金木犀、薔薇、白木蓮

本と映画、ときどきドラマ。
★の数は「好み度」または「個人的なお役立ち度」です。
現在、記事の整理中。

259:吉田修一 『最後の息子』

2006-11-29 12:12:29 | 06 本の感想
吉田修一 『最後の息子』(文藝春秋)
★★★★☆

デビュー作である表題作に、「破片」「Water」の三篇を収録。

「最後の息子」が良かった~!
何もせずヒモのような生活を送っている「ぼく」が、
撮影したビデオを見返しながら、友人の死と
同棲しているオカマの閻魔ちゃんとの関係に思いを馳せる。
ビデオを見ている理由とタイトルの意味が最後にわかるのだけど、
閻魔ちゃんのメモにほろっときた。
先に続編である『春、バーニーズで』を読んでしまったので、
ちょっと感傷的な気分になってしまう。

「破片」は長崎を舞台に、母親を失った男ばかりの家族で、
酒屋を継いだ三男と東京から帰省した次男を中心に描いた物語。
なんだろうかこのもの悲しさ……方言のせい?
「Water」は完全にエンターテイメント。
最後の大会をひかえた水泳部の高校生の物語。
青春!
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258:首藤瓜於 『事故係生稲昇太の多感』

2006-11-29 11:46:41 | 06 本の感想
首藤瓜於 『事故係 生稲昇太の多感』(講談社)
★★★☆☆

『だらしな日記』で取り上げられていたもの。
江戸川乱歩賞でデビューした著者の受賞後第一作。
父の志を継いで警官になり、交通課に配属された22歳の昇太。
クールでかっこいい先輩・見目とともに、
事故にまつわる小さな謎を解いていく連作短編集。

反発しつつも先輩大好き!、いじけてめそめそしたり思い込みでつっぱしる
主人公が大変かわいい。
童顔の可愛い男の子かと思いきやゴリラ顔ってところがまたいい。
しかしこれ、一冊で終わりなの??
見目との関係が話の中心になっていたのに最後に見目出てこないし……。
マドンナと見目がつきあってるっていう話も、結局確証がないまま。
話自体はおもしろかったのだけど、仁藤や津山のキャラクターも
生かしきれていないようで残念。
続編ないのかなあ。
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257:アンソロジー 『蜜の眠り』

2006-11-28 13:25:48 | 06 本の感想
アンソロジー『蜜の眠り』(廣済堂文庫)
★★☆☆☆

籐子ちゃんライブラリーから拝借。
女性の性愛をテーマにしたアンソロジー。
執筆メンバーは明智抄、榎本ナリコ、恩田陸、柴田よしき、
島村洋子、中村うさぎ、姫野カオルコ、松本侑子、
水樹和佳子、横森理香。
恩田陸「睡蓮」と柴田よしき「化粧」は既読。
両方とも初出はこの本だったみたい。

アンソロジーは力量の差があからさまに出てしまうものだけど、
これはひどいなあ……。
聞いたことのない名前が三つ、と思ったら漫画家さんでした。
明智さんは比較的うまかったけれど、あとは……うーん……。
漫画という形で出したほうがよかったんじゃないかな……。
中村うさぎさんの「幽霊」は文体のテンションに抵抗を感じてしまった上、
オチが早々に読めてしまって残念。

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256:乙川優三郎 『冬の標』

2006-11-27 18:52:54 | 06 本の感想
乙川優三郎『冬の標』(中央公論新社)
★★★★☆

幕末の小藩で絵の世界に見入られ、画家の岡村葦秋に
師事することになった十三歳の少女・明世。
成長するにしたがって世間のしきたりと衝突し、
画家として生きたいという意志に反して嫁ぐことに。
婚家や女の立場にしばられ、数々の不運に見舞われながらも、
やがて同門の平吉や修理と再会して再び絵への思いを強め、
自分の道を歩みだすことになる。

ともすると「耐える女の一代記」になってしまいそうな展開なのだけれど、
明世の絵に向ける激しい情熱が前面に押し出されていて、
悩みつつも自分の道を進もうとする彼女の強い意志に
さわやかさを感じる。
前半ですでに何度かじーんと来てしまうエピソードが
さしはさまれていて、親子の情、師弟愛、同門の仲間たちとの絆や
姑との和解などなど、読んでいる間中、胸がいっぱい。
絵への情熱と重なったような恋もせつない。
このところよく名前を見かける機会の多かったこの著者、
要チェックだわー。

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255:吉田修一 『ひなた』

2006-11-27 18:27:53 | 06 本の感想
吉田修一『ひなた』(光文社)
★★★☆☆

ブランドHの広報に新卒採用されたレイと、その恋人である大学生の尚純、
尚純の兄で信用金庫に勤める・浩一と、その妻で編集者の桂子。
四人の男女それぞれの視点で描かれる日常。

JJで連載されていたというのにふさわしく、
女の子ウケしそうなエッセンスをちりばめているのだけど、
『パレード』と同様、女の子の一人称パートでも
「男の人ががんばって書きました」という感じが
ほとんどしないのはさすがといったところ。
レイや桂子の心理も理解できるところが多かった。
口に出来ない秘密や嘘をかかえながら、維持されていく
夫婦や恋人、兄弟や友人の関係。
ちょっとズーンときてしまう秘密を含みながら、
さらりと読ませる文章のトーンで一気に読了。
一つの物語としてきちんとオチがついていない感じを受けたので
★3つだけれど、おもしろく読めました。

