フィールドノート

連続した日々の一つ一つに明確な輪郭を与えるために

3月26日(木) 晴れたり曇ったり、のち晴れ

2009-03-27 13:37:45 | Weblog
  今日は午後、自宅で妻のワイヤー&ビーズの講習会があり、追い出されるというわけではないが、なんとなく自宅にはいずらいので、昼過ぎに散歩に出る。朝方は晴天だったが、不穏な雲が広がってきた。後から妻に聞いたら、雨、雪、天気雪、晴れ・・・と目まぐるしく天候が変化したそうだが、蒲田周辺の局所的荒天だったらしく、他所に移動していた私は知らなかった。「天気雪」は見てみたかったな。

         

  ショルダーバッグには黒川創『かもめの日』が入っている。上野動物園をめざす。動物園は読書に適した場所、というのが私の持論である。広く、そここにベンチがあり、飲食の施設もあり、そしてもちろんたくさんの動物がいて、読書の合間に眺めるとよい息継ぎになる。私は「ぐるっとパス」という東京の美術館や博物館など60数施設の無料・割引入場券のセットをいつも持ち歩いているのだが、上野動物園の無料入場券もそこに入っていて、有効期限が3月末なので、今日、使ってしまおうと。
  新橋で下車して、地下鉄銀座線に乗り換えるとき、駅前で古本市をやっていたので、しばし寄り道。ただし、ここであれこれ購入してしまうと、それを持って歩かなくてはならないので、自制して3冊だけにとどめた。

  水上勉『宇野浩二伝』(中央公論社)*500円
  東野克美『太宰治という物語』(筑摩書房)*1000円
  ジョン・マグリーヴィ編『グレン・グールド変奏曲』(東京創元社)*1000円

         

  上野広小路で下車し、地上に出ると目の前が「鈴乃屋」。6階に「今半」が入っているので、ここで昼食を食べることにする。一番安いすき焼弁当を注文。弁当というから鶯谷の菩提寺で法事をするときに人形町の「今半」からいつも取り寄せているお弁当(松花堂弁当のおかずにすき焼が入っている)と同じようなものかと思ったら、ちゃんとしたすき焼鍋(ただし調理済みのものでテーブルで火は使わない)が出てきた。これで1500円はお得だ。お櫃には茶碗二杯分のご飯が入っていて、二杯目の途中で、すき焼の具を浸して食べていた生卵をご飯に掛けていただく。数ある卵掛けご飯の中でもこれは最高である。

         

  広小路から不忍池の横を通って動物園へ向う。花見をするつもりで来たわけではなく、実際、まだ満開ではないのだが、開花具合には個体差があって、十分に鑑賞に堪える桜も何本かあった。

         

         

         

         

         

         

  動物園には2時から4時頃まで(その頃になると、まだ空は明るくても、空気が冷えてくる)滞在した。3分の2はベンチで『かもめの日』を読み、3分の1は動物たちを眺めていた。上野動物園は東園と西園(不忍池周辺)に分かれているが、西園には行かなかった。私のお気に入りの動物はたいてい東園にいるのだ。ジャイアントパンダの「リンリン」が去年の4月に老衰で死んで(享年22歳)、1972年以来、上野動物園の象徴的存在であったジャイアントパンダが不在であるが、WBCで不調のイチローの分を他の選手たちが頑張ってカヴァーしたみたいに、定番的動物たちが一生懸命動物園らしさをかもしだしていた。

         
                       あっち向いてホイ

         
                        フンッ、だ。

         
                犯人は君だね(火曜サスペンス劇場風)

