アンソロジー『女城主 戦国時代小説傑作選』
★★★★☆
【Amazonの内容紹介】
2017年、NHK大河ドラマのヒロインは井伊直虎!
戦国時代、男の名で家督を継ぎ、
戦国時代、男の名で家督を継ぎ、
井伊家を滅亡の危機から救った女城主・井伊直虎のほか、
民を愛し、城を守った姫君たちの気高くも美しい姿を描いた傑作短編集。
義父・真田昌幸に愛された月姫の決断(井上靖「本多忠勝の女」)、
義父・真田昌幸に愛された月姫の決断(井上靖「本多忠勝の女」)、
忍城籠城に際し、領民とともに濠を掘った女城主(山本周五郎「笄堀」)、
夫・立花宗茂への葛藤を抱えながらも凛と生きた
誾千代の生涯(滝口康彦「立花誾千代」)など、
珠玉の六編を収録。
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半分は初めて名を見た作家さんだったのだけれども、
井上靖、山本周五郎、池波正太郎という
レジェンド作家の名が並んでいるだけで、
読む前から安心感がある。
「立花誾千代」だけはどうにもすっきりせず、
小説としての落ちをつけてほしいと思うのだけども、
他は安定しておもしろかった。
「本多忠勝の女」のヒロインのたおやかで透明感を持ちながらも
強い姿が印象的。
池波正太郎の作品は、ネットで調べても、
元ネタが「これかな?」程度にしかわからず、
どこまでがオリジナルなのか不明だけども、
とてもよかった。
【収録作品】
井上靖「本多忠勝の女」
岩井三四二「母の覚悟」
植松三十里「虎目の女城主」
滝口康彦「立花誾千代」
山本周五郎「笄堀」
池波正太郎「夫婦の城」
高山なおみ『高山なおみのはなべろ読書記』
★★★☆☆
【Amazonの内容紹介】
料理家高山なおみが、鼻とベロで味わった本の話と、
そこから生まれた料理の物語。
全24話レシピつき!
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読んだことのある本は少なかったけれど、
エッセイとして楽しんだ。
高山さん、感受性豊かで、
感じたことを文章で表すのも上手な人。
特に情景描写でそれを感じる。
下ネタや不潔に思える要素がたまにあって、
「それは書かないでほしかった……」と思うんだけども、
書くかどうかは著者の勝手であって、
読者が要求することではない。
マイナスに思えること以上にプラスがあれば読むし、
そうでないのなら読まなければいいだけのこと。
奥山景布子『恋衣 とはずがたり』
★★★☆☆3.5
【Amazonの内容紹介】
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わたしの「とはずがたり」との出会いは、
いがらしゆみこの「マンガ日本の古典」版。
わりと衝撃的で、
「迫られてむりやり……と言いつつ、妊娠中に他の男と関係して、
ヒロインも結局ビッチやんけ」
という印象だったのだけども、
いくらか物のわかるようになった今思うと、
ヒロインはすごく痛々しい。
後深草院の光源氏ごっこに巻き込まれて、
十四歳で、初恋の相手であったであろう母の身代わりにされ、
父という後ろ盾をなくしたために、ただの召人扱いで
きさきの一人にもなれない。
院は嫉妬深いくせに、ヒロインを他の男に貸し出し、
当時、出産は命がけの行為だったのに、
ヒロインは何度も妊娠させられて、子を奪われる。
そういう事態を防ぐすべはあったのだろうけれども、
たぶん、不安定な立場だった彼女は、
男に求められることで自尊心を保っていて、
ただ都合のいい女として扱われていることに
最初は気づかなかったんだろう。
二条が実在したかどうかは疑われていて、
「とはずがたり」に書かれていることもフィクションでは?
と言われているのだけども、もし完全なフィクションだとしたら、
これはいわゆる、大昔の「ナマモノを扱った夢小説」。
しかし、こんな夢小説、つらすぎるよ……!!
