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ホームレスを演じるリチャード・ギア「ロスト・イン・マンハッタン~人生をもう一度」劇場未公開

2015-11-10 16:25:11 | 映画

               
 はじめはこのDVDを観る気がしなかった。なにせホームレスの映画だし、物語の展開も想像がつくし、しかも121分と長い。ただサブタイトルの「人生をもう一度」となるとホームレスからの成功物語かもしれないと思い込んで鑑賞と相成った。残念ながら成功物語ではなかったが、中身は示唆に富んでいた。

 運転免許証も社会保障番号カードも水道や電気の領収書もないホームレスは、公的機関の援助が受けられない。その辺をつぶさに描き、捨てる神あれば拾う神ありと諦める必要はないという。

 その張本人は、ジョージ・ハモンド(リチャード・ギア)。白くなった短髪とよれよれのコートにマフラー、だぶだぶのズボン。典型的なホームレス・スタイル。

 過去は多くを語らないが、荒れた生活だった。離婚した後、元妻はガンで死去。12歳の娘マギー(ジェナ・マローン)を元妻の両親が養育してくれた。元の職業などは分からない。

 自嘲気味に我々は無だとほざく。金さえあれば、アルコールを呷る。寒い日には病院の待合室に籠るが、気温1度だと追い出される。そしてシェルターで一夜のベッドを確保して無料の食事で生きつなぐ。

 同じマンハッタンの街角にあるバーで、娘マギーが働いているのを知っている。ある夜、店の前で見知らぬ男に古びた写真をマギーに渡すよう頼んだ。別の日、コインランドリーでマギーと再会。マギーは冷たい。お金を手渡して「もう、こないで!」

 映画を観ていて、エンディングはどうするんだろうと考え始めた。そしてエンディングは、ハイライトとなった。リチャード・ギアとジェナ・マローンの二人の演技の見どころだった。リチャード・ギアは当然として、ジェナ・マローンも卓越した演技だった。

 まだ明るい時間にやってきた父ジョージ。ビールを注文する。娘マギーは迷惑そうだ。言葉もぞんざい。マギーは険を含んだ声で「何かほかにあるんでしょ?」
ジョージは取り出した一通の書類を手渡す。マギーは声に出して読む。
「関係者各位 私はハモンド氏の代理人である。ハモンド氏はホームレス施設に住み、収入が見込めない、よって食事券と生活保護の受給に加え、受給者証の交付を希望する]
「出生証明書のコピーが要るんだ。どうしてもだ。だから……お前に会いに来た」とジョージ。
マギー「分かったわ。飲んで、これは私がおごる」
「もう1杯」とジョージ。マギーの逆鱗に触れる。「ダメよ。もう行って」
「どうして?」
「だって」
「何だ?」
「お店のルールだから」
「私にだって権利はあるだろう」
しばし沈黙。マギーは「それで私は何をすればいい? 教えて。今まで精いっぱいやってきた。だって普通の家庭なら両親が子供の面倒を見てる。それが当然だわ。でしょ? どこに住んでいるって? あきれた、どうして?」
ジョージのアップ「平気だ。心配するな。お代は払わせてくれ」
「要らない。今すぐ出て行って。行って」マギーは従業員専用のドアに消えた。(この部分は音だけ)
そして涙を流すジョージ。誰もいないカウンターに一言「すまない」と言って外に出る。あてもなく歩道を遠ざかる。

 しばらくして娘マギーが飛び出してきてジョージを追う。マギーに一体何が起こったんだろう。恐らく、父親を否定して見捨てたとすれば、父が自分を見捨てたのと同じことになる。マギーが軽蔑し憐れんでいる父親と同じではないか。過去は取り返しがつかない。むしろ見つめるべきは、これからの未来だ。過去を清算する時が来た。 とマギーは考えたと思う。

 マギー役のジェナ・マローンがなかなか顔立ちがよく好感の持てる女優だと思う。で調べてみると子役時代から演技に定評があったようで今や期待の女優らしい。

 リチャード・ギアがこんな地味な映画に出るとはと思ったが、ダライ・ラマの信奉者で人道主義者だった。それなら納得がいく。
          
     
          
          
          
          

監督
オーレン・ムーヴァーマン出自不詳。作風としては、ドキュメンタリー・タッチを特色としているようだ。

キャスト
リチャード・ギア1949年8月ペンシルベニア州フィラデルフィア生まれ。
ベン・ベリーン1946年10月フロリダ州生まれ。
ジェナ・マローン1984年11月ネヴァダ州スパークス生まれ。
キーラ・セジウィック1965年ニューヨーク市生まれ。
コメント
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