
★★★★☆
塚本邦雄全集第5巻より。
こっちもたいそう重かった。
後鳥羽院、定家のことは最初に会ったときから
「歌は良いし評価しているが、人間性は嫌い」
と感じているんだけど、嫌いなら遠ざければいいのに、
事あるごとに呼んで嫌な思いをさせようとしたり
恥をかかせようとしたりするのね。
定家が実朝の歌の師になったら、
実朝を呪詛するための最勝四天王院に入れる
障子絵を定家に作らせ、
実朝に守られた定家の所領を取り上げて寵愛の童にあげちゃう。
それで自分の憎悪も煽っている。
嫌いな相手のことって、
放っておいたほうが自分の精神衛生上もよいのに、
放っておけずについ見たり接触したりしてしまうんだな。
二度と目通りは許さんと言ったくせに
「消息一通、遠島見舞の品一つ届けぬのは
彼女らと定家くらゐであろう」
って、そりゃそうやろ……。
しかし、定家もおよそ人に好かれないであろう性格で不遜が過ぎ
(このあたりはすべて創作というわけではなく、
明月記からもひしひしと感じる)、
ムカついて足蹴にしたい院の気持ちもわかるのであった。
『火宅玲瓏』と同じ世界観なのかなあと思っていたのだけど、
宮内卿のこと、『菊帝』では「窈窕として煙るような美少女」と書かれているのに、
『火宅』では「美しくはなかつた」なんだな。