猫とマンガとゴルフの日々

好きな物を題名に↑ 最近はゴルフとグルメお出かけ主体に。以前は1960年~70代マンガを紹介していました。ネタバレ有り。

一ノ関 圭 「すがの幸福」

2012年02月02日 20時24分52秒 | マンガ家名 あ行


         ↑ この小品が入っている 小学館 BIC COMICS
           ビックコミック賞作家作品集 ① 昭和55年6月1日初版


作者の 一ノ関 圭氏は、秋田県大館市出身。女性です。東京藝術大学油絵科卒

私が大・大・大好きな 一ノ関 圭先生 の作品なのだが、大好きな故にこれまで記事アップが出来ないでいました。
一ノ関氏の作品は大きく分けて、詳細に調べられた江戸・明治・大正時代の歴史物と、人の心の情景が恐ろしいほどリアルな現代物がありますがこれは後者の方。

「すがの幸福」は、デビュー2年後の 1977年、ビッグコミック掲載です。
ずっと前から気になっていたこの 小品 から何とか記事に出来ないものかと書き始めてみます。
と言っても、さし当たってあらすじから書くしかないかな~。
ネタバレありです。


作品冒頭の すが(女性名) の回想より
青字は作品より引用

私が営林署の寮を安く
払い受けて朝比奈旅館を
始めたのは、要太郎がまだ
小学生の時分---
夫が病床に伏して
一年過ぎた頃のことでした。


時代は戦後ですが昭和30年代から始まるというところかな。
男の子の居る男性の後妻に入った すが は、病に倒れた夫と子供を養うために小さな旅館を始める。
まだビジネスホテルもない時代、地方の駅からも近いし、病気の夫と子供の為に健気に働く美人おかみ すが は営林署や出張サラリーマンの客の評判も良い。

「忙しくても、家の中の仕事だもの。
 時折家族が増えると思えば、案外、楽なものよ。」


せっせと働く すが の姿は本当に健気だ。
そんな すが に対し、客の一人 柏木 は思慕を募らせていった。
一方、思春期を迎えた男の子 要太郎 も若く綺麗な母に母親以上の思いを寄せるようになる。

ある日 柏木 に思いを告げられた すが は拒否するが、
「でも、本気なんです。」
という言葉に引きずられる。

しばらくぶりに訪れた 柏木 に、すが の方から関係を持ってしまう。
何回かの逢瀬の後、
「もうこれきりにしましょう。あの人気づいているわ。」
「ここを出て俺と一緒に…手紙を書く」
その後の口付けを 要太郎 に見られてしまう。

この前後の夫の心理描写も切ないです。
その後連絡がぱったり途絶えた 柏木 の事は次第に忘れる すが。
一時は荒れた 要太郎 も、父親が亡くなり すが と二人暮らして成長していく。
再婚の話も断り 要太郎 と仲睦まじく暮らしていく すが。

社会人になり、すが への想いを封印して結婚を決める 要太郎。
嫁の 幸子 は若い頃の すが のように明るく快活で、旅館の客にもここのおかみは美人ぞろいと好評だ。

中年となり(多分)更年期障害に苦しむようになる すが の姿が描かれる。
鏡を見て これがあたし とおのれの老けように愕然とする。

ある日 要太郎 の部屋の荷物を 幸子 と片付けていて、偶然ダンボールの中から自分宛の手紙を見つける。
差出人は 柏木 だった。
何でこんなところにと、中を読むと 柏木 の恨みがましい最後の手紙だった。
何通も出した手紙をそのまま送り返してくるとは、実のないやり方だとか、約束の場所に行って半日待っただとか、これを投函したらきっぱり忘れるだろうとか。
「?? あたしは毎日郵便受けを見ていたのに…」

そのとき思い出したのだ。
あの頃 要太郎 が早退したり授業を抜け出したりと学校の先生に言われた事や、自分でも日中 要太郎 の姿を玄関先で見かけていたことを。
要太郎 が 柏木 の手紙を すが より先に郵便受けから抜いていたのか。

もっと、はやく気づいていれば…
いいえ、要太郎の気持ちはわかっていたはずよ。
そうよあたしだって…!!


男性客のひとり 吉本 は嫁の 幸子 を気に入っているらしい。
幸子の方もまんざらでもなさそうだ。
要太郎 は栄転して仕事が忙しく、出張続きで月の半分は家に居ない。
客が 吉本 一人の時、同窓会に行くと言って家を空ける すが。
着物を着、紅を引いている すが は幸子から見ても綺麗だ。
一人で映画を見てから、先生が具合が悪くて一晩付き添うとウソの電話をかける すが。

あなたにはあの男がお似合いよ。
これからは私がチャンスを作ってあげる。

あせらないわ。
私は待つだけ。
そうよ、今度こそ、幸福(しあわせ)をつかむんだわ……
要太郎 と二人だけの……



女の情念がとっても怖い作品。
最初に読んだときから私のお気に入りのお話です。
表紙を入れても30枚の作品なんですが、もっともっといろんな情景がいっぱいある、内容の濃い~作品なんです。

ストーリーも良い、絵柄も良いというか自分好み、という漫画作家さんはそうはいません。
私の趣味だとこの 一ノ関 圭さん と 萩尾 望都さん のお二人くらい。
もちろん他にも好きな作家さん、この方ならこの作品、というのはいっぱいあります。
でも押しなべてみんな好き、みんな素晴らしい、というのはこのお二人です。

一ノ関氏は、東京藝術大学油絵科卒 ということからもわかるように、デッサンは文句なし ! 抜群の画力の方です。
絵柄は、上の書影からは良くわからないかも知れませんが、初期には劇画の 小島剛夕氏 に少し似たような (でも全然違うんですけど) 劇画調の絵柄です。
しかし男性作家とは女性の表情などの描き方が違っていてとても繊細です。
じゃあ男性の描き方がそれほどでもないのかというととんでもなく、彼女の描く男性の背中にいつも 萌え~ しているトミー。おばさんです。 

実際にご覧になったらその素晴らしさに圧倒されると思うのに、寡作の上に最近はほとんどマンガ作品は描かれていない一ノ関氏。
絶版も多く、現在は古本がヤ○ーなどでも高額で取引されているものもあります。
この「らんぷの下」は割合求めやすいかな。

マンガではありませんが、
「江戸のあかり ナタネ油の旅と都市の夜 歴史を旅する絵本」(著:塚本学) 岩波書店 1990年2月初版発行 とか、
「絵本 夢の江戸歌舞伎」(著:服部幸雄) 岩波書店 2001年4月初版発行 などの新しいイラスト担当作品、というよりも合作作品もありますので、機会があればその素晴らしい 作品 を一度は見ていただきたいと思うのです。





       彼女の素晴らしさをもっと言い募りたいのに 語彙不足を痛感するトミー。



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