この本は、タイトルにあるとおり、
「とはずがたり」をベースにしているのだけれども、
二条が最初に生んだ娘が、母の残した文章を読み進めることで、
母を知っていくという形式を取っていることと、
「蜻蛉日記」のエピソードを取り込んでいることが特徴。
「とはずがたり」という作品がたどった運命も踏まえた
展開もあり。
原作自体が愉快な話じゃないから、
これもやっぱり愉快ではないのだけれども、
一度だけ娘に会いにきた二条を、
娘が「天女さま」だと認識していたくだり、
なんとも切なく美しく、とてもよかった。
凪良ゆう『すみれ荘ファミリア』
★★★☆☆3.5
【Amazonの内容紹介】
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最初、富士見 L 文庫から出ていたのは知っていたので、
ほっこり連作短編集だと思って読み始めてしまった。
とんでもない勘違いだった。
レーベルとミスマッチすぎる!!
最初の話から、なんだか嫌な感じがするなぁと思っていたのだが、
不快感はずっと続き、途中から予想を超えた恐ろしいことになっていた。
ほっこりのかけらもない、おどろおどろしい愛憎の物語であった。
後日談の「表面張力」が面白かった。
これくらいの「裏の顔」なら、まだいいよ……。
好み度としては★3.5なんだけど、
人気の作家さんだというのも納得の筆力だった。
アンソロジー『鎌倉燃ゆ 歴史小説傑作選』
★★★☆☆
【Amazonの内容紹介】
2022年大河ドラマの舞台は鎌倉幕府!
北条義時をはじめ、源頼朝を取り巻く鎌倉武士の
北条義時をはじめ、源頼朝を取り巻く鎌倉武士の
壮絶な生き様を描き切った衝撃のアンソロジー。
鎌倉幕府草創期から、二代将軍源頼家の時代に始まった
鎌倉幕府草創期から、二代将軍源頼家の時代に始まった
宿老ら十三人による合議制を経て、
三代将軍実朝の暗殺、承久の乱まで――。
流されるように生きてきた北条義時が
流されるように生きてきた北条義時が
人生を賭けた大勝負に出る「水草の言い条」(谷津矢車)、
“讒訴の奸物"となった梶原景時の生き様を描く「讒訴の忠」(吉川永青)、
権謀術数うずまく幕府において、
畠山重忠が坂東武者の誇りを見せる「重忠なり」(矢野隆)など、
実力派作家七人によるアンソロジー。
目次
水草の言い条――谷津矢車
蝸牛――秋山香乃
曾我兄弟――滝口康彦
讒訴の忠――吉川永青
非命に斃る――髙橋直樹
重忠なり――矢野 隆
八幡宮雪の石階――安部龍太郎
解説 細谷正充
水草の言い条――谷津矢車
蝸牛――秋山香乃
曾我兄弟――滝口康彦
讒訴の忠――吉川永青
非命に斃る――髙橋直樹
重忠なり――矢野 隆
八幡宮雪の石階――安部龍太郎
解説 細谷正充
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長い間、読もう読もうと思っていたものをやっと読んだ。
熟成期間が長すぎて、期待が高まりすぎていたかもしれない。
「衝撃のアンソロジー」とあるけれど、衝撃はもちろんのこと、
「新しさ」があまり感じられなかったのは残念。
自分が歴史小説に求めるものが
「史実をふまえた上のオリジナリティ」
なので、特に好きな時代を扱ったものは、
どんどんハードルが上がってしまう。
同じ時代を扱った作品をたくさん読む
→慣れてしまう
→ちょっとやそっとのことじゃ新しさを感じなくなる……
という感じ。
長編よりも短編のほうが新しさを出すのが難しいのだろうし、
特に義時や景時は、永井路子先生がずいぶん昔に
すでに鮮やかにやってしまっているから、
苦しいのだろうとは思う。
しかし逆に言えば、ひねった描き方がされていないので、
まったくこの時代・人物を知らない人にとっては
入門編としていいかもしれない。
収録されている多くの作品で、
ダイジェスト的な「史実の紹介パート」が目立つのも気になった。
小説というより説明文みたいになっている。
上手い作家さんだとちゃんと「小説の地の文」になるんだけど、
これは何が違うんだろう。
情報を必要最低限にしぼっているから、
他の部分と文体に差が出ていなくて、なじんでいるのかな。
面白かったのは頼家を描いた「非命に斃る」。
エピソードを一通りさらいつつも 説明文になっていなかったし、
独自の味付けがされていて、小説として 完成されていた。
時房の描きかたにも、珍しい要素が入っていたし、
序盤の訴訟のエピソードを終盤で回収する構成も面白い。
町田そのこ『コンビニ兄弟―テンダネス門司港こがね村店―』
★★★☆☆3.5
【Amazonの内容紹介】
九州だけに展開するコンビニチェーン「テンダネス」。
その名物店「門司港こがね村店」で働くパート店員の日々の楽しみは、
勤勉なのに老若男女を意図せず籠絡してしまう
魔性のフェロモン店長・志波三彦を観察すること。
なぜなら今日もまた、彼の元には超個性的な常連客(兄含む)たちと、
悩みを抱えた人がやってくるのだから…。
コンビニを舞台に繰り広げられる心温まるお仕事小説。
6編の連作短編集。
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わたし、モテモテのイケメンにあんまり興味がないみたい……。
たぶん、この店長が本作の魅力のひとつであろう、というのはわかるんだけど、
彼のモテっぷりを描いたプロローグと最後の話、
自分が無表情で読んでいるのに気づいた。
あまりにも漫画的だから白けてるのかな……?
