着て冠をつけていて、たいそう気高く怖ろしげな人に出会った。見たところ、その姿は気高く、誰だかわからないものの「下賤の者ではあるまい」と思って、その前にひざまずくと、その人は、「お前は、私を知っているのか」と言った。
調理人は、「存じ上げません」と答えると、その人は、「私はのお、昔、この国におった大納言の伴善雄(トモノヨシオ・伴善男とも。貞観八年(866)応天門炎上事件の首謀者とされた。伴氏は大伴氏から改姓したもの。)という者なのだ。伊豆の国に流罪となって、ずっと以前に亡くなっている。それが行疫流行神(エヤミノカミ・疫病を流行らせる神)となったのである。私は心ならずも朝廷に対して罪を犯し、重い罪をこうむったが、朝廷に仕えている間は、この国から多くの恩を受けた。それゆえ、今年は国中に疫病が流行して、この国の人皆が病死するはずになっていたが、私が咳病程度でとどめるようにしてやったのだ。そのため、咳病が流行っているのだ。私は、そのことをお前に伝えておこうと思ってここに立っているのだ。お前は何も恐がることはないのだ」と言うと、掻き消すように姿が消えた。
調理人はこれを聞いて、こわごわ家に帰り、人々に語り伝えた。
それ以来、「伴大納言は行疫流行神になっている」と人々は知ったのである。
それにしても、世に人はたくさんいるのに、どうしてこの調理人にこの事を伝えたのだろう。
それにもきっと何かわけがあるのだろう。
此(カク)なむ語り伝へたるとや。
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