クリスマスまであと三日を残すエルク狩りシーズンの最後の週は、ビッグホーン山脈に嵐が近づいていて、空はどんよりとした雪雲に覆われ風が一段と冷たさを増した。
ワイオミング州猟区管理官ジョー・ピケットは、緑色のピックアップトラックの四輪駆動車でパトロールしていた。草原を見渡す位置に車を停めて見ていると、最後のエルクが姿を現した。三発の銃声が静寂を破った。群れは動きそのあとに動かない三つの茶色い点が残された。パトロールはあらゆる状況を把握しなければならないが、ジョーはすでに一台のGMCのピックアップトラックを見ていた。一人の男が乗っていたのも確認済みだった。
その男が発砲したとすれば、法律違反をしたことになる。一人一頭がその法律だった。逮捕した男は、国有林の地区監督官ラマー・ガーディナーだった。ガーディナーは結局七頭を撃ち殺していた。連れ帰る途中ガーディナーに逃げられ、挙句発見したときには二本の矢がガーディナーの体を串刺しにし喉を掻き切られて殺されていた。
これが物語の発端で、気が滅入るほど寒くて鬱陶しい風景を背景に、殺人事件が権力側の無節操な人間たち――FBI捜査官や郡保安官、森林局職員など――と権力と対峙する組織との確執に飲み込まれていくジョー・ピケットの里子エイプリルの悲劇まで、途切れることのないうねりで厭きることがない。
読者が親近感を持つ人物や嫌悪を抱く人物を鮮やかに描く。現代の西部劇だ。ただ、最後の決着が法に従わない手段だったのがなじめない。
間断なく降る綿毛のような雪に身動きが出来なくなる危険にさらされて、ダッシュボードの先を凝視しながらハンドルにしがみついて車体の底から突き上げる衝撃に喉がカラカラになるほど緊張が走る。こんな状況は、かなり荒れたオフロード走行の体験があれば、思い出してにんまりするだろう。
殺人者は、どんな理由があろうとも法の裁きを受けなければならない。しかし、それ以上に始末に負えないのは、FBIや保安官が代表する権力側の都合のいい判断や無定見さを著者は糾弾しているように思えてならない。
著者は、ワイオミング州生まれ。牧場労働者、測量技師、フィッシング・ガイド、ミニコミ誌編集者などさまざまな職業を経て旅行マーケティング会社を経営、2001年、デビュー作の「沈黙の森」で絶賛を浴び、主要ミステリー新人賞を独占した。