         
              大天使ガブリエルは言った。「あのよ(世)~」

         
                   亭主なら若い女のところだよ

  上野から日比谷線に乗って恵比寿へ。東京都写真美術館で開催中の二つの展示会、「夜明け前 知られざる日本写真開拓史Ⅱ」と「やなぎみわ マイ・グランドマザーズ」を見物する。前者は地味な企画だが、後者は飛んでいる。モデルとなった若い女性たちが自分の50年後について写真家(やなぎみわ)に語り、写真家はその欲望や不安を汲み取りながら、モデルに特殊メイクをほどこし、撮影の場所や舞台装置に工夫を凝らし、50年後の彼女たちを撮った。いうなれば「未来」の写真集。個々の作品にはモデルの女性の語り(のようなもの)が添えられていて、これが作品の一部として機能している。たとえば、HIROKOという女性は、孫娘と世界を飛び回っていて、ホテルの一室で荷物を解いている孫娘にこんな説教をする。
  「どうも判っていないようね。この旅行は遊びじゃなくて、出張なのよ。世界中にいる奴隷達は、わたしのクライアントなの。アナタがチヤホヤされるのは、あくまで『伝説の女王』の孫だから。アナタはまだまだ半人前よ。そこのところをわきまえなさい。わたしがアナタくらいの頃にはね、個人のセックスサービスは非合法。何の保障もなかったわ。最近、あなたが注射一本で治した病気も昔は不治の病で、たくさんの人が死んだのよ。プロの女王を続けるために、おばあちゃんはいろんな差別や悪法と長いこと闘って・・・ちょっと!聞いてるの?!私が築いたイシズエに寝そべる、若い子の無自覚を見ていると引退なんかできないわ。」
  観客には若い女性が多かったが、こうした作品に触発されて、彼女たちは一体どんな50年後を語るのだろうか。展示会は5月10日まで。ゼミの学生たちを連れてまた観に来ようかな。ゼミは金曜の夕方からだが、写真美術館は木曜・金曜は午後8時までやっているから。

         

  深夜、『かもめの日』読了。

3月25日(水) 雨のち曇り

2009-03-26 12:13:07 | Weblog
  9時、起床。冷たい雨が降っている。ソーセージ、トースト、紅茶の朝食。
  午後から大学へ出る。二文の学位記(卒業証書)授与式の様子をちょっとのぞいてから、一文の社会学専修の学位記授与式へ。乾杯や記念写真などを撮って、再び二文の卒業記念イベント会場(文カフェ)へ。1年生のときの基礎演習や卒論指導で顔見知りの学生を何人か見つけて、話をしたり、記念写真を撮ったり。そうこうしていると、私の卒論演習に参加していた社会学専修の学生たちが、文カフェにやってきた。私の卒論演習は一文生・二文生合同でやってきたので、仲間意識が生まれたのであろう。よしよしとほくそ笑んでいると、どうも彼らは二文生のEさんやHさんの晴れ着姿を見るためにやってきたようで、EさんとHさんのどちらが自分のタイプであるかなんて話を盛んにしている。それに二文生のT君やK君も加わって、ああだこうだ言っている。おまえらなあ・・・。
  雨はほぼ上がったが、なにしろ寒い。研究室に戻って、暖房を入れ、熱い珈琲を飲む。7時頃、研究室を出て、馬場下の交差点でタクシーを拾い、社会学専修の謝恩会場である椿山荘へ。今年の卒業生とは、2年生のときの演習と卒論演習、ほかには大教室での講義を通しての付き合いで、付き合いの密度は「中」である(調査実習を担当しているときが「大」で、大教室での講義のみの場合が「小」)。担当科目のサイクルの関係でそうした違いが生まれるのだが、来年は「中」と「小」の間で(卒論指導の学生が激減する)、再来年は「小」である(おそらく謝恩会の対象教員ではなくなる)。謝恩会では卒論演習の学生たちと話をする機会が多かった。二文のT君やK君も会費を払って参加していた。私の卒論指導はきびしいというのが一般に流布しているイメージのようで、確かに何度か学生を叱ったこともある。他の学生たちの前で叱られるという経験に乏しい場合、それはショックなことであろう。しかし、職場ではそんなことは日常茶飯である。免疫をつけさせようと意図しているわけではないが、「傷つきやすい若者」イメージで腫れ物にでも触るように学生と接触するというのは、私の流儀ではない。幸い教員にはさまざまな流儀の人がいるから、私の流儀のマイナス点は他の先生が補償してくれていると思う。今日はデジカメの電池が切れてしまって、予備の電池も、ケータイも家に忘れてきてしまったので、一枚の写真も撮ることができなかった。被写体としては何枚も写真に撮られたので、メールに添付して送ってくれと卒業生たちには頼んでおいた(いま、このブログを呼んでいる君、約束は守ってね)。卒業おめでとう。

