むかし、私たちは
木は人のようにそこに立っていた。
言葉もなくまっすぐ立っていた。
立ちつくす人のように、
森の木々のざわめきから
遠く離れて、
きれいなバターミルク色した空の下に、
波立てて
小石を蹴って
暗い淵をのこして
曲がりながら流れてくる
大きな川のほとりに、
もうどこにも秋の鳥たちがいなくなった
収穫のあとの季節のなかに、
物語の家族のように、
母のように一本の木は、
父のようにもう一本の木は、
子どもたちのように小さな木は、
どこかに未来を探しているいかのように、
遠くを見はるかして、
凛とした空気のなかに、
みじろぎもせず立っていた。
私たちはすっかり忘れているのだ。
むかし、私たちは木だったのだ。
(長田弘『人はかつて樹だった』より)
2限の授業の前、メタセコイヤの木の下で
木は人のようにそこに立っていた。
言葉もなくまっすぐ立っていた。
立ちつくす人のように、
森の木々のざわめきから
遠く離れて、
きれいなバターミルク色した空の下に、
波立てて
小石を蹴って
暗い淵をのこして
曲がりながら流れてくる
大きな川のほとりに、
もうどこにも秋の鳥たちがいなくなった
収穫のあとの季節のなかに、
物語の家族のように、
母のように一本の木は、
父のようにもう一本の木は、
子どもたちのように小さな木は、
どこかに未来を探しているいかのように、
遠くを見はるかして、
凛とした空気のなかに、
みじろぎもせず立っていた。
私たちはすっかり忘れているのだ。
むかし、私たちは木だったのだ。
(長田弘『人はかつて樹だった』より)
2限の授業の前、メタセコイヤの木の下で