自分の心理がよくわからないけど、
このキャラ設定が好きじゃないのは確か。
そんなわけで序盤は「読み切れるかな?」と心配になっていたのだけど、
第3話からぐっとおもしろくなって、中盤の第3~5話はかなり好き。
チェーン展開していて独自色の少ないコンビニを舞台に
どうやって「お店もの」を展開するのかな? と興味があったんだけど、
生活に密着したコンビニだからこそのオリジナル設定があり、
それが生きていた。
小玉ユキ『青の花 器の森〈1〉・〈2〉』
★★★☆☆
【Amazonの内容紹介】
長崎・波佐見を舞台に始まる、器と恋の物語
波佐見焼きの窯で絵付けの仕事をしている青子。
波佐見焼きの窯で絵付けの仕事をしている青子。
その窯に、海外で作陶していたという龍生がやってきた。
無愛想で人を寄せ付けない龍生に「絵付けされた器に興味ない」と言われ、
自分の生き方まで否定された気持ちの青子だが、
反発しながらも龍生の器に惹かれていき…?
器に魅せられた男女が出会ったことで、大人の恋が動き出す--!
器に魅せられた男女が出会ったことで、大人の恋が動き出す--!
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わかっています。
作劇の問題として、ツンデレは最初にマイナス面が強く出たほど、
デレの効果大で盛り上がる……って。
でも、大人だし社会人なんだから、
「付き合いが始まったばかりの相手を不快にするような態度は避ける」
という最低限の礼儀は守ってほしいよ……。
どんなつらい過去があろうが、全くの他人に対してそれは免罪符にならんのやで……
とヒロインの相手役であろう男に不満が募るのだが、
器の魅力は十分堪能できた。
鎌谷悠希『ぶっしのぶっしん 鎌倉半分仏師録 〈1〉・〈2〉』
★★★☆☆3.5
【Amazonの内容紹介】
時は鎌倉時代。
半身を失いし、少年仏師・想。
彼には、神仏を喚び、ともに闘う“力”があった――。
東大寺を突如襲う異変を前に、想は己に眠る“力”の解放を迫られる…。
時代が、仏師たちが、仏像たちが、いま動き出す!!
「隠の王」の鎌谷悠希が放つ、かつてないスペクタクル仏像絵巻。
第一巻いよいよお目見え!
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仏師が仏像でバトルする、なかなか斬新な、
かなり人を選びそうな歴史ファンタジー。
奥州が頼朝の支配下におかれた直後から物語は始まる。
頼朝や運慶、教経といった実在の人物も登場するし、
仏像についても作者さんがきちんと勉強されたのがわかる描き方で、
好きな人は好きなはず。
明星菩薩と主人公だけでなく、他の登場人物についても
セリフが誰のものかがわかりくいところがいくつかあって、
特にまだそのキャラが登場したばかりの時期は
すんなり情報処理できない……という欠点もあるんだけど、
絵はきれいだし、作者さん独自の世界観や絵柄が
確立されているという安心感がある。