猫とマンガとゴルフの日々

好きな物を題名に↑ 最近はゴルフとグルメお出かけ主体に。以前は1960年~70代マンガを紹介していました。ネタバレ有り。

佐藤 史生 「この貧しき地上に」 

2007年11月20日 10時39分18秒 | マンガ家名 さ行
          新書館 ペーパームーンコミックス 1985年2月20日 初版

               つるさんにお借りしています。


 収録作品の初出は、

「この貧しき地上に」 1982年8月25日 グレープフルーツ 第5号 

「青猿記」 前編 1983年10月25日 グレープフルーツ 第12号  
      後編 1983年12月25日 グレープフルーツ 第13号

「一陽来復」 1984年12月25日 グレープフルーツ 第19号

「おまえのやさしい手で」 前編 1983年4月25日 グレープフルーツ 第9号
              後編 1983年6月25日 グレープフルーツ 第10号


 「この貧しき~」 「青猿記」 「一陽来復」 は3部作となっていて、主人公は家族の中で変わっていますが同じ話しの続きです。


「この貧しき地上に」

 まず、この作品名好きだわ~、どこから来ているのかしら。聖書にでも出てきそうなフレーズです。
 同名のBL小説を 篠田真由美さんという方が書いてますが、私は未読です。あらすじ見たら、兄嫁に恋した叔父が兄嫁死後、母にそっくりな甥を地下室に閉じ込めて・・・なんてひゃ~、あんまり好きくない。

 ゴホン、それはともかくこちらのストーリーの舞台は現代の日本とちょいと夢オチですが、古代ギリシャのクノッソス宮殿。本題のストーリーに、最上安良 (やすら) と幼馴染の 鹿能深生子 (かのうみおこ) の屈折したラブストーリーが寄り添ってます。

 安良には清良 (きよら) という7歳上の兄がいた。清良は子供の頃一度会っただけの庭師まで一人も彼を忘れない、というほど人をひきつけてやまない、しかも神童と呼ばれたほどの出来の良い兄だった。だったというのは、清良は7年前クレタ島で消息を絶っていたのだ。そこには完璧なはずの彼の秘密が隠されていた・・・。

 この一遍だけでも良質の短編となっていますが、実は3部作のほんの序章に過ぎません。
 

「青猿記」

 ここでは、上の 「この貧しき~」 に思い出シーンだけで実際には出てこなかった 清良 が主人公となっています。時は上の物語よりさらに2年後、彼が失踪してから9年も経っています。舞台は現代の日本にプラスなんとゲームの中の世界。
 
 これが発表されたのが1983年でしょ、任天堂が家庭用ゲーム機であるファミリーコンピューター (通称ファミコン) を7月15日に発売した年ですよ。1985年に発売された 「スーパーマリオブラザース」 はまだ前身の 「マリオブラザース」 でした。
 確かにここで描かれているゲームは単純で、今のゲームとは比べ物にならないかもだけれど、四半世紀前にバーチャル世界を舞台にまんがを描くなんて、コンピューター好きの佐藤氏と言っても、どんな頭をしているのか考えるだに、恐ろしい !

 青い猿 (ブルーモンキー) というのは、クノッソス宮殿の壁に描かれた猿の絵で、青い絵の具を使って描かれているらしい。青い猿は現実世界に、はたまたゲームの世界に象徴的に出てきます。

 記憶を失っていた清良は、日本人のコンピューターゲーム製作者に拾われ日本に帰って来ていた。自分の名前を思い出すために、彼のマイコンを使って仕掛けた危険な賭け (自己催眠プログラム) とは・・・。


 「一陽来復」

 3部作の最後は、2作目の続きから始まっています。前作とここに出てくるソフト開発者の 優 (すぐる) さんがいい味です。清良にBLではありますが、人嫌いとか言いながら常識人だし、清良が会うべくして出逢った人というか、彼がいなければ清良は絶対救われなかったというのが良く分かります。 

 冬至カボチャが出てくるのですが、題名の 「一陽来復」 はここから来ています。冬至は陰の極まる日、極まればそこに陽がきざす。冬至に橙色のかぼちゃを食べるのは陽の兆しというわけです。冬が極まれば後は春が来る、春遠からじというわけです。このエピソードは実は最後になって読者に納得されます。ハッピーエンドの兆しで終わるんです。


「おまえのやさしい手で」

 一転してミステリー、サスペンスタッチの作品。私にはへぇ~、佐藤さんってこういう作品も描いていた (描ける) 人だったのね~という感じです。でも漂う雰囲気はやっぱり 佐藤 史生さん だな~。車に細工する、というエピソードは萩尾 望都氏の 「残酷な神が支配する」 を思い出しました。

 この作品の絵は、内容に合わせてか特に暗い感じで、少し劇画タッチです。こういう ガロ風 な 史生さん の絵もいいなぁ。
 
 いつも思うけれど、佐藤氏の作品のセリフは無駄がない。どのくらいネームに時間をかけているのだろう。絵を描くのと同じ位、最初のストーリー作りから考えたら気が遠くなるくらい、かけているんだろうな~。
 本人も他の本のあとがきに 描くのが遅いんじゃなくて、 描くものが固まるまでが遅いんだ というような事を言っていたっけ。

 佐藤氏のSFでないもの (現代物といっても3~4作しか見てないけど) の中では 「死せる王女のための孔雀舞」 も良かったけど、この本が一番好き。


過去の 佐藤 史生作品 の記事  ↓

「やどり木」 「魔術師さがし」

「夢見る惑星」 の番外編3編

「死せる王女のための孔雀舞」

「羅陵王」

ふたつの「バビロンまで何マイル」

「打天楽」 (ワン・ゼロ番外編)

「ワン・ゼロ」

「夢見る惑星」

「金星樹」

コメント (2)
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