3月24日(火) 曇り

2009-03-25 11:28:44 | Weblog
  8時、起床。ウィンナーソーセージとキャベツの炒め、トースト、紅茶の朝食。9時に家を出る。
  10時から運営主任懇談会。論系室・専修室の再配置についての意見交換。新しく部屋を1ついただけることのメリットと、現在の論系室を移動することのデメリットの問題。
  「天や」で天丼弁当を購入し、研究室で科目登録ガイダンスのためのパワポのスライドの手直し作業。午後1時からガイダンス。開始直前にケータイのワンセグ放送でWBC決勝、日本対韓国戦の途中経過を確認する。中盤、2-1で日本リード。ガイダンスの冒頭(主任あいさつ)でこのことを学生たちに知らせる。どっと喚声がわく。でも勝負はこれからだ。1時から2時まで新2年生のためのガイダンス、2時から3時まで新3年生のためのガイダンス。隙間の時間にワンセグで実況中継をチェック。9回裏、3-3の同点に追いつかれた。死闘である。新2年生の出席率のよさに比べて、新3年生の出席率はパッとしない。ガイダンスに出なくても大丈夫と高をくくっているのだろう。初々しくない。私のゼミの学生(17名)も7名が欠席である。出席の10名には個人的に用意した進級祝いのささやかなプレゼント(文具)を進呈する。これ、出席者だけの特典である。ゼミごとに記念撮影をして解散。私のケータイは電池残量が底をついてしまったので、助手のAさんにWBCの結果をケータイで調べてもらう。延長10回、5-3で日本の勝利。そうか、勝ったか。研究室に戻って、パソコンのTVで野球中継(試合を振り返って)を観る。10回の2点はイチローのバットでもぎ取ったものだと知る。不振を極めたスーパー・ヒーローが最後の最後で大活躍。まるで作ったようなストーリー展開であった。
  5時からカリキュラム委員への説明会に出席し、不始末のお詫びと善後策のお願い。6時から夏目坂のレストラン「せきかわ」で社会学専攻・専修・コースの教員懇親会。助手のK君・I君と私のブログをめぐる話題でおしゃべり。K君曰く、「大久保先生は暇そうに見せているのか、本当にお暇なのか、わからなくなるときがありますが、本当はご多忙なのですよね」。9時散会。帰りの地下鉄は長谷先生と一緒。『ありふれた奇跡』をめぐっておしゃべり。『ありふれた奇跡』はいつにもまして台詞中心のドラマで、TVドラマとしては倉本聰の『風のガーデン』の方が優れていると思うが、あの数々の台詞は山田太一の遺言のように私には受け取れた。

         

         
                   明日は卒業式(記念会堂)

  夜、私が大学生だった頃、母校の高校にバドミントンのコーチに行っていたのだが、そのときの教え子の一人であるAさんからメールで(なんで私のメールアドレスを知っているのだろう?)、28日の0B・OG会にはぜひいらしてくださいと書いてあった。バドミントンから遠ざかって久しい。OB・OG会の件もこのAさんからのメールで知った(引越しを重ねている間に通知が届かなくなったのだ)。Aさんは私より学年は7つ下で、今年は「年女」だという。あの18歳の女の子が48歳になるか・・・。光陰矢のごとしだ。「先輩にお会いしても恥ずかしくない人生を、幸せですと言い切れる人生を、やっとここ三年間、歩いております」と書かれていた。これには意表を突かれた。彼女が紆余曲折のある人生を歩いてきたらしいということにではない。48年間生きていればいろいろなことがあるのは当然だ。私がびっくりしたのは、「恥ずかしくない人生」「幸せですと言い切れる人生」を生きていないと私に会えないというふうに彼女が考えていることにだった。水臭いじゃないか、というのが私の正直な気持ちである。しかし、考えてみると、パッとしない自分を人に見られたくないという気持ちは誰にでもあることで、とくに「先輩」や「先生」というのはそうした他者なのかもしれない。明日は卒業式で、夕方から社会学専修の謝恩会が椿山荘で予定されている。何かスピーチをと幹事の学生から依頼されているのだが、「パッとしない人生の局面でも、どうぞ気軽に研究室のドアをたたいて下さい」と言おう。「手土産とか気を使わなくていいです。でも、私が甘党だということは覚えていてね」。 

