7時45分、起床。
一階の雨戸を明け、ベランダに来ている野良猫のなつに餌を与え、玄関先の植木鉢に水を与える。これ、母が入院中の朝飯前の一仕事。
ウィンナーとレタス、(オムレツのように見えるけど)レモンクリームパン、紅茶の朝食。
先日の還暦を祝う会で久しぶりに再会した宮本君から宅配便で野菜が送られた来た。内容は、彼のメールから引用すると、
・菜花(松島純二号)
・菜花(雪白体菜)
・ニンジン(筑摩野五寸)
・ホウレンソウ(豊葉)
・早生丸葉小松菜
・みやまこかぶ
「カッコ内は品種名で、いずれも昭和期以前に流行した品種です。「時代遅れ」な品種には、余計な遺伝子操作や品種改良がされておらず、また食味の点でも優れているものが多いと感じております。こういった伝統野菜に近いものを専門に作っております。」とのこと。
彼はいま脱サラをして千葉の君津で「宮本農業」という農園をやっているだ。高倉健のような髪型をして、日に焼けた精悍な顔つきになっていた。
ちゃんと虫の喰った跡がある。「虫も喰わない野菜」ではない証拠だ。
宮本君は近況報告のときに、「一流企業や役所でバリバリ働いているみんなの中に、自分のような人間が入って行っていいのだろうかと躊躇したけれども、大久保先生のブログで「生きる意味を問うこともなく冬銀河」という句にふれて、自分も行っていいのだと思った」と語っていた。飛躍の多い思考で、わかりにくところもあるが、青年らしい、いや、農業青年らしいというべきか、その「青臭い」語りがなかなかよかった。頑張れよ。
午後、母の見舞いで病院へ。
面会時間は2時からなので、その前に昼食をとろうと、池上駅前通り商店街の「軒(のき)」という洋食屋に入る。初めて入る店だが、直感で「いい店」に違いないと思った。直観なのではっきりした根拠があるわけではないが、「軒」という名前がいいなと思ったのと、店頭に出ているランチメニューの価格が街中の洋食屋にしては少々高めの設定であること。たとえばカキフライは1500円(コーヒー・紅茶は付かないで)。これはいい食材を使っているということであり、料理への自信の表れでもあるだろう、と解釈した。蒲田の「西洋料理SUZUKI」がそうであるように。
入ってすぐのキッチン周りのカウンター席に座る。テーブル席が店の奥にあったが、照明が暗めなのと(写真を撮るには不向き)、女性客のおしゃべりの声が気になったのと、シェフが料理を作るところを見るのが好きだというのもある。
その1500円のカキフライを注文(スープとライス付)。小ぶりのカキで、最初はちょっと気落ちしたが、口に運んでみると、その美味しいこと!初球スローカーブの後の2級目に150キロ台の速球を投げられた打者みたいにびっくりした。カキ自体の味が濃く、これなら塩だけで十分だ。タルタルソースもウスターソースも不要。火の通り加減もちょうどいい。「美味しいカキフライですね」と思わずご主人に話しかけてしまった。そう言われて悪い気のする人はいないから、カキの産地や、時期による味の違いについての話を聞けた。
付け合せのマッシュポテトや野菜(カキフライの左端で写真ではよく見えませんが)もきちんと調理されたもの。美味しい。
スープは白味噌仕立てだが、味噌汁とはちょっと違う。洗練された洋風の味である。そのことをご主人に言うと、「生クリームを使っているのです」とのこと。なるほどね。
ごちそうさまでした。とても美味しかった。いい店を見つけたものだ。母が骨折をして入院することがなかったら、この店に来ることはなかったかもしれないから、一種の怪我の功名だろう。
母は手術直後の昨日とは見違えるほど元気だった。とにかくよくしゃべる。しゃべる内容はネガティブなものが多いが、苦痛や不平不満をしゃべって発散できるのであれば、それは元気が回復したということである。
ベッドサイドで話を聞き、リハビリだからと廊下を歩いてもらって話を聞き、ラウンジで知り合いの患者さんとおしゃべり。「大久保さん、お元気ね。肌もつやつやしていて、とても87歳には見えないわ。70代といって通じるわよ」と言われて母はまんざらでもない様子だった。「70代といって通じるわよ」が嬉しいんだとその点に感心した。年齢の数値は絶対的だが、若さは相対的なものなのだ。
向かいのベットの老婦人は今日も私を笑わせてくれた。寝てばかりいては夜中に寝られなくなるからだろう、看護師さん(ヘルパーさん?)に促されて車椅子に乗って、廊下に出たのだが、ちょっと看護師さんが彼女を置いて別の場所にいったところ、「私を置いていくの? 私を捨てるのね。こんないい女を捨てるのね」と言った。新派の女優か。
病院を出て、帰りに一服していこうと、池上駅前通り商店街にある「Butter Liliy」というカフェに入る。ここも初めての店だが、「phono kafe」の常連客の一人から昨年11月に開店したこのカフェの話は聞いていた。小さな、白い、明るいカフェである。中年の女性とそれよりもう少し年齢の上の女性二人でやっているカフェである。おばさんと姪子さんという感じだろうか。どちらが「バター」でどちらか「リリー」なのだろうか。
コーヒー(オーガニック)とクリームブリュレ(焼きプリン)を注文。周りは熱々で、中はヒンヤリで、美味しかった。セットで600円。
支払いの時、「お近くにお住まいですか」と聞かれたので、「蒲田ですが、家族がS病院へ入院しまして、しばらく通うことになりました」と答える。たぶんこの店にも何度か来ることになるだろう。どちらが「バター」でどちらが「リリー」なのか、そのうち質問してみよう。
商店街の中にあるパン屋でお八つのミニドーナツと明日の朝食用のパンを購入。
池上駅前通り商店街はなかなか魅力的な商店街である。
帰宅して、夕方、ジムへ行く。筋トレ2セットと有酸素運動(クロストレーナー)45分。640キロカロリーを消費。
夕食は秋刀魚の塩焼き。
深夜、録画したおいた『ブラック・プレジデント』の初回を観る。ブラック会社といわれる会社の社長がちょっとした気まぐれから(?)大学の社会人入試を受けて合格。多忙な仕事の合間をぬって大学に通うことになった。以前、『恋におちたら』というドラマがあった。草剛演じる愛情至上主義の町工場の経営者と堤真一演じる拝金主義者のIT会社の社長の対立というのが物語の構図であった。今回は拝金主義者(金儲けのどこが悪い?)の社長が主人公で、それと対立するのは大学で経営学を講じる若い女性講師(黒木メイサ)である。彼女は彼に「経営学とは?」と聞かれて、「どうしたらみんなが幸せになれるかを考える学問」と答えていた。対立の行方はおのずから明らかだが(拝金主義者の敗北と回心)、その過程をわれわれは楽しむのである。沢村の演技がいい。継続視聴決定。