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最後のページを閉じたとき、長身で立派な骨格を持ち、白く美しい豊かな髪と若い頃は美しかっただろうと思わせる少しやつれた容貌ながらその優雅な物腰は、身についた上品さというより彼女自身の趣味のよさと訓練によるものと思われるリオノーラ・ギャロウェイとともに1916年代に置き去りにされたような妙な気分にさせられた。
七十歳になったリオノーラが、娘のピネロピに語って聞かせる自らの運命は驚愕に満ちたものだった。第一次世界大戦中、最大のソンムの戦いを背景題材に貴族の館で起こるアメリカ人殺人事件を絡めて謎に次ぐ謎に読み手は翻弄されるが、それは心地よい刺激となって活字を追い回してしまう。
時には詩的な文体に漂いながら、船の航跡の白い泡立ちを眺めるようにいとおしい気分にもさせられる。そして、まったく予期せぬ結末には呆然としてしまった。 複雑な物語を面白く語る才能に恵まれた作家といわれるゴダードの才知が横溢している。拳銃やライフル、筋肉マンの力こぶなども必要ない。もっと言えば、女の肉体の細部の描写も必要ない。ただ必要なのは人物の的確な描写と人間関係の緊張だろう。
その点でパワーストック卿の後妻オリヴィアは悪女の典型で、すべての男を虜にして手玉に取っていた。オリヴィアの存在がなければ、わさびのない刺身を食べているようなものになっただろう。この作品は、1988年上梓され二作目にあたる。