3月23日(月) 曇り

2009-03-24 01:34:38 | Weblog
  9時、起床。TVを点けると、ちょうどWBC準決勝第二試合、日本対アメリカが始まるところだった。松阪がいきなり先頭打者にホームランを打たれる。う~む、先取点を取られたか。しかし、二回裏に同点にする。だが、三回表にまた1点リードされる。目まぐるしい攻防である。そして四回裏、日本が一挙5点を奪って6-2となる。しかし、試合はまだ中盤、これから何が起こるかわからない。「鈴文」に朝食兼昼食をとりに行こうかと考えていたのだが、目を離したら逆転されるかもしれないので(そういう気持ちで観ていた)、自宅で親子丼を食べた。八回表に2点を取られて6-4となったときは肝を冷やしたが、その裏の3点は見事であった。今日のMVPは川崎選手であろう。頼りになる選手である。なにより眼光が素晴らしい。獲物を狙う豹の眼だ。相手投手が右投げであろうと左投げであろうと、明日も絶対にスターティングメンバーで起用してほしい。

         
                  今日は三寒四温の三寒の一日

  午後、ジムへ行く。ウォーキング&ランニングを1時間。オムライス一皿分のカロリーを消費。昨日の東京マラソンではたくさんの芸能人が出場したが、猫ひろしの3時間18分52秒という記録はすごい。平均時速13キロで走った計算になる。1時間に13キロというスピードがどのくらいのものか、私はランニングマシンで試してみたが、これがとんでもなく速いのである。とてもじゃないが続かない。10分ももたないと思う。これで3時間ちょっと走り続けることができるというのは尋常ではない。女性芸能人では安田美沙子の4時間28分51秒は立派。最後の10キロでバテたようだが、30キロ地点までは時速10キロペースだった。時速10キロは私がウォーキング&ランニングで調子がいいときに走るスピードだが、「風を切って走る」感覚を伴う。これで42.195キロを走りきるのはいまの私では無理。平均時速8キロの5時間ペースが精一杯であろう。平井理央アナウンサーがこのペースで、5時間1分35秒で完走している。これだって大したものだと思う。ちなみに、ひたすら早足(時速6キロ)で歩けば7時間かかる計算になる。田尾宏子(野球解説者の田尾安志の奥さん)の6時間51分40秒というのがこのペースである。これもまた、普通に7時間歩くのだって大変なのだから、軽く見てはいけない。途中で絶対に足が痛くなるに決まっている。
  ジムの帰り、アロマスケアビル前の「カフェ・ド・クリエ」でホトッドックと珈琲を注文し、1時間ほど読書。途中で果汁オレを追加で注文する。新商品で、4種類のフルーツ(みかん、バナナ、りんご、桃)のピューレが入った高級なフルーツ牛乳のような飲み物。私はこれを勘違いして、4種類の果汁オレがあるのだと思ってしまい、店員さんに「4種類のフルーツとは何ですか?」と聞いてから、「じゃあ、桃の果汁オレをください」と言って、恥をかいてしまった。新しいものに挑むとき、人間はこのような失敗をするものである。恥をかくことを恐れて保守的になってはいけない。ただし、果汁オレは期待したほどのものではなかった。最近試してみて美味しかったのは、キリンの新商品「とろとろ桃のフルーニュ」である。「白桃とマンゴーをとろとろ煮込み、ヨーグルトテストで仕上げた」飲み物で、すっきりした飲み心地がとてもいい。
  新しいものを試すといえば、今日、東京バレエ団の6月公演「ジゼル」のチケットを申し込んだ。牧阿佐美バレエ団以外の日本のバレエ団、伊藤友季子以外の日本人のプリマも観てみようと思ったのである。ジゼル役は上野水香。アルブレヒト役はフリーデマン・フォーゲル。7月に牧阿佐美バレエ団の「ジゼル」の公演があるので(ジゼル役は伊藤友季子、アルブレヒト役は逸見智彦)、「ジゼル」を続けて観ることになる。比較が楽しみだ。