著者が「イケメン作家ランキング1位」という先入観のせいか、
主役の男の子はかっこいいイメージしか思い浮かばない
そして「寅さんマニア」という、あいかわらずなんだかわからないけど
笑ってしまうエピソードに吹き出してしまった。

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254:辻村深月 『ぼくのメジャースプーン』

2006-11-22 11:44:59 | 06 本の感想
辻村深月『ぼくのメジャースプーン』(講談社ノベルス)
★★★☆☆

籐子ちゃんから借りっぱなしになっていたもの。
ようやく読了。

理不尽な暴力によって深く傷つけられ、心を閉ざした
同級生のふみちゃんのため、不思議な「力」を使って
犯人と対決しようとする小学4年生の「ぼく」。
同じ「力」を持つ親類の秋山先生のもとへ通い、
力の使い方と「罰」について考えることになる。

いいお話なのだけど、いまいち入り込めなかった……。
先生との間に続く観念的な問答に、途中で投げ出しそうになる。
しかし期待値が高かったためちょっとがっくりしてしまっただけで、
十分おもしろい話だと思う。
教育学部出身だという著者の視点も興味深い。

手元にないのでうろ覚えの記憶なのだけど、
秋山先生は『子どもたちは夜と遊ぶ』の秋山先生ですね。
『子どもたち~』で真相が明かされなかったエピソードの
解決編にもなっていてにやり。
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253:北村薫 『ニッポン硬貨の謎』

2006-11-20 17:35:54 | 06 本の感想
北村薫『ニッポン硬貨の謎』(東京創元社)
★★★☆☆

エラリー・クイーン好きによるエラリー・クイーン好きのための物語、
といった感のあるミステリー。
エラリー・クイーンの遺稿を著者が翻訳したという形で、
来日したクイーンの関わる連続幼児殺害事件が描かれる。

わたしはエラリー・クイーンを読んだことがないため、
著作に関する謎解きの部分はまったくわけがわからず、
読み飛ばしてしまった。
『六の宮の姫君』は芥川・菊池作品を読んでいなくても
楽しめたのだけど……。
ミステリーもあまり読まないので「お約束」が身についておらず、
抽象的・観念的な犯罪のディテールに、
「どんな必要性が……?」
と思ってしまうのだけれども、
パズルのピースがぴたぴたとはまっていく展開には快感を感じる。
基本的に北村さんの本は悪く受け取れない、という
超個人的前提で★3つ。

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252:高橋文樹 『途中下車』

2006-11-20 15:10:32 | 06 本の感想
高橋文樹『途中下車』(幻冬舎)
★★★★☆

これも『だらしな日記』で紹介されていたもの。
幻冬舎NET学生文学賞受賞作。

両親の事故死をきっかけに、実の妹と性的関係を持ってしまう
大学生の主人公。
淡々とした語り口のせいか、インセスト・タブーの与える
グロテスクなイメージは希薄。
この手の物語は「実は血がつながってませんでした、ちゃんちゃん♪」
という古典的なオチで終わることが多い気がするだけど、
この話は、世間に暴かれる恐怖を描きつつ、そのまま突き進んでしまう。
そこが良いといえば良い。
抵抗はやはり感じてしまうけれど。

いわゆる「妹萌え」というものはまったく理解できず、
男性から見ると魅力的に見えるかもしれない主人公の妹も、
「なにが『アハッ』だ!」
と思ってしまうのだけど、それはわたしが女だからでしょうか。
妹の親友カズちゃんについて、
「恋愛に興味を持ち始めるに連れて…(略)…外見や性格など様々な
ステータスに関して優劣を付けたがる人格へと彼女が変わってしまった」
と述べている箇所があるのだけど、これはなかなかリアルだと思う。

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251:金井美恵子 『待つこと、忘れること?』

2006-11-20 13:24:54 | 06 本の感想
金井美恵子『待つこと、忘れること?』(平凡社)
★★★☆☆

雑誌の休刊によって掲載誌を移動しながら連載されていた(らしい)
食にまつわるエッセイ。
著者の本は『彼女(たち)について私の知っている二、三の事柄
に次いで二冊目。
センテンスの長い文(しかも話題が脱線しがち)に慣れず、
なかなか読むのに骨が折れたのだけど、
おいしそうな料理のレシピにおなかがすきます。
ところどころにさしはさまれる毒舌にもフフッと笑ってしまう。

それにしても、著者の挙げる映画や本は知らないものばかりで
「自分には知らないことがいっぱいあるのだなあ」と
当たり前のことを思ってしまう。

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250:大森望・豊崎由美 『文学賞メッタ斬り!』

2006-11-20 13:12:51 | 06 本の感想
大森望・豊崎由美『文学賞メッタ斬り!』(PARCO出版)
★★★★☆

このところずっと仕事の本しか読んでいなかったので、
久しぶりに趣味の読書。

書評家二人の対談形式による、文学賞受賞作を中心とした
ブックガイド。
「文学賞ってこんなにあったのね~」とか、
「この人はこの賞から出てきたのか……」とか、
初めて知ったことがたくさんあって、楽しめました。
受賞作の話だけではなく、選考の裏話や選考委員にも
言及されていておもしろい。
「選考委員と選評を斬る!」の章で書かれている話なんて、
考えもしなかった楽しみ方。
「選考委員にキャラ萌え」って……
宮城谷先生は選評までも作品そのものなのね。

知らない本ばかりだったけれど、おもしろそうなものは
さっそくリストアップ。
酒見賢一『陋巷に在り』シリーズが読みたい。

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