スーパー16mmフィルムで撮影されたこの映画は、デジタルにない深みと暖かさを感じる。連合軍最高司令官という軍歴を誇るドワイト・D・アイゼンハワーが1953年大統領に就任した。
その年のクリスマス、テレーズ・ベリベット(ルーニー・マーラ)は、ニューヨークにあるデパートのおもちゃ売り場の店員をしていた。混雑する来店客の中にひときわ目立つ女性を見かけ釘付けになるテレーズ。
テレーズよりも年上で、気品があって優雅なその人は鉄道模型から目を上げてテレーズに一瞬目を留めた。人と人の出会いも何気ない一瞬から意図する行為がその後の発展に影響する。
鉄道模型を買ってくれたその人キャロル・エアード(ケイト・ブランシェット)もわざと手袋を置き忘れる。いつも思うのは、レズビアンの人は同類を見つめる目つきが違うのだろうか。この映画も内面には同性愛者が潜みそれが相手に伝わるとしか思えない雰囲気がある。キャロルには娘の親権を巡る夫との争いがある。
テレーズは手袋を郵送しそのお返しの電話がランチの誘い。クリスマス・プレゼントの交換。テレーズからキャロルへは、コロンビア・レコードのビリー・ホリディとテディ・ウィルソンのLPレコードを、テレーズのカメラの趣味はアマチュアを超えていて恋人からも才能があるといわれちょっとした趣味の話は、テレーズにキャノンのカメラがプレゼントされる。徐々にではあるが二人の距離は縮まり始める。
観る人はもうレズビアンの行く末が気になり固唾を呑む。とにかく不自然な流れだけは観たくない。この映画の監督は用意周到だった。
夫との審判まで時間の余裕があってキャロルはテレーズを誘う。それは二人だけの西に向かうドライブだった。モーテルやホテルのシングル・ルームを選んでいたが、あるときモーテルの女性が「スイートもありますよ」と告げたときキャロルは断るが、テレーズは「それもいいわ」と言う。
キャロルがテレーズに化粧の仕方を教える。香水のつけ方。手首に少量、耳の裏側にも少量。テレーズは顔を近づけてキャロルの耳の後ろを嗅ぐ。頬が触れ合う。一瞬の仕草が余韻を残した。
別の日、ホテルの部屋でテレーズの裸体を見て、ただ一言「キレイだわ」とキャロル。目くるめく二人だけの時間。スーパー16mmフィルムは、ベッドに横たわるキャロルとテレーズの疲労感のにじんだ美しい横顔を描写する。実際きれいだなあと思った。
キャロルは風格を漂わせ、テレーズはオードリー・ヘップバーンに似た小妖精。同性愛に無関係な私が観ていても幸せそうなのがよく分かる。なぜ、テレーズをオードリー・ヘップバーン似にしたんだろうか。その意図はよく分からないが、1953年に「ローマの休日」でアカデミー主演女優賞をオードリー・ヘップバーンは受賞している。それがヒントになるのかどうか。
それにこの映画のサウンド・トラックが素晴らしい。私はエンニオ・モリコーネの曲想を連想した。音楽担当は、カーター・バーウェル。さらにショパンの「別れの曲」が原曲の「No Other Love」、あなただけよと目で告げるラストが印象的だった。単なる同性愛映画で終わらない精神性を見た気がした。
「No Other Love」をジョー・スタッフォードでどうぞ!
監督
トッド・ヘインズ1961年1月カリフォルニア州ロサンジェルス生まれ。
音楽
カーター・バーウェル1955年11月ニューヨーク市生まれ。
キャスト
ケイト・ブランシェット1969年5月オーストラリア、メルボルン生まれ。2013年「ブルージャスミン」でアカデミー主演女優賞受賞。2015年本作でアカデミー主演女優賞ノミネート。
ルーニー・マーラ1985年4月ニューヨーク州生まれ。2011年「ドラゴン・タトゥーの女」でアカデミー主演女優賞ノミネート。本作ではアカデミー助演女優賞ノミネート。
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