3月22日(日) 雨

2009-03-23 01:12:22 | Weblog
  9時、起床。雨が降っている。朝食兼昼食を「鈴文」に食べに行こうかとも思ったが、妻が「カレーがあるわよ」というので、トーストで食べることにした。「作ったの?」と聞くと、「この前の残りよ」という。「この前って、あのずっと前のカレーか?」と確認すると、「そうよ」と事もなげに言った。13日の金曜日の夕食のカレーの残りだ。10日経っている。「大丈夫よ、冷蔵庫に入っていたんだから。」確かにそうかもしれない。そうかもしれないが、妻は冷蔵庫というものを過信しているところがあり、ときどき冷蔵庫内でものを腐敗させてしまうことがある。冷蔵庫は時間を止める装置ではない。有機物が微生物の作用によって分解され、有毒物質を生じたり悪臭を放つようになる過程は、冷蔵庫の内部でも、常温時よりも緩慢ではあっても、不可逆的に進行しているのだ。「何かの実験でもしてるのかな?」と私が尋ねると、「実はそうなのよ」と言うだけで、実験の具体的内容については教えてくれない。トップシークレットなのだろう。謎めいた女というのは魅力的である。それ故、我が家には妻の「大丈夫よ」を鵜呑みにする者はいない。「人の言うことを鵜呑みにしてはいけない」というのは我が家の家訓の一つである。今回のカレーについては、私に食べさせる前に妻自身がそれを食して「大丈夫よ」と言ったので、信用度は「AA」にランクされるが、それでも万が一のことを考慮して、妻が食事を終えてから1時間経過観察をしてから、カレー、トースト、牛乳の朝食兼昼食。

         

  雨は終日降っていた。物憂い雨の一日だった。しかし、そんな中で、二つの素晴らしいものをTVで観た。
  一つは、午前中に放送されたNHK杯将棋トーナメント」の決勝戦、羽生名人対森内九段の終盤で羽生(後手)が指した「9四歩」の一手である。森内勝勢と誰もが思っていた局面で指されたこのぼんやりした一手で、局面はいっぺんに難解なものに変化し、意表の一手を指された森内は動揺したのであろう、直後に失着が出て、将棋は羽生の逆転勝ちで終った。解説の渡辺竜王は、つい2ヶ月ほど前、羽生が棋界初の3連勝後の4連敗で竜王を獲り損なった相手である。「森内勝勢」と解説していた彼の眼前での大逆転劇は、江戸の仇を長崎で討つといったところだろうか。
  もう一つは、午後、一昨日の「芸術劇場」(教育TV)で放送されたのを録画しておいた東京バレエ団公演「ベジャール・ガラ」(2009年2月9日、ゆうぽうとホール)、その中のシルヴィ・ギエム主演の「ボレロ」を観たこと。素晴らしいというよりも、凄いものを観てしまったという感じ。あの単調でいて劇的なラヴェルの曲に合わせて、赤い円卓の上で踊るギエムは、神話の世界のバレエの女神のようであった。全体を通して持続する緊迫感は、『ノーカントリー』の音楽のない緊迫感とは違って、音楽と身体の動きが一分の隙もなく完璧に対応していることから生じる緊迫感である。円卓の直径は5mくらいだろうか、当然、動きは制約される。しかしその制約を逆手にとったベジャールの振り付けは、古代の呪術的な身体所作とモダンバレエの融合という印象を与える。録画しておいてよかった。おかげで「私はギエムのボレロを観たことがある」と語れる人生をこれから生きていける。惜しむらくは劇場でではなかったが、この先、彼女の「ボレロ」を劇場で観るチャンスははたしてあるだろうか。