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ジョージ・P・ペレケーノス「変わらぬ哀しみは」

2008-09-26 11:34:58 | 読書

               
 1968年ワシントンDC。デレク・ストレンジは、白人のトロイ・ピーターズと組んでパトカー勤務をしていた。黒人のデレクは、トロイのことをプリンストン大出のお坊ちゃんだと思っていたし、自分は高校出で黒人だということでなんとなく薄い壁を自ら張り巡らし、トロイから夕食の誘いにも素直になれない。
 デレクには素晴らしい両親に恵まれているが、兄のデニスが定職につかず悪い仲間とつるみマリファナと酒で現実逃避しているのが気がかりだった。時代はようやくマーチン・ルーサー・キング牧師の黒人の地位向上運動の兆しが見え始めたが、人種間の対立は容易に収まる気配は無かった。
 そんなある日,デニスが殺される。事件を追うのは、デレクのほかに刑事のフランク・ヴォーンもいた。キング牧師が暗殺されて、暴動が起こるさなかデニス殺しが割れる。神を信じる敬虔な母親、二人の息子の行く末を案じる父親、オルガと言う妻を持ちながら、他に女を囲ってセックスを楽しみ、行きつけの酒場でただ酒を飲む男フランク。そのオルガとも良好な夫婦関係を維持している。
 “腰をオルガに押しつけ、体が反応していることを分からせる。オルガにはうんざりすることもあるが、なんといっても女房であり、恋人でもあるのだ。オルガは激しいのが好みだ。一度、その気になると、袋に入れたオオヤマネコのようになる”
 「袋に入れたオオヤマネコ」にはにやりとさせられる。となるとこのオルガと言うネーミングもなにやら意味ありげに思われてくる。フランクの人間くささにニヤニヤしながら街のチンピラたちをいきいきと活写するペレケーノスの哀愁に満ちた筆致を堪能する。
 比喩も切れ味鋭い。「夕日に染まった通りは、蜂蜜に漬かっているように見えた」「キッチンは狭苦しく、照明も薄暗かったが、手袋をはめたときのようにぬくぬくと気持ちよい空気が流れていた」
 それに音楽に関する記述が数多い。デレクの好みとなっているが、ペレケーノスの好みでもあるのだろう。ソウル・シンガーのオーティス・レディングをはじめ、ジェイムス・カー、O・V・ライト、アレサ・フランクリン等など。